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独りで歩いて、それで。  作者: 悠介


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初めての口づけ

「そろそろ受験じゃない?悠介、勉強は間に合ってる?」

「間に合ってるよ、多分合格ラインまでは普通に持っていけると思う。」

 センター試験、入試まで半月を切った、一月の頭。

 正月だから、と神社にお参りに来ていた二人は、それぞれが欲しいお守りを購入し、神社に参拝し、そしてそこからカフェで暖を取っていた。

「にしても、大学か。行くとは思ってなかったな、浩介は来年四年生だろう?そろそろ就活とか始まるんじゃないか?」

「そうだね、六月位から教育実習が始まるから、そこ次第って感じかな。」

「そうか、浩介は教員志望だったっけ。普通の就活とは少し時期とかが違うんだな。」

「うん。」

 浩介はココアを、悠介はコーヒーを飲みながら、話をしている。

 悠介からしたら、もうそろそろ就活が始まる時期、年上の後輩がやってきて、という時期だったが、教員を目指している浩介は、少し勝手が違う様子だ。

「にしても今年は冷えるな。例年より気温が低い、ってテレビでも言ってたけど、その通りになりそうだ。」

「そうだね、お店があったかいから、ありがたいね。」

 何気ない日常、まだ悠介にとってそれは、日常ではない。

 ぎこちなさが残る、まだそんな感覚が残っている、ただ、浩介の想いに応えたのだから、と悠介は務めて平静をと考えていた。

 恋人が何をするのか、という事を知らなかった悠介は、浩介から色々と教えてもらっている、というのが現在で、人生とは学びが絶えないのだ、と悠介は感じていた。

 今までだったら絶対にありえなかっただろう、それが浩介でなければ、断っていただろう。

 そう思えてしまう程、悠介にとって今と言うのは特別な時間だった。

 大概の人間はこれを青春時代に経験していて、青春と共にそれを忘れ去って、次に行く、それは知っていた、知ってはいたが、経験をした事が無かった。

 そんな悠介にとって、浩介はまるで、世界を映す窓のようなものだ、と感じていた。

 浩介を通じて世界を知る、子供が親に倣い、そして友と経験し、恋人と紡ぐ言葉、経験、人生を、浩介を通して、初めて知った悠介にとって、この半月ほどというのは、戸惑いと喜びに溢れていた。

 笑顔になれない、笑う事が出来ない、それは相変わらずなのだが、心境としては、浩介にその氷を融かされた、というのが正しいのだろう。

「そろそろ行こうか、店が混んできた。」

「うん。」

 会計を済ませ、手を繋いで外に出る。

 外の空気は冷たく、例年より冷えるという予報が当たっていた、そんな空気の中、繋いだ手は暖かい。


「それじゃあ、勉強頑張ってね。」

「ありがとう、浩介。」

 浩介を家の前まで送って行って、帰り道は独りだ。

 ここ最近、独りでいる事に落ち着かないって言うか、寂しいと思っちゃう自分がいて、驚きだ。

 人間的感情の持ち合わせがないと思ってた俺が、こうして孤独を怖がって、寂しがって、なんて事を考える日が来るとは思わなかった。

 孤独は当たり前、他人に何かを求めるのは間違い、独りで生きて、独りで死んでいく、それが当たり前だと思ってた、そんな俺が、孤独を嫌がってる。

 それは良い変化なんだろう、人間らしさを得て、これから先の事を考えて、ってやって、それは良い変化と言えるんだろう。

 ただ、孤独って言うのは、思った以上に寂しい。

「……。」

 浩介の家から歩いて十五分、たったそれだけの距離。

 それだけの距離が離れてるだけだって言うのに、寂しい。

 依存体質になりたくはない、と思って、気を紛らわせる為に色々とやってみてはいるんだけど、それも身が入らない、勉強は最低限したし、受験自体は問題ないだろう、ただ、それ以外の事、それ以外の事が、浩介がいないと味気ない。

