表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第一章 妹幼女の白パンはオムツでした
14/62

蝕天・其の一 停戦

 そういえば、あのイケメンってさ。

 あいつ自分で『森術師は低レベル』とか言ってたよな?


 ばりばり嘘じゃんかよ!

 低レベルな奴が、あんなすげー魔法使うんじゃねーよ!


 いや、その嘘に救われたってのもあるよ?

 あるいはあいつイケメンだから、この程度じゃまだまだ三流とか思ってるのかもしれないよ?


 でもやっぱり、納得いかない。

 世の中はもっと、イケメンに冷たくあるべきなんだ!


                    フツメン代表の心の叫びでした。



―――   ―――   ―――   ―――   ―――



「……ん、ぅ……」

「気が付いたか?」


 掛けられる、どこか柔らかく優しい声。

 その声にすくいあげられるように、ゆっくりと意識を、瞼を開ける。


「う、ん……」

「おはよう。無事で何よりだ」


 柔らかくも優しい、澄んだ声。

 高くも低くも感じられる、性別を感じさせぬ声。


 それは、いつか森で出会った、ローブに三角帽子の怪しい人影だった。


「スフィ……?」

「そうだ。

 しばらく見ぬうちに、少しはたくましくなったようだな、弟子よ」


 弟子、か……


「師匠だったの?」

「なんと恩知らずな馬鹿弟子め。

 魔法を教え、魔物を倒し命を守る術を教えた師を師とも思わぬとは」

「そういえばそうだったなぁ……」


 ああ、そんなこともあったな。

 あの時は、ただただ魔物が怖くて


「魔物!」


 思わず飛び起きる。


「うぐぁ」


 いや、飛び起きようとして、身体中に走った激痛にたまらず呻いてダウンする。

 再び落ちた頭が、柔らかい枕に受け止められた。


「って、スフィの膝枕!?」

「どうかしたのか?」


 平然と、真上からオレの顔を覗き込んで尋ねるスフィ。


「いや、この距離は興奮するより前に恥ずかしいよ!」

「……この状況下で真っ先に興奮がどうとか言えるだけ大したもんだ、このゲス野郎」


 いつものように、ちょっとぞくぞくする蔑んだ声で。

 むんずとオレの前髪を掴んで頭を持ち上げるスフィ。


「いててて、はげるはげる!」

「はげてしまえ」


 そして首を折るように頭をどかすと、掴んでいた手を離した。

……幸い下は土だったので、さほどダメージはないが。どちらかと言うと頭より衝撃で全身が痛い。


「く、ぅ……

 それで、一体、何がどうなったんだ?」

「……聞く覚悟はあるか?」


……え?


「どんな結果となったか。

 なぜ汝一人だけが、我とここに居るか。

 それを知る覚悟はあるか?」


 下から見上げても、相変わらず顔は見えない。

 表情も、性別も年齢も、何もかも不明な『自称』師匠の言葉に。


「―――ああ、教えてくれ」


 オレは、覚悟を決めて頷いた。



             ◇



 森術師の大魔法『断空激森斬エグザリーファ


 自身と森の精霊力を風の刃に変えて、ただ一振り、両断する。

 至極シンプルで真っ直ぐな、それゆえに強大無比な一撃。

 単発の破壊力としては、かなり高位に属する魔法だ。


 振り下ろされた魔法の光。

 一人目の青髪のエルフの刃は、火クラゲ―――レッドジュエルの頭に3分の1ぐらいまで食い込み。

 二人目、緑のエルフ・テルスの刃はレッドジュエルを見事に両断した。


 湧き立つエルフ達。

 テルスも安堵の表情を浮かべ、傍らのツバサの方を向いたところで。


 足と同じく『本体から切り離された欠片』として。

 両断されたうちの片方が、大爆発を起こしたのだ。


 斜め前に居たテルスが、庇うようにツバサの前に出て。

 後は、爆発に飲まれて全てが真白くなり分からなくなった。



             ◇



 スフィがどこからか取り出した水晶玉に映る光景が、消える。

 解説を終えたスフィが、小さく息をついた。


「オレ以外のエルフ達は?」

「生きておるものもいる。無論、死んだものもいる。

 爆発した片割れが、大半のエルフから見て奥側だったのが幸いした」


 いいのか悪いのか、判断つかない答えだったが。

 幸いしたって言うなら、きっと、最悪よりは良かったんだろうな。


 そう思わなきゃやってられないじゃないか。


「テルスは?」

「息はある。鍛えてあるようだし、自然にくたばることはなかろう」


 とりあえず、一秒を争うような状況ではないってことか。


「主は、死んだのか?」

「生きている」


 きっぱりと言い切るスフィ。


「ただ、一度に体の半分を持っていかれ、その上にあの爆発だ。

 一時的に活動が停止している」

「停止?」

「麻痺してるか、寝てるとでも覚えば良かろう。

 我々の瀕死と違って、ある程度の時間が経てば普通に活動できるようになるがな」

「なら、敵が動かない今のうちに皆を助けよう」

「どうやって?」

「どう、って……」


 そりゃ、えっと……


 スフィの言葉に、動けない自分を思い出し、


「スフィ師匠にお願いする?」

「……はぁ。

 情けない奴じゃな」

「い、いいじゃないかよ、冷静だと言ってくれ!」


 だって動けないんだもんさ!


