表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第一章 妹幼女の白パンはオムツでした
20/62

大精霊の秘術と言う名の

 夢を見ていた。

 思い出せない、昔の夢。


 まだ4人で暮らしていた頃。

 笑ったり泣いたり、怒ったり怒られたり。


 2人になった頃。

 泣いたり、泣いたり。無理やり笑ったり、やっぱり泣いたり。


 2人で暮らしていた頃。

 笑ったり泣いたり、怒ったり怒られたり。


 そして―――



―――   ―――   ―――   ―――   ―――



 目が覚めると、見覚えのない天井だった。

 何年も過ごした家でも、数日過ごした部屋でもないようだ。


 起き上がろうとして、あまりにもだるい身体に脱力する。


「おふとん……」


 二度寝の呪文を唱えると、オレは寝返りを打って再び微睡の中へダイブ。

 次こそは、笑顔いっぱいの夢を―――


「目覚めたか。

……寝なおすな、起きろ」


 オレの惰眠を蹴散らすように、容赦なくはぎ取られる布団。


「うう、ひどい」

「せっかく目覚めたのだ、きちんと起きろ」


 布団を奪い取り、見下ろして言い放たれる冷たい言葉。


「あー……だるくて起き上がれないー……」


 異様なまでに身体がだるい。

 身体が重くて動かない。


「まあ、そうだろうな。

 仕方ない、起こしてやるから椅子に座れ」


 だらけたオレの身体を引き起こして、肩を貸してくれる。

 よたよたと歩き、重い体をなんとか椅子に乗せた。


「あー……だりぃ……」

「だるすぎだな」

「だって、だるいもんよー」


 背もたれから余った頭を、ぐでりと垂らし。

 四肢も投げ出し、死体のようにだらけるオレ。


 しかし、本当にありえないほどだるい……

 熱さも寒さも感じないけど、ひどい風邪でも引いたのかもな。


「空腹は?」

「あー、お腹空いてるねぇ。

 のども乾いてるねぇ」

「わかった」


 斜め後ろを見上げるオレの頭を抱え、水を飲ませてくれる。

 少しだけ、身体が覚めた気がするな。


「手のかかるやつだ」

「ありがとさーん」


 手が持ち上がらないので、目線だけで礼を言う。

 表情を変えずに一つ頷くと、テルスは―――


「テルス!?」


 緑の髪に、緑の瞳。

 緑一色の服のエルフは、オレの大声にわずかに眉をひそめた。




「な、なんで、死んで、えええ!?」

「落ち着け。私は生きている」


 身体のだるさを忘れて立ち上がり―――

 力が入らず倒れそうになるのを、慌てて抱えて座らせてくれるテルス。


「だってお前、オレの前で、光になって、それで」

「説明してやるから落ち着け。

 食事を用意し、長を呼んで来よう。それまで、まずは待て」

「……わ、わかった」


 身体のだるさもだが、強烈な空腹感にも倒れそうになる。

 飯がもらえるなら欲しい、でもテルスなんで生きてんだよ!




「ツバサくん、おはよう」


 それからしばらく―――たったのかどうかよく分からない。椅子に座ってうとうとしてたから。


「オーワンさん、おはようございます。

 マーリィさんもおはようございます」

「おはようございます、ツバサ様」


 オーワンとマーリィさんが部屋に入ってきて、手にしていた盆を卓に置いた。

 マーリィさんに抱えられて眠ってるマユリちゃんも一緒だ。

……なんか、前見た時よりでかくなってるような。


 オレの座ってる椅子の他、2脚しかない椅子に2人が座る。

 最後に入ってきてテルスは、当然のごとく壁際に立った。


 やっぱりテルス、生きてるなぁ。足もあるなぁ。


「急な食事も良くなかろうと、汁物にしておいた。

 少し足りないかもしれないが、今はこれくらいにしておいてくれ」

「わかりました」


 ちょっと物足りなさそうだが、別にいいさ。

 なんとか食べようと思って、腕を……


「ぬ、ぬぅぅ……!」


 恐ろしい程のだるさ対、ぶっ倒れそうな空腹感。

 軍配は僅差で空腹感に上がったようで、なんとか持ち上がった腕でスプーンを握る。


 だ、だるい、腕を動かすだけでもきつい……!