 誰かと共有して、何かをする。

 そんな当たり前のことを、俺はしてこなかった。

 今までの人生、二十一年間生きてきて、欠落していた物、他人との協調性、他人を愛する事、他人を尊重する事。

 そんな当たり前を、今更になって教えられてるんだ。

「ふー……。」

 家に入って、暖房を入れる。

 今日は冷える、飯は鍋にでもしようか。

 確か、最近独り鍋が出来る様のキムチ鍋の素を買ってた気がする、それを使おうか。

 どこにあったか、確か冷蔵庫の中に入れたんだったか。

「ふーむ……。」

 具材を切りながら、考える。

 俺は、何時から笑う事を諦めたのか、何時から笑えなくなったのか。

 幼稚園生の頃は、良く笑う子だね、って言われてた覚えがある、いつも笑ってるんだね、って言われて、それが両親にとっては気に入らない事で、だった。

 小学校に上がった頃だったか、施設育ちの子だから仲良くしちゃいけません、って誰かの親に面と向かって言われた時、俺はそれが当たり前なんだ、って思った覚えがある。

 それ以来、笑う事を止めた、笑っても、何も変わらない、笑っても、良い事なんて一つもない、って思っちゃったんだ。

 それ以降、俺は笑う事を一切しなくなった、今の仏頂面のまま、ここまで来た。

 十五年間笑わずに生きてきた、今更になって、笑えるんだろうか。

 幸せなら笑えるよ、なんてうたい文句があるのは知ってる、ただ、俺は幸せになったとしても笑えない様な気もする。

 なんでだろう、笑うっていう機能が、俺の中で欠落してる、そんな感覚だ。

「……。」

 鍋に火を入れてる間、洗面所に立って、口角を上げてみる。

 眉間にしわのよった人間が口角を上げてる、なんだか怖い人みたいだ、これはちょっと誰にも見せられない。

「はぁ……。」

 幸せ、って何だろうな。

 今が幸せなのか、と問われると、わからないが正解だ。

 戸惑い、躊躇い、そう言った感情の中にいる気がする、浩介と付き合い始めて半月とちょっと経つけど、それでもまだ、その事が信じ切れてない。

 俺が夢でも見てるじゃないだろうか、騙されてるんじゃないだろうか、なんて思っちゃう、それ位、他人との繋がりが希薄だったから。

 急接近してきた浩介に、戸惑ってる、付き合いたいって言われて、躊躇ってる。

 俺で良いのか、こんな俺で、友達でさえ浩介が初めてだった俺で良いのか、本当に答えははいで良かったのか。

 考え始めたらきりがない、泡沫の様に浮かんでは、俺の脳にくっついて離れない、そんな疑問達。

「……。」

 そろそろ鍋が煮える、今日は飯を食べて寝よう。

 明日はシフトが入ってる、夕方からのバイトだから、ゆっくり出来るけど、何をしようか。

 今までは、無意識に過ごしていた時間、勉強を始めるまでは、何もなかった時間、浩介と付き合い出すまでは、ただ寝るだけだった時間。

 仕事をして、家に帰ってきて、寝る、それだけしかしてこなかった俺が、こうしてやきもきしてる、それは良い変化だったのか、それとも悪い変化だったのか。

 わからない、ただ、俺自身はこの変化を、心地の良いものだとは感じてる。

 それが全てだ、って言われたらそこまでなんだけど、どうなんだろうか。


「ただいまー。」

「浩にぃ、。お帰り。今日は飲んでこなかったの?」

「悠介が受験が近いからさ、あんまり邪魔したくないんだ。」

「そっか、悠介さん、そろそろ大学受験だって言ってたもんね。受かったら、後輩として入ってくるのかな?」

「そうだね。悠治は僕と同じ大学で、悠介が行こうとしてるのも同じ大学だから、年上の後輩、って事になるんじゃないかな?」

 悠介に見送られ、家に帰って来た浩介。

 上着を脱いで、リビングのこたつに入りながら、いつもだったら飲んでくるだろうに、と悠治に疑問がられていた。

 浩介は交友関係が広い、大学での友人は言うまでもなく、高校や中学での友人、というのも沢山いた。

 だから、ではないが、普段から外に出ている事が多く、二十歳を超えてからは、飲み会が多かった印象だった悠治は、悠介と飲まなかった事に驚く。

 普段から家にいる事が少ない、とでも言えばいいのだろうか、学業にバイトに交友関係の広さにと、基本的に毎日どこかしらに出かけている浩介が、こうしてゆっくりと家で過ごす事は珍しい。

