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独りで歩いて、それで。  作者: 悠介


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3/7

友達とは

「ふあぁ……。」

「浩介さん、おはようございます。」

「んー。悠介君、おはよぉ。」

 次の日、朝俺が飯を用意してると、浩介さんが起きてくる。

「お風呂入りますか?ユニットバスですけど、は行った事あります?」

「うーん……。入った事あるよー。」

「じゃあ、入ってきてくださいね。」

「うん、お風呂借りるねー。」

 多分覚えてるな、これは。

 浩介さんは昨日の晩の事を覚えてる、酩酊寸前だっただろうから、記憶が無かったとしてもおかしくはないと思ったけど、案外しっかりしてる部分はあるんだな。

 って事は、友達になりたい、って言う発言も覚えてるんだろうか。

 友達が欲しいとは思わない、ただ、なんとなくだけど、その言葉が気になる。


「ふー……。」

 シャワーを浴びながら、浩介は昨晩の事を思い出す。

 悠介とは小学生の頃同じクラスだった、友達になりたいと願っていて、しかし悠介の周りを寄せ付けない雰囲気に気圧されて、言えずじまいだった。

 ただ、それが何の因果か、同じバイトになり、先輩として関わる事になり、そして、酔った勢いを利用して、悠介にそれを伝えた。

 覚えている、ただ、少しだけ恥かしい、と浩介は顔を赤くする。

 悠介はどう思っているだろうか、友達をと思っていても、寄せ付けない雰囲気を醸し出していた、それは今でも変わらない、人と関わる事を拒否する程ではないが、歩み寄る事はしない、という雰囲気を纏っている悠介が、浩介の想いを聞いたらどう反応するだろうか。

「でも、決めたんだ……。」

 悠介と友達になって、それ以上の関係になりたい、と願っていた、幼心の頃。

 それが今、現実として可能性が見えてきている、浩介を、神は見放さなかったという事だろう。


「悠介、お風呂ありがとうね。」

「あ、タオルそこにありますから、それ使ってくださいね。」

「……。ねぇ悠介、敬語、使うの止めない?僕達、小学校の頃一緒だったんだし、同い年なんだし、敬語を使わなくても良いと思うんだ。それに、僕は悠介と友達になりたい、ううん、それ以上の関係になりたい。小学校の頃、そう思ったんだ。だから……。」

「……。すぐに、そう言う関係になれるか、って言われると、難しいです。友達がいた事が無いから、友達が何をするのかも、どういう関係が望ましいのかも、分かりません。ただ、そう願ってくれていたのなら。……。それに応えるのも、吝かじゃないかもしれませんね。」

「じゃあ……!」

「すぐには無理ですよ。長年の習慣って、すぐには抜けませんから。ただ、努力はしてみます。」

 風呂から上がってきて、浩介さんが洋服を着たと思ったら、すぐにそんな話を振ってくる。

 俺は驚いてる、堅物で仏頂面の俺と、まだ友達になりたいって思ってる、って言うその言葉に驚く。

 友達、憧れる事もなかった、居なくて当然だった、そう言う関係。

 何から始めればいいのか、そもそもどういう関係なのか、それ以上の関係って言うのはどういう事なのか。

 戸惑う、でも、不思議と心地良い。

 だから、始めてみようと思う。

 友達って言う関係を、初めて構築する、それは遅すぎた青春かもしれない、遅すぎた幼少期かも知れない、ただ、そう言ってくれる人がいるのなら、それも悪くないのかもしれないから。

「飯、食べましょうよ。俺、腹減りました。」

「うん!」

 軽い朝飯を二人分用意して、一緒に食べる。

 こうして誰かと飯を食うって言うのも、飲み会以外だと久しぶりだな、施設にいた頃は誰かと一緒に飯を食べるのが当たり前だったけど、施設を出てからはずっと、独りだったから。

 なんとなく、懐かしさに襲われる、それは嫌な感情じゃない、それが不思議だった。


「それで、友達って何するんです?俺、友達がいた事が無いので、何すれば良いのかがわからないんですよ。」

「えっとね……。一緒に遊んだり、僕達位の年齢なら、一緒にカラオケ行ったり、居酒屋に行ったり、僕達は野球を一緒にやったりするよ!」

「野球……、はやった事がないのでなんとも言えないですけど、カラオケですか……。カラオケって、接待以外で行った事がないので、碌に歌えないんですよね。」

「じゃあ、練習しよ!僕、今日は講義ないし、一緒にカラオケ行こうよ!」

 朝飯を食べ終わって、事務的にも聞こえる質問をする、でもそれは、俺の癖ってだけで、これも変わっていくんだろうか。

 カラオケに友達と行く、それは浩介さんの中では当たり前の行動なんだろう、俺の中では不思議な行動だけど、まずは何事も倣ってみろ、だ。

「一回着替えしなきゃだから、僕の家来る?」

「良いんですか?」

「友達なんだから、いいに決まってるでしょ?」

「それじゃあ、行かせていただきます。」

 俺も風呂に入って、準備をして出かける。

 浩介さんは、取り合えずここら辺に住んでるらしくて、道はわかるから、って言って、先導してくれる。


「ただいまー!」

「お邪魔します。」

「あ、浩にぃお帰りー。」

「悠治、ただいま。」

 浩介の自宅、悠介が独り暮らしをしているアパートから十五分程度の一軒家、そこが浩介の住まいだった。

 鍵を開けて中に入ると、弟の悠治が出迎える、悠治は、浩介をもう少し大きくして、筋肉質にした様な体型に、浩介と同じ坊主頭、ぱっちりとした目に、少し薄い唇が印象的だ、と悠介は感じていた。