「枯渇状態が酷い様だな。

 仕方ない、私が手伝ってやろう」


 なんとなく楽しそうに、オーワンがそう言ってくる。


 え、ちょっと、え!?


「そら、口を開けろ。食わせてやろう」


 お、おっさんに『あーん』とかされるんですとぉっ!?


「え、あ、ぁ」


 呻きつつも、しかし独力で食べるにはつらい。

 マーリィさんに目線で訴えてみるが、マユリちゃんを見ていてこっちを向いてくれない!


 っていうか、赤ちゃん抱えてるんだからさすがに無理だよね。



 諦めて、おっさんに、食わせ、て、もら、う。



 これは、あれだからね!

 あーんじゃないんだからね!

 雛鳥みたいなもんなんだからね!



 空腹のせいか、食事はひたすらおいしかった。

 これで、食わせてくれるのがマーリィさんだったなら……くうう。

 そしたらきっと、よく味なんか分からないんだろうけどさ。


 人心地ついたところで、改めて問う。


「で、確かに光になって散ったはずのテルスが、どうして生きてるんだ?」


 最初の驚きは収まったとは言え、やはりまだ信じられない気持ちでいっぱいだ。

 確かに、オレの目の前で、テルスは散ったのだから。


「テルス、ツバサ様に戦闘前にお教えしてなかったのですか?」

「ああ。長の指示でな」

「うむ。私も口止めされていたからな」


 オレの質問を受け、回答ではないことを言い合うエルフ達。

 いや、内輪で話してないで教えて欲しいんですけど。


「今はもう答えて問題ないからな、私が教えよう。

 テルスが助かったのは、リーファディオル様の秘術だ」

「秘術って……蘇生とかあるんですか?」


 死者蘇生と言えば、ある意味で究極の回復魔法だ。

 そんなものまであるのか……


「そうではない」


 というオレの感慨を、あっさり否定するオーワン。


「簡単に言うと、最初からテルスは、実体のある分身だったのだ。

 テルスだけではない、蝕天で戦ったエルフ達全員がな」

「なんと……」


 あのテルスが、偽物?だったってのか。


「その名を森生庭園エルガルド

 リーファディオル様の術の中でも、究極と言っていい秘術だ」


 リーファディオルの眷属たるエルフ達の分身を作り出す術。

 対象はエルフのみとか、森から出られないとか、その他すごい量の制約はあるらしいが。

 ある意味で、死者蘇生以上の大技だ。エルフの集団を、全員分身させたのだから。


「そのおかげで、今回の蝕天では死傷者はゼロだよ。

 ツバサくんを除いてな」

「……」


 ってことは、あれか。

 もしかして、いやもしかしなくても、


「すまんなぁ、ツバサくん。

 なんでも、テルスが死んだ時には号泣したそうじゃないか」


 くっくっくと笑いを押し殺しながら、オーワン。


「な、ちが、別に!」

「恥ずかしがることではございませんわ。

 数日共にしただけのテルスのために涙を流して下さる、それだけでも私たちはあなたと会えたことをリーファディオルに感謝いたします」

「う、うう……」


 嬉しそうなマーリィさん。邪気はない。

 楽しそうなオーワン。わりと邪気だらけ。

 無言を貫くテルス。居心地悪そう。

 寝てるマユリちゃん。かわいい。


「ちなみにその時の光景は、リーファディオル様の好意・・でばっちり見せてもらった」

「はい!」

「ち、ちくしょー!」


 生きてて良かったよこんちくしょう!


 テルスが生きてて、本当に良かったよすっとこどっこい!!


流した涙は、けして戻らず。

男は、流した涙の数だけ、強く優しくなれる。かもしれない。


次回『この世の春、モテ期』


―――色々をおいといて。生きてたことを、今は喜べばいい


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