「悠介さんは何か言ってた?」

「ん?」

「神社にお参り行ってきたんでしょ?何か言ってたかなって。」

「うーん、何も言ってなかったよ?それに、そう言うお願い事って、口にしちゃいけないんじゃなかったっけ?」

 神への望みは口にしてはいけない、というのが浩介の認識で、それは悠介も変わらないのか、それとも何かを願った訳ではないのか、話は聞いていなかった。

 ただ、心願成就守を買っていた、受験生なのだから、学業のお守りでも良さそうだったが、と浩介は考えていたが、悠介にとって何か叶えたい願いでもあるのだろう、と考え、それを引っ込めていた。

 そもそも、まだ付き合い初めて半月と少し、そこまで深い関係を築けているとは思っていない、それ位の事は、浩介自身理解していた。

 ただ、思った以上に悠介は寂しがり屋だった、それは意外だと感じていた。

 孤高の人、という印象だった悠介が、こうして浩介と付き合うとは思っていなかったし、駄目で元々告白したのが、まさかうんと言ってもらえるとは思わなかった、と悠治や両親にも話はしていた、それだけ、浩介にとって、悠介は孤独が当たり前だと目に映っていたのだろう。

「みかん食べよっと。」

「はい、どうぞ。」

 こたつに蜜柑、そんな日常が、悠介にとっては違うのだ、と知って、浩介は悲しいと思っていた、それは、当たり前の経験をしてこなかった、する事が出来なかった、という悲しさだ。

 これから先、何を経験して、一緒に何をして、それは楽しみだったが、現在の悠介を見ていると、悲しくなってきてしまう、と。


「さて、試験か。」

 共通入試、センター試験の当日、朝早めに家を出て、大学に向かう。

 ブレザーや学ランの子が多い中、私服で来た俺は少し浮いてるだろう、ただ、スーツで来ちゃうと年齢が分かっちゃうかもしれないし、周りを委縮させるかもしれないから、と思って、今日は私服だ。

 白のパーカーにチノパン、それにお気に入りの空色のダウンを着て、受験会場に入る。

「……。」

 ピリピリしてる空気が伝わって来る、周りの子達、俺より年下な子達が、受験に対して緊張してるのがよくわかる。

 俺も六年ぶりの受験だ、緊張してるって言うか、なんとなく居づらい。

 でも、やるって決めた事だし、勉強もしてきたわけだし、資格はあるんだ。

 そう思うと気持ちが落ち着いてくる、集中して試験に挑もうって言う気になってくるんだ。


「悠介、お疲れ様。」

「乾杯、浩介。」

 夜、受験が終わった後、浩介に呼び出されて居酒屋に来た。

 受験期間って言うか、そう言う間は控えててくれたんだけど、終わったんだし良いでしょ?って言ってくれて、有難い事に誘ってくれた。

「そうだ、僕の友達を紹介したいんだけど、良いかな?きっと、悠介も仲良くなれると思うんだ。」

「……。良いけど、俺怖くないか?」

「怖くなんてないよ!大丈夫、大丈夫だよ!」

 有難い話ではある、交友関係が浩介と悠治君だけって言うのもちょっと変って言うか、偏りと執着が出てきちゃうから、友達は多いに越した事はないだろう、って言うのが最近の俺の考え方だったから。