「それに、レッドジュエルの停止時間は、おそらく1時間もない。

 それだけの時間で、仮に動けたとしても、何をどうする」

「……

 す、スフィ師匠なら、なんとか!」

「汝は駄目な弟子だな」


 深々と溜息をつくスフィ。いや、スフィ師匠。


「それで誰かが助かるなら、駄目だっていいさ!」

「その心意気だけは認めてやらんこともない」


 小さく笑うと、スフィ師匠はもう一度オレの頭を抱えてひざまくらしてくれた。


「出来の悪い弟子に、問題だ。

 強敵は今ほとんど動かない、仲間はあちこちに散らばり瀕死、お前自身も動けない。

 さて、どうしたら全員を助けられる?」


 全員を……


「汝のことだ。どうせ、何人か見捨てて時間を短縮とか出来ないのであろう?」

「当たり前だ!」


 そう、そんなの当たり前だ。


「助けられて、生き延びられる可能性があるなら、命を諦めることなんかできないに決まってる!」


 大声を出したら、身体のあちこちが痛んだ。

 それでも、止めない、躊躇わない。


「命は、けして譲れない」


「ならば、どうする。

 全員を助ける答えを出してみろ」


 全員を助ける。


 運ぶには距離が遠いし、人数が多い。


 そもそも、どこに行けば安全なんだ?

 村まで逃げても、そこまで敵が追ってきたら余計酷いことになる。村には逃げられない。

 兵隊とか騎士とか、そういう所に逃げ込めば安全かもしれない。

 でもどれほど遠いんだ? どうやってこの人数を運ぶ?


「全員を助けるには」

「助けるには?」


 どうして助けられないのか。

 それは、結局、魔物が動きだすから。


「―――魔物がいるから、助けられない。

 なら、あの主を、動けない間に、倒す!」

「汝も動けないのにか?」


 平淡な。

 だけど、確かに面白そうな、あるいは嬉しそうな声で、スフィ。


「お願いします、スフィ師匠!」


 礼を出来ぬ、土下座を出来ぬ身体が恨めしいけれど。

 せめて心だけは精一杯込めて。


「オレの答えは、スフィ師匠にあいつを倒してもらうことです!」


「―――90点、といったところだ」

「え?」


 ふいに、スフィが手を触れ、前髪を撫でて頬に触れた。

 いつかと同じように、心が癒され、身体の痛みもまた引いていく。


「今の我には、レッドジュエルを一撃で屠るほどの力はない。

 直接の戦闘には向いてないものでな」

「そっか……」


 いや、考えてみれば当然なのかな。

 あのテルスの放った大魔法を使えるのは、エルフ達でもテルス他数人だけだった。

 あれより威力の劣る魔法では、いくら相手が動かなくても一撃で倒すことなんか出来ないんだろう。


「一撃で倒せないと、やっぱり?」

「爆発する。

 いや、一撃で倒しても爆発する」

「倒しても爆発するのかよ」


 それは酷い、打つ手なしじゃねーか。


「うむ。

 氷の魔法以外では、な」

「氷?」

「そうだ。

 氷の魔法でレッドジュエルの核を撃ちぬくことができれば、爆発させずに倒すことができる。

 それ以外では、核を破壊すると共に残った体が爆発するだろう」


 なるほど。攻略法はちゃんとあるってことか。


「ただし、並の魔法では攻撃が核まで届かないし、下手な攻撃をすれば爆発させる可能性もある。

 本体が動かずとも、核の位置は体内を動くというしな」

「また面倒な……」


 えっと、整理してみよう。


 氷の魔法で、核を撃ちぬけば勝ち。

 でも核は動くし、弱い魔法じゃ攻撃が核まで届かない。

 下手な攻撃をすると、また爆発する可能性がある。


「スフィは氷の魔法は使えるけど、出力が足りないってことか?」

「そうだ。珍しく察しがいいな」


 褒めながら頭を撫でてくれる。

 恥ずかしいけど、ちょっと嬉しかった。


「スフィ師匠。

 残り10点を教えて下さい。」

「―――いいだろう、時間も有限だしな」


 そうだ、こうしてる間にもレッドジュエルは回復しつつあるんだ。


「答えは、言われてみれば簡単だろう」


 見えぬ顔で、どこか笑いながら。


「汝の精霊力を使い、我が魔法を放つ。

 我ら二人で、レッドジュエルを倒すのだよ」


帰ってきた性別不詳・スフィ。

師匠の威厳を見せるべく、帽子も取らぬままでついに立ち上がった。

その口……手に、ツバサから勝ち取った精霊力を宿して。


次回『ついにお待ちかねのエロ回で…す……』


―――誰もが心待ちにした瞬間、そこに到るのはいつの日か。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