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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第一章 妹幼女の白パンはオムツでした
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蝕天・其の一 決戦

 忘れられない、何かがあって。

 必死になって叶えたい、何かがあって。


 それを思い出せないことに。

 不思議と、何も感じない。


 なんというか、全てに対して。

 言うなれば、違和感。


 世界にも、自分にも。

 記憶にも、願いにも。

 感覚にも、感情にも。



 でも、きっと。

 この場を切り抜けて、何かを手にすることで。

 違和感が晴れ、道も見えるのだろう。


 そんな予感―――あるいは、確信があるから。



―――   ―――   ―――   ―――   ―――



 主の姿を一言で言うなら、火クラゲ、ってところだろうか。


 満月のように、顔もなく向きもない、燃える球体の胴体。

 その下には触手のような、オレの腹くらいの太さがある炎の足。

 その足を、絵に描くイカやタコのように広げて身体を支え、足の先端は手のようにこちらを向いている。


 胴の直径で3メートルくらい、足もあるから今の高さはおそらく4メートルくらい。

 動き自体はうにょうにょとしてるのだろうが、その全てが鮮やかな赤い炎に包まれている。

 綺麗だけれど、この距離でも熱さを感じ。なんて言うか、物々しさが半端ない。


 エルフ達の矢は、一部は足で払われ、一部は胴体に当たったが全く効果はなかったようだ。

 刺さった矢がすぐに炎に包まれ、燃え尽きる。


 そういえばテルスが、森には火の魔物が出るとか言ってたっけなぁ……

 ヒグイグマしか相手にしてないし、すっかり忘れてたよ。


 うにょうにょしてた足の一本が、自分の胴体よりも高く持ち上げられ―――


「散れ!」


 鞭というより鉈のように、一気に振り下ろされる!


 ずばぁんという音を立て、足が叩きつけられた地面に真っ黒い焦げた傷跡が残された。

 振り下ろされた足の線上にあった枝は、延焼することもなく焼切られている。


「斬ったり射したりは効き目悪そうだなぁ」


「木々抜け到る空、矢より疾き風よ

 森の精霊に従い、自然ならざるものを斬り伏せよ!」


 再び、今度は2本の足を持ち上げる火クラゲ。

 その足が頂点に達すると同時に、テルスの魔法が発動する。


疾舞刃ストームブレイド!」


 テルスの、エルフ達の魔法が放たれる。

 不可視の刃を、叩き落とそうとしてか、あるいは無視してか。足が振り下ろされた。


「おお」


 何本もの刃が胴体に刺さったか、炎が揺らぎ巨体が暴れる。

 顔も声もないが、怒っているのか痛がっているのか。どちらだろうな。


 振り下ろした足の内一本は、刃を叩き落としたか、少し軌道を逸らされつつ地面に叩きつけられた。

 木々が巻き込まれて倒れ、ひしゃげ。黒々とした焦げ跡を残す。


 そして振り下ろされたもう一本は、比較的根本に近い位置で斬り飛ばされて離れた森へ力なく落ちた。

 落ちた足の近くの樹上にいたエルフが、歓喜か悲鳴か、何か反応を起こすより早く。

 突如、斬り飛ばされた足が大爆発を起こす!



