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精(霊)力をぶちかませ! ~妹幼女と精兄と~  作者: 岸野 遙
第一章 妹幼女の白パンはオムツでした
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蝕天・其の一 開戦

過ぎてしまえば、あっという間の三日間。


この世界に降り立ち。

謎の人と会い、魔物を魔法で退け。

エルフの村で、たった2日の修行を行って。


あっという間だったけれど、どこか充実していたのかもしれない。

少なくとも、これまで生きてきた毎日とは、何もかもが違っていた。



でも、きっと。

これからの毎日と比べれば、まだまだ穏やかで元の世界に近いものだったんだろうな。

そんなことを、ぼんやり考えたりした。



―――   ―――   ―――   ―――   ―――


 両手で剣を、構え直し。影から生え出る魔物を睨み付ける。

 その黒い影が完全に姿を現したところで―――


「第一射、撃て!」


 テルスの号令にあわせ、影達に無数の矢が降り注ぐ。


 だが、影は怯みもせず―――むしろ刺さっていることに気づいてさえいないように。


 あるものは顔を高々と挙げ。

 あるものは両腕を振り回し。

 またあるものは、地面にべちゃりとへばりついたままで。


 ぉ、おおぉぉおぉ……


 魔物達が雄叫びをあげた。


「第二射!」


 その身を包んでいた影が、魔物の身体を流れ落ちるように地面に吸い込まれて消える。

 さながらコールタールやヘドロのような影を脱いだ魔物達は、黒一色から元の色彩を取り戻していた。


 その身に矢が次々に突き立ち。

 先頭の魔物が、次いでもう2匹の魔物が姿を現すなり倒された。


 しかし―――


「これは、ものすごい数だな」

「想定していた範囲だ。天の影の大きさを考えればな」


 オレのぼやきに、矢を射る手を緩めずテルスが答える。

 その間にも、降り注ぐ矢がまた数匹の魔物を物言わぬ死体へと変えた。


 と―――


「とんだ!」


 魔物の一匹が跳躍し、近くの木の上にいたエルフにそのまま体当たりをかます。

 木から落ちるエルフを無視して、隣に居た他のエルフに噛みつく魔物。

 肉を噛み千切る音が響き、おそらくは、噛まれたエルフは即死したのだろう。

 組のもう一人は素早く木から降り、落ちた仲間に回復魔法らしきものを行っていた。


 ぐちゃ、ぐちゃと肉を噛む魔物。

 ふと振り返ったその姿は、顎より長く伸びた牙を備えた、狼ともライオンとも言えぬ獣の姿だった。

 そう、獣と言えば獣だ。

 名前を書いたプレートが書いてあれば、動物園に居てもおかしくないような外見だ。

 獣らしい顔。

 いかつい牙。

 六本ある足。

 二本ある尾。

……外見だけで言えば、色々な数を気にしなければ、動物園に居てもおかしくないような外見だ。



 六本足の牙狼が跳ねたのを皮切りに、魔物達がエルフ達に襲いかかり。

 早くも乱戦の様相を呈していた。



             ◇



 弓を持ったエルフ2人が、腕を振り上げたヒグイグマを挟撃する。


「はっ」

「うらうらうら!」


 爪が届くより早く、余裕を持って逃げ。


「しっ」


 襲われなかったもう一方が、容赦なく矢の雨を降らせる。

 その矢を払おうと、鬱陶しそうに腕を振ったところで


「おらおら、とっととくたばれ!」


 逃げていたもう一人が矢を射かける。


 何本ものを矢を突き立てられながら腕を振り回すヒグイグマ。

 その爪が切り裂いた大木が音を立てて倒れ。

 ヒグイグマは、倒れた大木を両手で掴むと、今度は大木を振り回した。


「ふっ」

「森を破壊するんじゃねーよ!」


 口の端から涎のように火をちらつかせながら。

 細い木々をへし折りながら、大木を振り回すヒグイグマ。

 二人のエルフは交互にかわし、射掛け、応戦する。


 そこへ―――


「木々抜け到る空、矢より疾き風よ

 森の精霊に従い、自然ならざるものを斬り伏せよ!」


 少し離れた木の上で精霊力を集中させていた3人目が、ヒグイグマを指し叫ぶ!


疾舞刃ストームブレイド!」


 エルフの指から放たれた精霊力が、三枚の刃となってヒグイグマに迫る。

 とっさに振り上げた大木をするりとかわし、刃がその皮膚に刺さり切り裂く!