 ただ、向こうがどんな相手で、どんな反応をされるか、それが気になる。

「どんな子なんだ?」

「良太、って言ってね、のほほんとしてて優しい子だよ?僕が中学生の頃から、ずっと友達だったんだ。もうかれこれ九年位の付き合いになるかなぁ。」

「わかった、会ってみよう。」

 浩介は笑う、それで、電話を掛けて良太さんと話をしてる。

「二十分位で来れるって。」

「楽しみだな。」

「緊張してる?」

「ちょっとな。」

 俺の表情が硬い、それはそれでいつもの事なんだろうけど、浩介には分かるみたいだ。

 一か月って言う短い間でも、付き合ってれば大概の事は分かる、浩介の事も、だいぶ分かってきた。

 それと一緒で、浩介も俺の事を分かってきてるって事なんだろう、俺の心境、それを理解してるから、友達を誘うって言う選択肢を取ったんだろう。

「飲むか。」

「良いの?悠介、お酒弱いんでしょ?」

「緊張を解すのにも、飲むのはちょうどいいから。」

「そっか。」

 ある程度酔っぱらってれば、緊張しなくても大丈夫になるだろう。

 そう考えた俺は、良太さんが来るまで飲む事にした。


「浩介君、来たよー!」

「あ、良太君!こっちこっち!」

「初めまして、良太さん。」

「初めまして、浩介君の彼氏君だね?僕は良太、よろしくね。」

 二十分後、良太が居酒屋にやってきた。

 良太は、悠介がどういった人間なのかを事前に聞いていた為、悠介にも臆する事なく話しかける。

 対照的に、悠介は緊張している面持ちで、普段より眉間の皺が濃い、浩介は、悠介は対人スキルが高い方だと認識していた為、それに少し驚いていた。

「浩介君、良かったね。ずっとお付き合いしたい人がいた、って聞いてたけど、悠介君の事だったんでしょう?付き合えて、良かったね。」

「あはは、そうだね。良太君は学区が違ったから、悠介とは会った事ないんだっけ。」

「そうだね、浩介君とは中学からの付き合いだし、小学校は違ったから、悠介君とは初めましてだよ。」

 浩介と悠介が対面で座っている状態で、良太はどちらに座れば良いかと一瞬悩むが、流石に初見である悠介の隣に座るのは憚られるだろう、と浩介の横の席に座る。

「それで、浩介君と付き合いだしたきっかけって何だったの?浩介君、教えてくれなかったんだよ?」

「教える、って程の事でも無いとは思いますけど、俺が仕事をクビになりまして。それで、大学に通う準備をしながらバイトをしよう、って思って、近所のコンビニに話をしたら、浩介がいたって感じです。良太さんは、浩介とは中学からの同期なんですか?」

「敬語、使わないでよ。同い年でしょう?」

「……。分かった。良太さんは、中学からずっと浩介とは仲が良かったのか?」

 さん付けは止められない、それは悠介が悩んでいる事だった。

 友達に対してさん付けをしなくても良いのに、と浩介は言っていた、しかし、浩介をささんと呼ばなくなったのは、付き合う時がきっかけだった。

 その程度のイベントが無い限り、さん付けを止める事が出来ないのだろう、と浩介は感じていた。

 悠治の事でさえ、悠治君と呼んでいる、さん付けよりは少しマシにはなったが、まだ呼び捨てには出来ていない、悠治は呼び捨てで良いと言っているのだが悠介の中に線があり、それを超える事が出来ない、というのが現状だ。

「えっとね、浩介君とは、色々と縁があってね。中学から大学まで、ずっと一緒なんだ。不思議な縁って言うか、たまたま同じ高校に受験して、びっくりしたんだ。でも、友達でいれて良かった、とは思ってるよ?浩介君、素敵な人だもん。それは、悠介君も知ってるだろうけどね。」

「そうだな……。俺、まだ浩介の事を良く知らないんだ。小学校の頃は喋った事がなかったし、付き合い始めてまだ一か月位だし、知らない事の方が多いかな。浩介の中学時代って、どんな感じだったんだ?」

「浩介君の中学生時代かぁ……。何だろう、天真爛漫って、こういう人の為にあるんだろうな、って感じかなぁ。ずっとニコニコしてて、いっつも誰かを思いやって、そんな感じだったよ。」

「良太君、恥かしいよ……。」

 浩介の過去を知らない悠介の、ほんのちょっとした興味。

 恋人なのだから、過去の一つでも知っておいた方が良いのだろう、と判断した悠介だったが、それは思った以上に今の浩介のままだった様子だ。

 天真爛漫、何時だって笑っていて、それは今の浩介に対する悠介の印象だ。

 仏頂面で眉間にしわの寄っている自分と違って、いつも笑っていて、幸せそうで、何があったとしてもこの笑顔は崩せない、と悠介は感じていた、それ位、浩介はいつも笑っていた。

「恥ずかしがる事じゃない!浩介君はとっても良い子だから、きっとそんな浩介君が好きだった悠介君も、良い人なんだと思うよ?確かに、最初は怖がられるかもしれないけど、でも、良い人なんだろうな、って思うもん!」

「そうか?俺、怖くないか?」

「うーん……。表情が硬いのがあれかな、でも、喋るとそうでも無いんだ、ってすぐにわかるよ?」

「そうでしょ?悠介は笑わない人だけど、凄く魅力的なんだよ!」

 今度は悠介が恥かしい、と言って少ししかめっ面をする、ただ、それは照れているだけだというのが、すぐにわかる。

 浩介にとって、悠介は初恋の相手、ずっと思い描いていた想い人、そんな悠介の事だから、何でも知りたいし、ある程度の事は知っている、というスタンスの様だ。

「話は良いけど、良太さんは何飲む?」

「えっとね、ウィスキーを飲もうかな。」

 悠介は、二十一歳という年齢でウィスキーを嗜むという事に驚き、細い目を見開く。

 びっくりしている、それがよくわかる表情をしていて、二人は顔を見合わせて笑う、悠介は、笑うのが苦手なだけであって、表情がないわけではない、というのが、良太にも伝わったのだろう。