「そちらの方は?」

「えっとね、友達の悠介だよ!」

「悠介……、って、小学校の頃一緒だった悠介さん?」

「うん、偶然再会してさ、昨日は一緒に飲んでたんだ。」

 悠治は、悠介の事を覚えていた様子だ。

 浩介が昔、ずっと友達になりたいと言っていた、そんな相手だから、覚えていたのだろう。

 家庭内でも話題にしていて、どうすれば友達になれるか、と一緒に作戦会議をした事もある、そんな相手だから、忘れなかったのだろう。

「お久しぶりです、悠介さん。浩介の弟の悠治です。二つ下の学年だったんですけど、覚えていらっしゃいますか?」

「ごめんなさい、学生時代の思い出、って言うのを殆ど覚えてなくて。浩介さんの事も、覚えてないんです。ただ、それでも友達になりたい、っておっしゃって下さったので、生まれて初めての友達作りのスタート、ってところですかね。」

「そうですか……。浩にぃ、良かったね。それで、この後はどうするの?家で遊んでくの?」

「カラオケ行こうと思ってるんだ。悠介って、友達と遊んだ事が無いから、遊びがわからないんだって、そう言ってたから。試しに、カラオケ行ってみようと思ってさ。」

「そっか。じゃあ、着替えだけしに来たんだね。悠介さん、浩にぃの事、よろしくお願いします。」

「はい。」

 硬い返事をする悠介に、少し違和感を持つ悠治だったが、友達がいなかった、という話から、どう接すればいいのかがわからないのだろう、と推測する。

 悠治は今日は大学の講義がある、その出かける準備をしていた所だ、と思い出し、急いで準備をし始める。

「悠介、こっちこっち。」

「お邪魔しますね。」

 二階に上がり、浩介の部屋に通される悠介。

 浩介の部屋は、小奇麗に使われていて、掃除もきちんとしているのだろうな、という印象を受ける。

 部屋に入って左側の本棚には、沢山の書籍が並んでおり、浩介は愛読家なのだな、という印象だ。

 そう言った分析をしている悠介は、そもそも友達とはそう言った分析をするものなのだろうか?とまず疑問を持つ。

 昔誰かが言っていた、友達とは、心を許せる存在、気を置けない存在、気負わない相手なのだ、と。

 ならば、こうして分析をして、というのは間違いなのではないか、と考える。

「ちょっと待っててね。」

「はい、大丈夫ですよ。」

 浩介は、悠介の前で着替えをする。

 悠介が見た通り、浩介は野球をやっているというだけあって、筋肉質ですらっとした体型で、無駄がないスリムなタイプだ、という悠介の見立ては間違っていなかった。

 友達によこしまな感情を抱くのは違うだろう、とそういった感情をひっこめた悠介は、しかし浩介の肉体美とでも言えば良いのだろうか、そう言ったものに感心していた。

「お待たせ、行こっか。」

「はい。」

 そんな事を考えている内に、浩介が着替えを済ませ、薄手のパーカーとジーンズという格好になる。

 悠介が長袖のシャツにチノパン、という服装なのに対し、やはり大学生なのだろう、というのが伺える。

「かあちゃーん、友達とカラオケ行ってくるー!」

「はーい!」

 玄関に降りて、浩介がリビングにいる母親に声をかけ、二人は家を出る。


「それで、悠介は好きなアーティストとかいるの?」

「好きなアーティストですか?そうですね……。あの人とか好きですね、最近ほら、車のコマーシャルに流れてる人。」

「あー!あの人ね!僕達の世代からはちょっと離れてるけど、いい歌歌う人だよね!」

「ご存じなんですか?」

「うん!僕も好きだから!」

 カラオケに向かう道中、浩介さんから話を振られて、当たり障りのない答えの方が良いのか、それとも素直に話した方が良いのか、なんて一瞬悩んで、素直に話す事にする。

 友達、って言うのは悪い意味での気遣いはしないもんだ、って言われてたし、なら素直に好きなアーティスト位言っても問題ないのかな、って判断したけど、正解だったみたいだ。

 浩介さんは、嬉しそうに笑いながら、こっちを見てにこっとする。

「あのアーティストさんさ、僕達の世代は殆ど知らないでしょう?だから、友達とカラオケ行っても歌うのどうしようかなって、いっつも思ってたんだ。悠介が知ってるなら、歌おうかなぁ。」

