薄視
『こんなクソみたいな授業受けて何のタメになるだろう?』
ノリアキくんは登校中から授業中、昼休み、下校中に至るまでこの疑問を反芻していました。
『立派な大人になるため?』
『将来安定した仕事に就くため?』
『蒙昧であると蔑まれないため?』
『稚拙であると侮辱されないため?』
『世間体を気にする親が見栄をはるため?』
『先祖様のため?』
『人類のため?』
いつまで考えても答えは出ませんでした。ノリアキくんは今日もまた、答えが出ない事に苛立ちを覚え、その日々蓄積される鬱憤や憤怒は限界点を越えていました。ですがノリアキくんは、ある方法を用いることにより、この遣り場のない怒りを静めていました。
ノリアキくんは学校の帰り道、ある場所へと向かいました。そこにはこんな片田舎ですら、異様に思われる家がありました。通称“カイジン屋敷”と呼ばれ、何度も何度も増改築をされているらしく、とても奇妙な形で、見るからに禍々しく、啜り泣く声や、反響された叫び声がいつも聞こえます。腕っ節の強いおじさんたちもここに立ち入るのを子供のように泣き叫びながら拒絶し、無論子供達にも絶対に近寄らせないような、そんな一種の歪んだ世界がその場所でした。
ノリアキくんが何故こんな場所に来たのかというと、あるものを見るためでした。それはヒトの解体です。生きたまま、文字通り解体するのです。忍び込むのはこれで二回目でした。初めてここに来たときには、女の人が物凄く叫び狂い両手足を切り取られる様が昆虫の様に滑稽で、いまだに忘れられなかったのです。
今日はどんなものが見られるだろうとワクワクしていたノリアキくんは、作業場が見える位置から覗き込みましたが誰も居ません。今日はお休みなのでしょうか……。
すると後ろから不意に首根っこを押さえつけられ、とてもあらがう事はできず、そのまま意識が遠のいていきました。
次に目が覚めると、悪臭のする不気味な部屋に横たわっていました。ノリアキくんは直ぐにここがどこだか分かりました。そう、カイジン屋敷の作業場です。体中の力が抜け身動きできませんでした。可能な限り辺りを見回すと、男がぽつねんと椅子に腰掛けてノリアキくんを見つめているようです。すると男は立ち上がり、そばに置いてあった大きなノコギリのようなものを手に取り近づいてきました。
その時、ノリアキくんの脳裏をよぎったのは、何でもないクソみたいな思い出だけでした。
2008/3