「それじゃ、浩介君、また明日ね。悠介君、出会えて良かったよ!大学、合格してると良いね!」

「ありがとう、良太さん。」

「良太君、またねー!」

 陽気になった浩介を介抱しながら、良太さんを見送って、一緒に帰る。

「なぁ浩介、良太さん、良い人だな。」

「でしょぉ?悠介となら良太君も仲良くなれると思ったんだぁ!」

「そっか、ありがとう。」

 酔っぱらってる浩介は、いつも以上にニコニコ笑ってて、浩介は笑い上戸なんだな、って言うのがよくわかる。

 このまま家に送っていくのもありだけど、それじゃちょっと寂しい、なんて考える。

「浩介、今日泊っていくか?」

「良いのぉ?」

「勿論だ。俺の受験に気を使ってくれてたんだろ?それなら、それ相応にお礼をしないとな。」

「やったぁ!」

 浩介は嬉しそうに笑ってる、俺も、笑えたら良いのに、なんて思う。

 笑う事が出来ない、それは自己防衛だったんじゃないか、って浩介には言われた、笑う事を許されなかった環境の中で、笑顔でいる意味を失ってしまったから、だから今は笑えないんだ、って。

 いつか笑える様になるよ、って言ってくれてるけど、それが何時になるのかもわからない、笑いたいと思う気持ちははあるけど、笑った所でって感情もある。

 困ったもんだ、困ったと思ってるけど、解決方法もない、こればっかりは、時間に任せるしかない。

「ほら浩介、危ないぞ?」

「はぁい!」

 酔っぱらってる浩介を介抱しながら、家に帰る。

 浩介は、ずっと嬉しそうに笑ってる、そんな浩介の顔を見るのが、俺は好きだと思った。


「ゆうすけ、ぎゅー!」

「はいはい。」

 家に着いて、上着を脱がせて、ベッドに寝かせると、浩介が甘えたがってる。

 俺も上着を脱いで、ベッドに横になって、浩介に腕枕をしながら、ハグをする。

「ねぇ、悠介、ちゅーしよ?」

「ちゅー?」

「キスだよぉ?」

「……。良いのか?」

 キス、なんてした事が無い、浩介はした事があるって言ってたっけ、なんだかドキドキしてくる。

「良いんだよぉ!だって僕達、恋人でしょぉ?」

「……。わかった。」

 覚悟を決める、心臓がバクバクと音を立てて鳴ってる、ドラマなんかでは見た事があるけど、した事はなかった、キス。

「……。」

「……。」

 唇を重ねる、浩介の体温を感じる。

 柔らかい唇、薄めで可愛いと思ってた唇、ちょっと酒の匂いがするけど、それでも、素敵な行為。

 緊張してる、心臓が口から飛び出てしまいそうな位、高鳴ってる。

 俺は、本当はこうしたかったんだろう、人と関わりたかった、誰かと仲良くなりたかった、ただ、それを諦めなきゃ心がしんどかっただけで。

 だから、浩介に告白された時、驚いたけど、嬉しかった。

 俺にも、こうして想ってくれる人がいる事、こうして、一緒に居てくれる人がいる事、誰も愛してはくれないと思っていたけど、愛してくれる人がいた事。

「浩介、飲みすぎたな。」

「えへへ……。悠介とチューできたぁ……!」

 普段の浩介だったら、こんな事は言わなかったんだろう。

 俺に合わせてくれて、何も知らなかった俺に色んな事を教えてくれて、それでいて、可愛らしくて。

 ちょっと気をそらそうと思って、変な事を口走るけど、浩介はそれを気にしてないみたいだ。

「悠介ぇ……、大好きだよぉ?」

「……。俺も、大好きだよ、浩介。」

「やったぁ……!」

 それだけ言って、浩介は寝てしまった。

 緊張してた心臓の高鳴り、ドキドキとしてた感じが落ち着いてくる。

 キスをした、生まれて初めて、誰かとキスをした。

 それが、浩介で良かった、浩介がいてくれたから、俺はこうして恋人って言う体験が出来た。

 もしも、これが夢だったら。

 少し悲しいな。

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