「是非歌ってください、俺、人の歌聞くの好きですから。」

「悠介は歌わないの?」

「そうですね、接待って、基本的に歌っていただく事が多いので、自分では歌わない事の方が多いですね。」

 浩介さんは、社会人って大変なんだなって顔してる。

 友達と行くのとでは勝手が違うんだろう、かといって、俺は友達がいなかったわけだし、そっちのやり方の方を知らない、お互いに知らない事が多いんだろうな。

 でも、浩介さんのそれは正常で、俺のそれは異常だ。

 友達が一切いなかった人間って言う方が稀だろうし、まだ社会人経験のない浩介さんにとって、それはこれから体験する事だ。

 だから、俺がずれてる、それはわかってる、わきまえてるつもりだ。

「ここだよ、駅近いから、楽でしょ?」

「そうですね、あったこと自体は知ってましたけど、入った事が無かったです。」

「じゃ、行こ!」

「はい。」

 一緒にカラオケに入って、店内を眺める。

 ここは数年前は別のカラオケ屋さんが入ってたんだけど、店が変わって、新しい感じがする。

 それ位の情報しかなかったけど、施設にいた頃、駅近くを散策してる時は、まだ古い看板があって、それでいて、俺が仕事で電車に乗る様になった頃には、新しい看板になってた。

 いつも接待で来てたカラオケ、ただ、今は違うんだって頭の中を切り替える。

「お酒はどうする?昨日も飲んだし、今日はソフトドリンクにしておく?」

「そうですね、昼間から飲むのはあまりよろしくないと思うので、そうしましょう。」

「じゃあ、ソフトドリンクの飲み放題で、時間は三時間過ぎるならフリータイムの方が安いから、そうしよっか。」

「はい。」

 浩介さんが受付を済ませてる。

 俺はそれを眺めながら、普段なら接待だから、俺がやらなきゃいけなかったんだよな、なんて思って、それが懐かしくさえ感じる。

「最初の飲み物何にする?」

「ん……、はい。そうですね、アイスココアで。」

「じゃあ、僕はコーラで!」

「部屋番号は十七番になります。」

「ありがとうございます。」

 マイクと伝票を受け取って、部屋に向かう。

 ここは飲み物は注文制、伝票のQRを読み込んで注文する形式みたいで、気を使わなくていいから気楽だ。

 でも、逆にスマホを持ってない人とかは大変だろうな、コードを読み込めないと飲み物が注文できないわけだし、そう言う意味では不親切か。

「悠介、なに歌う?」

「浩介さんから先にどうぞ、俺は後で大丈夫ですよ。」

「そっか、じゃあ遠慮なく……。」

 浩介さんは、俺達が生まれた歳にデビューしたアーティスト、俺も好きな人の歌を歌ってる。

 あんまり上手な方ではないけど、感情の入れ方が上手な歌い方で、これはこれで学びになるな、って感じだ。

「ほら、悠介も歌入れないと!」

「そうでした、忘れてました。」

 そうだ、接待じゃなかったんだ。

 初めてに近いかな、仕事を始めて、少し経った頃に、勝手がわからないと接待が出来ないから、って言う理由で、一回だけカラオケに一人で行った覚えがあるけど、それ以来ずっと、接待飲みのついでのカラオケしか行ってなかったから、すっかり忘れてた。

 ちょっと悩んで、一番好きな歌を入れて、マイクを握る。

「ーーー」

「わぁ……!」

 緊張してうまく歌えないけど、浩介さんはなんだかびっくりしてるって言うか、少し感動してる節がある。

 そんなに下手くそではない、とは思ってはいたけど、こうやって人前で歌うって言うのは、また違う感覚なんだな、って感じだ。


「悠介、飲み物頼む?」

「はい、それじゃあ、アイスコーヒーをお願いします。」

「了解!」

 暫く歌って、飲み物がなくなる前に浩介さんが飲み終わって、次の飲み物を注文してくれる。

 気楽でいいな、友達と行くカラオケって、こんなに気楽なんだ。

 こんなにも気を張らないカラオケって言うのは初めてだ、いつも、気を張って接待相手を気持ちよくさせて、それに徹してきたんだから、それもそうか。

「……。」

「どうかした?」

「友達って、良いもんですね。俺、本当に知らなかったのが勿体ないなって、ちょっと思いました。」

「そうでしょ?友達って良いんだよ?」

「……。そうだね。」

 敬語、使わなくていいんだ。

 確かにバイト先では先輩だけど、友達でもあるんだから、敬語を使う必要はないんだ。

 高卒で働きだしてから二年半、ずっと敬語を使い続けてきた、それが当たり前だったから、それが楽だったから。

 でも、それをするのは本当はしんどかった、こういう関係に憧れてたんだな、って言うのを、今更になって自覚する。

 俺は友達は必要ないと思ってた、そんなもの、弱い人間が群れる為に作ったものだと思ってた、でも違った。

 対等の関係性、同じ目線に立って、同じ事をして、それを共有して。

 そんな事を楽しむのが、友達なんだろうな。

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