 ずしゅっ、ばしゅっ、と音を立て。

 片腕を切り飛ばし、胴体を深々とえぐり。


「魔物よ、滅せよ!」


 三枚目の刃が、ヒグイグマの首を斬り飛ばした。


「よし」

「うっしゃー、次だ次!」


 一瞬遅れて、大木が地に落ち、ついでヒグイグマの巨体が地に倒れ。


 倒れるのを見届けもせずに、戦っていた3人組は次の標的に向かった―――



             ◇



 硬い甲殻に阻まれ、きんきんと音を立てて矢が弾かれる。

 己に矢を射かける3人のエルフ。そのうちの一人の方を、のっそりと向くと。


 矢よりも早く、その尾が伸びてエルフの胴体を刺し貫いた。


「がふっ」


 胴体を刺し貫いたまま、尾を引き戻し。

 一歩も歩かぬまま仕留めた魔物を見せびらかすように、顔の上でゆるゆると尾を、エルフを振って見せた。


「リックー!」

「待て!」


 思わず駆け出そうとする仲間を制し、弓を仕舞うリーダー。

 まだ死んではいない。速やかに魔物を倒せば必ず助けられるはずだ。


 その魔物を一言で表すなら、甲羅サソリと言ったところか。

 ハサミはなく、足はすべて硬い甲羅の下。

 そんな、さながらひっくり返したカニグラタンのような甲羅のお尻のあたりから、蠍のような尾が生えている。


 歩く速度は、恐ろしく遅い。子供が這うに等しい。

 歩くに限らず、動きは全て鈍い。


 それらの運動性能の全てをつぎ込んだのか、尾の伸縮速度だけが異常に速いのだ。

 硬い甲羅で攻撃を防ぎ、狙った獲物を尾で貫き一撃で屠る。

 槍の尾スピアテイルという、中~高レベルの魔物だ。


 ゆらゆらと眼前で揺らされる尾。

 その尾とエルフが自分を向いていないタイミングを見計らい、牽制で再度矢を放つエルフ。

 しかし尾の付け根や目を狙ったその矢も、ほんの少しの身じろぎだけで甲羅に弾かれる。


 動きが鈍いと言っても、ほんの少し、ずらすだけでいいのだ。

 甲羅が、脆弱なエルフの矢なぞ全て弾いてくれるのだから。


 胴体を貫いた尾を伝い、だらだらと流れ落ちる血。

 と―――


 突然その尾が大きく振られ、貫かれていたエルフが仲間たちに向かって投げつけられる。

 咄嗟に避けた男と、避けずに受け止めた男。


 そんな動きを、当然の如く予想していたのだろう。


「!」

「ディンガ!」


 避けた方の男を、魔物は容赦なく貫いた。


「きさま……!」


 虫の息の仲間を抱えたまま、貫かれた仲間を見、貫いた魔物を睨み付ける。


 そんな彼をあざ笑うように。

 重りを抱えて動きが遅くなった彼に、仲間を貫いたままの尾が槍の如く伸ばされた。


「ぐっ」


 なぶるように、左足を貫き、突き破る尾。

 足より太い尾で貫かれ、ふとももで千切れる足。

 バランスを崩して―――それでも仲間を潰さぬよう身体を捻ったのは驚嘆に値する―――地に倒れる男。


 遊ぶように、そんな彼の抱えた仲間に、ぷすぷすと軽く尾を突き刺して。


「きさまに、森の怒りを……!」


 呪詛にもならぬ呪詛を、まるで心地よい子守唄にでもするかの如く。


 いまだにエルフを貫いたままで、陽気に尾を振って見せ。

 呪詛を投げる彼の顔目掛けて、とどめの尾を伸ばした。




 どしゅ、っと。何度も響いた、肉を貫き血が噴き出す音を立てて。

 弱点である尾の付け根に何本もの矢を受けたスピアテイルは、断末魔さえあげる暇もなく絶命したのだった。


「て、テルス、すまない!」


 彼らを救ったエルフのリーダーは、頷き一つ見せる間もなく。

 安堵と激痛で気を失った彼らを、他の組が手当するのを確認する間もなく。


 他の魔物へ向け、すでに次の矢を放っていた―――


蝕天。

魔物とエルフ達の熾烈な戦いは、双方に少なくない被害を出しさらに加速していく。

果たして生き残るのは、魔物かエルフか―――


次回『蝕天・其の一 参戦』


―――イケメン無双の影で、そういえばどうした主人公。


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