くまさんと初めての○○
女の子はいいね。
触ってよし(願望)
揉んでよし(妄想)
嗅いでよし(変態)
もう、可愛い子が好きで好きでたまらないんだ。
町とかで見かけたら、速攻押したお近づきになって仲良くしたいよね!
ちょっとくらい若くても、ちょっとくらい年上でもばっちこい。女の子最高。
巨乳ならなお良し、爆乳ならさらに良し!
え、くま?
熊っこか。斬新だよね。
……リアル熊?
いやいやいや、日本の町にそんなのいるわけないじゃないか。
でも、それって。
もしもここが、日本じゃなかったら?
もしもここが、町じゃなかったら?
うん。確か、死んだふりっていけないんだよね。
えーっと、あとは―――
――― ――― ――― ――― ――― ―――
熊のようなもの、とは我ながら的確な表現だろう。
① 体調がオレの倍くらいある
許可。まあ巨大熊だって、どっかにはいるよね。
② 爪の長さが顔ぐらい
許可。黒い仮面のベアク□ーって、確かそのくらいだよね。
③ 口元から火がちろちろしてる。
きょ…か。きっと火の鳥とか食べたんだよね。
④ 2本の角がある
きょ……か、できねぇぇ!
「何あのくま!?」
「何って、あ、くま?」
「うまい事言ってんじゃねーよ!」
思わずスフィの後頭部を叩く。叩いた方の手が痛かった。
こちらの騒ぎを聞きつけ……なんてわけじゃない。
だってあの熊さん、最初からオレたちの方を向いてたから。
「ヒグイグマ、レベル11の魔物である。
武器は強い力で振り回される長い爪。やわい鎧くらい中の人ごとばっさりいくだろう」
「物騒な解説ありがとよ!」
「ちなみに口から火を吐くのは食材をこんがりおいしく食べるためらしい。
火炎のブレスといった攻撃手段としては確認されておらず、あくまで食材を料理するためにのみ用いられる、とのことだ」
「食材とか料理とか非常に不要な解説嬉しくねぇ!」
オレの抗議が遺憾であったか、熊さんことヒグイグマはこちらに向き直り。
軽く体を屈め―――
いきなりダッシュしてきやがった!
「ぎゃわーっ!」
「ひらり」
悲鳴を上げながら避けるオレの真横を横切る!
振るわれた腕からぶわりと叩きつけられた風圧だけでよろめき、思わずしりもちをつく。
腕の先にあった大木があっさりと切り倒され、地響きとともに大きな音を立てる。
その腕の先の木を少しだけ不思議そうに見下ろした後、ヒグイグマは再びこちらに振り向いた。
「あ、あわわ、にげ、にげ……!」
立ち上がることも出来ず。
目をあわせたまま、ずりずりと後退。
背中が木にぶつかった。後退しようと体は這うが進まない、進めない。
わたわたと手を振って、後ろ手に木に抱き着いて。
そんなオレに容赦なく、ヒグイグマは再度身を屈めた。
「あ、あ……」
そして。
突っっっっ込んできたーっ!
ごうん、ざしゃぁ、どごん。
そんな感じの音が聞こえた。
完全に腰を抜かし、上を見上げながら漏らしたオレ。
情けなく開いた足の間に、縮み上がったマイサンの数センチ先に、ヒグイグマさんのおみ足と短い爪が地面に突き刺さり。
真っ直ぐ突き出された手の爪は、頭上50センチぐらいのところで木に突き刺さり。
爪の刺さった所からへし折れた木が、ゆっくりと、傾いていき―――倒れた。
「 … ……」
ヒグイグマさんのお口の端から、ふしゅるっと火が噴きだす。
ゆっくりと腕を戻すと、カッコいいお姿のままばっと飛びのいて。
なぜか今度は、横手の木に向かって爪を古い、森を破壊し始めた……
あ、えっと、ぼくとか、お肉少ないし?
ていうかおなか空いてないし、みたいな?
そんなんで、無視してくれ……た? の?
