表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第一章 妹幼女の白パンはオムツでした
19/62

蝕天・其の一 決着

 ついに来ました最終決戦!

 あれで何なボスを相手に、今度こそ大立ち回り……


 なんてことはないわけで。

 そりゃぁもう、力押しで瞬殺ですよ。

 今後の基本パターンとなる、精霊力にものを言わせた一撃必殺。


 勝てるなら一番安全確実なこの展開で戦っていけばいいし。

 ずっとこの展開に頼るから、後々苦労したりしなかったり。



 ま、ともあれ。いってみますかね。



―――   ―――   ―――   ―――   ―――



 一目見て、そいつが主であると分かった。

 なぜなら、とにかくボスっぽかったからだ。

 これで主じゃなかったら、色々問い詰めたい。

―――さておき。


 外見、一言で言うならゴ○ラ。

……ちがうな、これじゃ分からないよな。ゴジ○だ。

 背びれを生やしたトカゲが二足歩行でのしのし歩いてる感じ。

 サイズは意外と小さく、色は茶色っぽい感じだ。背びれだけが緑。


 口の端からちろちろ見える炎は、きっと核……なんかじゃないと信じてる。うん。


「ゴルガジラ、レベル56の大物だな」


 また酷い名前だなおい!

 誰だこの名前つけたの、微妙に伏せようとした努力がにくいね。


「少なくとも、この森に出るような敵ではありえない」

「ん、どういうことだ?」

「来るぞ!」


 スフィの返事を遮るように、こちらを向いたゴルガジラの腕が振り上げられ。

 それほど速くはないが、身体ごと倒れこむように地面に向けて振り下ろされた。


 ずだぁぁんと大きな音がして、叩かれた地面がべこりと陥没する。

……人間くらい、簡単にぺっちゃんこだな。当たれば。


「まずは我が魔術の手本を見せよう。

 一発で覚えろ」

「え?」

「いいな、覚えろよ。

 汝は、すでにこの魔術を覚えるだけのレベルがある」


 そういうと、ローブの裾を払って立つスフィ。

 手を引いて立ち上がったゴルガジラが、自分の足元に立つちっぽけな人間を見下ろす。


「集え精霊、我が敵を討て!」


 その手が振り上げられるより早く、スフィの詠唱が一瞬で完成し。


魔矢ボルト!」


 翳した手の平から、手の平より少しだけ長い程度の魔法の矢が生まれて飛んだ。

 ぱしんと軽い音を立て、ゴルガジラの腹に当たって魔法が弾ける。


 ようやく振り上げられた手を待つわけもなく、スフィはオレのところへ戻ってきた。

 数瞬遅れて、再び振り下ろされた手の平が木々をへし折り大地を揺らす。


「覚えたな?

 あれが冒険者の覚える攻撃魔法、魔矢ボルトだ」

「……覚えた、と思う」

「よし」


 一つ頷くと、スフィはオレを見上げて。


「では、我が囮として時間を稼ごう。

 ありったけの精霊力でぶっぱなせ、一撃で消し飛ばしてみろ」

「お、おおお?

 それはなんぼなんでも―――」

「できる」


 オレを遮って、断言するスフィ。

 いつも通り見えない顔で、どこか笑ってみせて。


「不肖の弟子よ。

 今度こそ、頑張るのだろう?」

「……だ、駄目元で良ければ、やってみるだけは」

「情けない……」


 しょ、しょうがないじゃん、まだちょっと怖いし自信はねーよ!


 そんなオレを、それでも見捨てず手を握り。


「正直、今の我の精霊力では、どうあってもあれにとどめは刺せぬ。

 お前がやらぬなら、逃げるのみだ」

「……できるのかな、オレに」

「試しにやってみろ。

 それで駄目なら、一緒に逃げてやろう」


 オレの手を包む、柔らかく温かいスフィの手を。

 相変わらず見えない顔を。

 見えないのに微笑む、スフィを見て。


「―――わかった」


 よし、腹をくくろうじゃんか!


 詠唱はごく短い、覚えた。

 いや、覚えたってのは違うのかな?

 オレの中にあの魔術が習得されてるってのが、なんかこう、分かるんだよ。

 だから、オレの中に詠唱だって、あるんだ。ノートを開くとか、ファイルを開くみたいに呼び出せる。


「やってみる。

 だからスフィは、無傷で戻ってきてくれよ」

「無傷とは、欲の皮の張った奴め」

「師匠には、元気で長生きして欲しいもんだからな」


 笑いながら。


 オレの精霊力よ、スフィに伝われ。

 スフィを護ってくれ。


 そう、つないだ手に気持ちを込めた。


「慌てなくていい、めいっぱい集中しろ。

 二発目はないと思え」

「了解」


 オレの返事に、一度だけ強く手を握り。

 スフィは森林破壊を繰り返すゴルガジラの前へ向かった。


 と―――


「スフィ!」


 いきなり吐き出された炎が、あっさりとスフィの身体を飲み込み森を焦がす!


魔矢ボルト!」


 しかし気づけばゴルガジラの背後に立っていたスフィが、気を引くために魔術を放つ。

 いつの間にあんなとこまで……


「っと、そんな場合じゃなかったな」


 スフィなら大丈夫だ。信じよう。

 オレは、オレに出来ることをしなければ。


「駄目元だめもと、やってみるだけ」


 よし、おまじないおっけー、やるぞ!



 両手を前に突き出し、軽く重ねる。


「手のひらに、集中」


 ヒグイグマを燃やした時も思い出せ。

 手のひらに集中。

 オレの中の精霊力を、手のひらに集中。


「あいつを、撃ちぬく」


 ゆっくりと手を持ち上げていき。

 ゴルガジラの頭部に向けて、構える。


「手のひらに集中」


 前とは比べ物にならない熱が、力が、手のひらに集まるのを感じる。


 腕を振りおろし、尻尾を振り回すゴルガジラ。

 そのほとんど動かない頭部に、手のひらを向けたまま。


 手のひらに集中。


 手のひらに集中、手のひらに集中!


「集え精霊」


 手のひらを、身体中を、熱と力が駆け巡り。


 重ねて翳した両手の向こう、手のひらの先に。

 小さくも、強く眩い光が生まれ。


「我が敵を討て!」


 手のひらに集中。

 オレの全てを込め、一撃で全てを消し飛ばす。


 その光が急速に育ち、真昼の太陽もかくやと強烈な光を放ち。

 凝縮された超密度の精霊力を、必死で構えて、なお渦巻く精霊力の全てを込めて解き放つ!


魔矢ボルト!」



 ずばあああぁぁぁぁぁ…ん……



 翳した手の平から、天へと迸る光の奔流。


 森を、空を、世界を埋め尽くす強烈な閃光。


 オレの放った魔術の矢は、さながらアニメのなんちゃら波とか波動なんちゃらのように、ゴルガジラの上半身を消し飛ばし空へと吸い込まれて消え。




 勝ち鬨を挙げることも、勝利の余韻に浸ることもできず。


 空へ消えた自分の魔術を見届けることさえなく、オレは意識を失ったのだった―――


ついに放たれた、ツバサ自身の魔術。

空を貫いた光は、戦いの終わりの鐘にして。

冒険者として歩む二人の祝砲であり、旅立ちの狼煙となる。


次回『大精霊の秘術と言う名の』


―――戦いは終わり。満ちていた月はようやく欠け始める


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