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メリーさんのうしろ

作者: ノイジョン

 「メリーさん」という、有名な怖い話がある。

 ある時、電話に出ると、メリーさんと名乗る女が自分のいる場所を告げてくる。その居場所が、電話を受ける度にだんだん自分の家に近づいてくる。最後にメリーさんは、

「今、あなたの後ろにいるの」

と言い、振り返ると……というような話である。

 昔、この話をある友人に話すと、彼は今にも泣き出しそうなほど怖がった。彼は極度の怖がりで、中学の頃、文化祭のお化け屋敷で絶叫しながら逃げ出したほどである。

 つい先日、おれはその友人に再会した。駅でばったり。まったくの偶然である。

 なんとなく、昔話で盛り上がり。これまたなんとなく、後日彼の家で酒を呑む約束をした。その日おれは仕事だったが、夜呑むだけだし、仕事帰りでいいんじゃないか、ということになった。

 約束の日の前日、彼が怖い話が苦手だったことを思い出したおれは、彼を怖がらせるためのちょっとしたイタズラを企てた。

 次の日、予定通り仕事を早めに切り上げて退社したおれは、まっすぐ彼の家へ向かった。家とは言っても、二階建てのぼろアパートらしい。そこまでの道筋は事前に聞いていた。会社からそう遠くない。

 しばらく歩いてから、彼の自宅に電話をかける。準備しておいたヘリウムガスで声を変えるのも忘れない。コール二つ、彼はすぐに通話口に出た。そろそろおれから連絡があると踏んでいたに違いない。

「もしもし、山下?」

 すぐには返事をしない。たった数秒、間を置く。しかし、その数秒の間で、彼は電話の相手を不審に思うはず。そして、おれはゆっくりと口を開いた。

「あたし、メリーさん。今、駅前の商店街にいるの」

「……え?」

 彼の口から驚きとともに声が洩れる。その瞬間、おれは込み上げてくる笑いを必死で噛み殺しながら電話を切った。

 青ざめた彼の表情を想像すると可笑しくて仕方なかった。それに、せっかく夏なのだ。この調子でどんどん涼しくなってもらおう、そう思い、少し歩いては視界に入る建物の名を電話越しに伝えた。その度に、彼は、

「や、やめろよ。山下なんだろ?」

とか、

「ごめんなさい。ごめんなさい」

と呟き続けたりした。

 五回ほど続けた頃には、すっかり電話の相手をメリーさんだと信じきった様子だった。電話を切る度に笑いが止まらなかった。


 友人のアパートには割りとすぐに着いた。そろそろ最後の仕上げだ。おれは携帯を取り出した。

「……」

 電話に出た彼は最早一言も発しない。ただ、緊張し切った息遣いだけが聞こえている。

「あたし、メリーさん。今、あなたの家の前にいるの」

 電話を切らないまま、階段を上っていく。電話の向こうからも自分の足音が聞こえてくる。階段を上りきったところで立ち止まると、再びヘリウムガスを吸ってから、ゆっくりと、囁くような声で言う。

「あたし、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」

 彼の口から、ひ、と息が洩れる。きっと彼はおそるおそる後ろを振り返ることだろう。おれはわくわくしながらその瞬間を待っていた。

「う、うう、うわ――ぁ、あれ……?」

「プッ、あっはははは。ばーか、おれだよ、おれ。山下」

 どさっという音が聞こえた。おそらく彼が尻餅をついた音だ。

「な、なぁんだ。結局、山下なんじゃないか……くっそ、やめろよ、お前ぇ、本当にぃ。こういうの本当苦手なんだってぇ」

「悪い悪い。ま、久しぶりに会ったんだし、お前にはこの手のイタズラはしなきゃじゃん?」

「意味わかんねぇし。もういいから、さっさと入ってこいよ」

「あぁ。あ、でも、まだ変な声のままだから、声戻ってから入るわ」

 甲高い声のままというのも、なんとなく気恥ずかしかった。

 電話を切って、試しに「あー」と声を出してみる。普段となんら変わらない低い声が出た。ちゃんと自分の声が出たことに、なぜだか妙にほっとした。もともとヘリウムガスの効果なんて、それほど長時間続くものではない。しかし、最後の電話の時、やけに長い間、声が変わったままのような気がしていたのだ。

 友人の部屋は二階の端にあった。扉の前に立つと、中から笑い声が聞こえてきた。なんだろう?

「うぃーす。何笑ってんだ? って、あれ? 誰かと電話してたのか?」

 玄関を開けると、彼は受話器を下ろすところだった。

「はいはい。もういいっつうの」

 彼の言葉の意味が把握できない。

「何だよ。意味わかんねぇ。電話の相手誰なんだって」

「もういいって。ネタバラしした後にまでやるかねフツー」

 おれは自分の耳を疑った。

「……え? どういうこと?」

「いつまで言ってんだよ。にしても、お前、あれはねえよ。よりによって、今、あなたの友達の後ろにいるの~、って」

 背筋がぞわりとする。冷や汗が流れるのがわかった。

「お、お前、冗談やめろよ」

「いいからさっさと上がれよ。あと、お前さぁ……」

 奥に行きかけた彼が、ふと足を止めて振り返る。


「彼女連れてくるなら、先に言っとけよ」



 ありきたりな落ちになってしまったように思います。やっぱり急拵えはダメですね。orz

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― 新着の感想 ―
[良い点] 物真似していたら御本人さん登場。 この流れが良いですね。 こうなった以上は、本物と山下さんの二人で「もしもし。あたし、メリーさん」と合唱してみるのも一興かもしれません。 [一言] おはよう…
[良い点] 怖さ中に笑える場面があり、とても読みやすかったです。 [一言] これからも面白い小説を書いてください。
[良い点] 面白かったです [一言] 最後のオチがめちゃくちゃ怖かったです
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