「ツバサ、熊に怯えて失禁」
「あ、ぁ……?」
聞こえた声に顔を向けると、反対側に逃げていたはずのスフィが真横に立っていた。
ヒグイグマさんはぼくらを見向きもせず、破壊活動継続中だ。
「生きてるかね?」
「ぅ、うん」
「僥倖だ。この程度で死なれては我も困る」
スフィは一つ頷くと、ローブから手を伸ばしてあのヒグイグマさんを指さした。
「ここで生きるためには、時にはああいった手合いともやり合う必要があるだろう」
「……」
「無論、町でぬくぬくと生活することもできる。
記憶のない汝には難しいかもしれぬが、何も望まないのであれば安全な中でゆるやかに生を送る手もあろう」
「何も、望まないなら……」
「そうだ。
叶えたい望みがあるなら、叶えるための努力をすればいい。
あるいはそれは安全な生であるかもしれないがな」
「オレの、望み……」
ベッドに横たわる、儚い少女。
オレを見つめる、寂しげな笑顔。
そして。
抱くことも、頬に触れることさえできず、落ちた―――手。
「―――望みがある」
「そうか」
オレの呟きに、スフィは一つ頷いた。
それからオレの頭を小さく撫でてくれる。
不思議と、それだけで激しい恐怖や不安が落ち着くのを感じた。
あるいは、心に望みが強く輝き、恐怖や不安を押しのけたとでも言うんだろうか。
ヒグイグマを見ても心が騒がず、波紋が収まるように心が澄んでいくのを感じる。
「ならば、まずはあの魔物を退けなければならん。
しかし残念ながら、我に戦闘力はない」
「え、そう……なの?」
「もちろんだ。我はか弱いからな」
どこか偉そうに言い放つスフィ。
ヒグイグマが現れる前と変わらない態度に、なぜか安堵する。
「だから、あれを倒すのは汝の役目だ」
「いや、そんなこと言っても倒せるわけないよな?
武器もないし、たとえ銃とかあったって腕の一振りで大木両断するような奴無理だろ!」
「武器など必要ない。
しいて言えば、汝そのものが武器のようなものだ」
「玉砕!?」
「阿呆」
淡々とした声に、どこか呆れと楽しげな気配を乗せて。
「やはり理解しておらぬようだな。
汝の宿した、異常なまでの精霊力を」
「せいれい……りょく?」
「精霊力。
世界に満ちる精霊の欠片、命に宿りし可能性のかたち、半身を統べる未来の続き」
どこか歌うように、あるいは信託でも下すかのように、スフィが告げる。
その声に感じるものでもあったか、暴れていたヒグイグマが立ち止まりきょろきょろしだす。
「講義はまたの機会にしてやろう。
今は、座学よりも実践が必要だ」
「……じっせん」
「実践。理論や知識を実際の行動に移すこと」
「意味はわかるよ!」
そこまでアホじゃない!
「それは良かった。
汝の様子は―――ちょっと失礼」
向き直り、両手で包むようにオレの手を掴むスフィ。
ほっそりとした指がオレの手のひらを這う。
「あ、ぁ……ちょ、あんっ」
「なんと、冒険者のみか……」
あ、もう終わり?
手を離して落胆するスフィにちょっとがっかりしつつ、掴まれていた手のひらを握る。
なんだろ、すげー気持ちよかった。
ちょっとやばかった。あんまりされるとヒグイグマだけじゃなくスフィに対して臨戦態勢になっちゃう。
「まぁ、試してみよう。駄目ならば次の手を考えればいい」
「何を、試すんだ?」
いけないいけない。
余計な考えを振り払うため、手のひらを服でこすった。
「汝の魔法だ」
「魔法!」
角熊が火を吐いたと思ったら、次は魔法か!
あれ、これって夢やゲームかなんかじゃないの?
「汝の精霊力なら、なんとかなるやもしれぬ。試してみよう」
再びヒグイグマさんを指さすスフィ。
あわせて振り返るヒグイグマの双眸に、思わず逃げたくなる。
「望みがあるのだろう?」
「―――おう」
だが、タイミングよく掛けられたスフィの声に、踏みとどまる。
心が、この場に踏みとどまる。
「ならば、自分の足で立て。
そして、手をかざせ」
頷く。
立つ。立てる。
濡れた股間がほんのり心を折りそうになるが、考えないようにする。
夢ならやれる。
ゲームでもやれる。
―――多分、なんとなく、今のオレならなんでもやれる!
「手の先に、身体の中の力と意識を集中する」
「手の先に集中……」
集中。
よくわかんないが、集中。
血がいっぱい集まれ。
気とかオーラとかも集まれ。
手の先に集まれ。
「ヒグイグマを見据えて、熊を燃やすと念じろ」
熊。
口から火をにじませる熊。
焼き肉、焼き熊、熊鍋、ステーキ、ステーキ!
「我に続けて歌え、叫べ。己に宿る精霊力を解放するのだ」
「わかった」
手の先に集中。
熊はステーキ。
なんだか手の先が熱いようなかゆいような。
手の先に集中。
こんがり焼いたらきっとおいしい。なんせ熊だって肉を焼くんだから。
だから熊はステーキ。こんがり。
「火の精きたれ、我が手元」
「火の精きたれ、我が手元」
スフィの厳かな声を真似て、オレも同じように呟く。歌う。
手の先にステーキをこんがりしながら。
―――ふいに。
ああ、そうなんだ、と。オレは叫ぶべき言葉を、理解した。
だから、スフィの後にではなく、スフィと共にオレは叫んだ!
『着火!』
木々を軽々と爪で切り飛ばす熊さん。
対するは、漏らして冷たい阿呆のツバサ!
その手に精霊力は集うのか、熊さんはステーキになるのか!?
次回『黒い熊たんは味も炭』
―――あかごがすなるおむつといふものを、おとこもしてみんとてするなり。