蝕天・其の一 終戦
【 前回分 ダイジェスト 】
レッドジュエルを倒すため、ツバサからスフィへ精霊力を受け渡すこととなった。
方法の前に覚悟を問われ、命以外の主義や心を賭すことを告げるツバサ。
スフィはツバサの覚悟に頷くと、精霊力をもらうための行為を行った。
誰だよ!
『待ちに待ったエロです』とか!
『ついについにエロ回です』とか!
そういう風に言ってたやつは!?
―――あんなの、あんなの
エロ回はエロ回でも、腐女子向きじゃないかーっ!
ていうかお前らは笑ってればいいかもしれないが、オレはもうお婿にいけないよ!
あんな、あんなに、気持ちよくて、その
うあーじたばたじたばたじたばた……
――― ――― ――― ――― ―――
立ち上がると、スフィは大きく伸びをした。
相変わらず不自然に顔は見えないが、どことなく晴れ晴れしてるような、胃もたれしてるような雰囲気だ。
「まったく……呆れた精霊力だな。
初めての我にここまでさせるとは」
「うっうっ……お婿にいけない……」
痛みさえ忘れるほどの、強烈な絶頂感とだるさ。
指一本動かせないけど、心だけでも丸くなってやる!
「大の字で、股間を晒したまま言うセリフではなかろう」
「う、うええぇ」
まじで泣きたい!
「ふむ……実に見苦しい」
「スフィがしたんだろーが!」
「命のため、覚悟の上だろう?
それに、我に愛されて、あれほどあられもない声をあげていたくせに」
「やめて! 言わないで!」
「くくく。我が口で五度も達しておいて、今更言うなもなかろう」
邪悪な笑みに恐ろしくなる。
「可愛かったぞ、我が弟子よ。
濃密過ぎる精霊力に、持て余し気味な感は否めぬがな」
「ていうか精霊力って、オレの出したものの事、なの……?」
色々がぶっとんでて忘れてたけど。
そういえば、そこって一応大事だよな。
「厳密には違う。
そうだな、今度きっちり教えてやろう」
「お、おうぅ……」
嬉しいような怖いような。
また気持ちよくてたまらないような、けしてハマってはいけないようなっ!
「さて、時間がない。
さっそく行くぞ」
「行くって、どこへ?」
「阿呆。レッドジュエルを倒すのだろうが」
すんません、完全に忘れてました!
「……完全に忘れていたって顔だな」
「う、うぅ……すみません……」
「まぁ、それだけ我の奉仕が良かったということか。仕方あるまい」
「そ、そうかもしれないけどそれってちょっと!」
「いいから行くぞ」
そう言うとスフィは、オレに向かって手を翳し何事かを呟いた。
「お、お?」
「初歩の回復魔法だが、今の精霊力なら十分だろう」
スフィの言葉通り、痛みが引いて身体が熱くなる。
だるさも消え、オレはゆっくりと立ち上がる。
「まだところどころ痛いけど……」
「無理しなければ大丈夫だろう」
言うと、スフィはオレの手を取った。
「さ、いくぞ。
時間はない、速やかにレッドジュエルを殲滅する」
スフィの手は、やっぱり柔らかくて暖かくて。
触れてるだけでも気持ち良くて、どきどきしてしまった。
さっきまで、この手と唇が……!
スフィに連れられ歩くことすぐ、戦いの匂いがする場所に舞い戻った。
爆発により広く薙ぎ払われた森、辺りには焼け焦げた木々。
爆発の威力が大きすぎたのか、あるいは誰かが消し止めたのか。火事の様子はとりあえずない。
こんなすぐ近くなのに、これっぽっちも気配やら匂いやら気づかなかったのか……
熱気はもうないとは言え、すっかり集中してたというかごにょごにょ。
「ふむ、まだ回復してないな。では始めよう」
スフィの視線の先には、半分になって動きを止めたレッドジュエルがいた。
巨大な球体は綺麗に真っ二つ。
足は3本だけ、力なく地面に垂れ落ち。
弱い火が身体を包み、時々吹く風に揺らめいている。
「我と汝は共に戦うパーティだ」
「お?
おう、見てるしか出来ないけど頼む」
「心得た」
言うと、つないでいたオレの手を離し。
「一撃で決める」
スフィは真っ直ぐに両腕を突き出し、何かを包むように両手を構えた。
そうして、精霊力を集中させていく。
「よく見て、覚えるがいい。
次回は汝自身で倒すのだからな」
「了解、師匠」
スフィ師匠の両手の間で、精霊力が目に見える程に白く輝く。
テルスの大魔法の時よりも遙かに、強く激しく。
「万物への終わりにして始まり
動くもの亡き凍てつく凍気よ」
ゆっくりと両腕が動くにあわせ、手の間の白い光が軌跡を引く。
空に描かれる、文字のような記号のような魔術。
「血肉の熱を払い、断ち
万物命の火を穿つ慈悲なる一撃を」
複雑な線を引き終わったスフィ師匠が、最後の一筆を引くため、両手を振り上げ―――
「凍激無鞭」
叫ぶでもなく、静かに詠うその言葉にあわせ。
振り下ろされた両手に従い、宙に浮いた軌跡が鞭のようにレッドジュエルの胴体に迫る!
びしゅり、と。半球の胴体を、白い鞭が貫き。
「……」
爆発、するのか?
しない、のか?
「……」
オレ達二人の見守る前で―――
「お、おお!」
「―――ふ、当然だ」
レッドジュエルの半身は、突然真白く凍りつき。
次の瞬間には砕け、辺りを舞う氷の塵と化したのだった。
激戦の果て、ついに主は砕け散った。
つかの間の喜びに浸るツバサとスフィ。
しかし現実は、ゲームのように単純で楽天的ではなかった。
次回『蝕天・其の一 戦の後』
―――出会いに別れは付き物なれど、それはあまりにも早く。