 轟音、閃光。

 その中で感じる―――


「足が来る!」


 敵の追撃の気配に、咄嗟に叫びながら必死で今の場所から離れる。

 そのオレ達の居たあたりに振り下ろされた足、飛び散らされた枝や土が身体を撃つのを耐えた。


 爆発の衝撃冷めぬまま、離れた位置から全体を見る。


 実物を見たことないが、爆弾とか使ったらあんな感じになるんだろうか。

 足が爆発した場所は、辺り一帯の木々がなぎ倒され燃えていた。

 そばには、消火の為か魔法を使うエルフの姿も見える。


 オレと反対側に跳んでいたテルスは、弓を納めてどうやら魔法を準備中のようだ。

 他にも何人も、魔法のためか集中するエルフが見える。


 そして火クラゲはと言うと。

 縦斬りでは倒せないとでも思ったのか、あるいは飽きたのか。

 辺りの木々を薙ぎ払うように、何本かの足を横に振り回しながら人が歩くくらいのスピードで動き出していた。


 足を振る速度は遅くない。

 縦振りは甲羅サソリの尾並み、横振りでもヒグイグマの腕ぐらいのスピードはある。

 それが、ほんとどノーモーションで、半径5メートルくらいをぶんぶんと飛び回る。

 顔のない火の玉の胴体が、どこかコミカルで非現実的だった。


 誰かの放った魔法が足で受け止められ、先端を斬り飛ばす。

 放物線を描いて飛んだ足の先端は、慌てて逃げるエルフをあざ笑うかのように―――再び爆発した。


 斬り飛ばされた部分が少ないからか、今回の爆発は小さかった。

 それでも、逃げるエルフを背中から吹き飛ばし、木に叩きつけて気絶―――きっと気絶しただけだ―――させるに十分な威力だった。


 刺しても効かず、斬り飛ばすと爆発。

……当然、本体が火の玉みたいなもんだし、燃やしたって効かないだろうな。


 と、さっきの爆発でオレの斜め前に来たテルスが、魔法の集中をしたまま短く告げた。


「逃げろ」

「……は?」


 聞き返すが、説明はない。


「いや、確かに相性とか色々やばいと思うけどさ。

 なんぼなんでも、この状況で一人で逃げられないだろ?」

「……」


 テルスは何も答えない。

 まるで、一言でも発すれば、集中させた精霊力が散ってしまうかのように。


「確かに部外者だし、死ぬつもりはないけどさ。

 自分が強いとか、役に立つとは言えないんだけどさ」

「……」

「それでも、ここで一人だけ逃げたら、自分で自分が納得できるわけないだろ!」


 そうだ。

 自分が納得できない。


 胸を張って向き合えない。


 そんなオレの言葉に、テルスが何を考えたのかは知らない。

 ただ、ほんの少しだけ振り向いたその口角が、上がっていた気がして。

 魔物が放つのとは違う、テルスに集った何かの力が輝くのを感じた。


「木の葉の囁きに乗せるは風の調べ」


 きっと、それこそが、精霊力ってことなんだろう。

 剣を握ったままの手を強くにぎりしめ、そばにいるテルスと前方の魔物を見つめる。

 避けることも、テルスを抱えて退くこともできるように。


「木々のざわめきに祈るは平穏なる世界」


 そのテルスは、空中に何かを描くように両手を躍らせ掲げる。


「浄なる世に落ちる影を払うは」


 テルスの他にも3人か、テルスと同じように詠唱し腕を振るエルフ達がいた。

 どうやら全員が使える魔法ではないらしい。詠唱も前のより長いみたいだしな。

 同じ魔法を使えないエルフ達は、矢や小さい魔法で注意を引いたり、敵の足を止めようとしている。


「森の精霊の加護と森に生きる意志なり」


 テルスの手が、光っている気がする。

 まだ明るい昼間、かすかな光などけして見えないけれど。


「我、森の怒りをもって呼ぶ」


 彼らの奮闘の甲斐あってか、それとも奮闘空しくか。

 他の詠唱していたエルフのうち2人が火クラゲの攻撃で弾き飛ばされ、あるいは攻撃をかわしたが詠唱を中断させられた。


 だが、テルスともう1人、残っている。

 その2人の魔法が―――


「今、嘆きに従い悪しきを断つ刃を!」


 掲げた両手を、強く握り込むテルス。

 その手に握りしめた光が、手から漏れ出し天へ、あるいは森へと伸びて繋がれていく。


「テルス、頑張れ!」


 天を貫く一条の光にも見える。

 あるいは、手から全ての森と繋がった命の証にも見える。


 そんな不思議な光景を呼び寄せたテルスは、魔物を睨み付け。

 手にした光を真っ直ぐ振り下ろし、叫ぶ!


断空激森斬エグザリーファ!!」


長い長い集中と詠唱を終え、ついに発動したテルスの大魔法。

果たして彼の一撃は、火クラゲに通用するのか?

火クラゲはこのまま、正式名も語られずに討ち果たされてしまうのか!?


次回『蝕天・其の一 停戦』


―――いつかはこんな風に、主人公にも活躍して欲しいものだ。エロ以外で。


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