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独りで歩いて、それで。  作者: 悠介


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1/7

独りきり

「坂入君、またかな?これで何回目だ?次はないと言っておいたはずだけれどね?」

「……。すみません。」

「はぁ……。じゃあ、次回の更新は無しで、それで構わないね?正社員になると思って期待していたけれど、もうこれ以上は、私も庇いきれない。」

「……。失礼します。」

 仕事のミス、それは俺がした事じゃない。

 俺を嫌ってる連中、その連中が、自分達の失敗を俺に押し付けて、それの責任を取らされる、なんて馬鹿々々しい話だ。

 ただ、上長も信じてくれない、信じてくれていたけれど、結局何度もってなると、信用が無くなってくるんだろう。

 高校を卒業してから、契約社員としてここで働いてたけど、次の更新はなし、って事で話が纏まった。

 別に構いやしない、経歴に傷はつくけど、独りっきりなのは慣れてるし、そもそも施設を出てから誰とも連絡を取ってない、幼稚園生の頃に施設に送られてから、ずっと誰とも仲良くなんてなって来なかった。

 だから、構いやしない。

 俺が死んだところで、誰も気にしたりしない、誰も、気付いたりしない。

 だからって死ぬのは癪だ、あんな奴らの生で死んで、なんて実績を残すのは嫌だから、意地でも生きてやる、とは思ってる。

 俺の仕事、IT系の営業職として、二年間くらいお世話になったけど、正社員にするする言ってしない上層部にも呆れてたし、実績を残してるはずなのに、ミスを押し付けられてる事にも気付かない上長の元で働くのも、いい加減馬鹿々々しいと思ってた所だ。

「それじゃあ、荷物を纏めておいで。送別会は……、そうだね、必要はないかな?」

「……。はい、何も問題はないです。」

 課長にそう伝えられて、俺は荷物を纏める。

 って言っても消耗品は基本的に備品を使ってたし、営業として引継ぎをする理由もない、俺を嵌めた連中が困る分には、俺だって構わない。

 だから、営業部の課長しかいない部屋を出て、ちょっとだけ晴れ晴れとした気持ちで、ビルを出た。


「って言っても、クビになったやつを雇ってくれるとこなんてなぁ……。」

 夜になって、夕飯を食べてから求人を漁る、でも、クビになった人間をまともな所が雇ってくれるとは思ってないし、バイトでもしながら、何か資格でも取った方が建設的かもしれない。

 施設は余裕が無くて、高校卒業とほぼ同時に追い出された、それ以降連絡があるわけでもない、仲が良かった職員さんがいたわけでも、友達がいたわけでもない。

 学校でだってそうだ、仲の良い友達がいたわけでもない、施設出身だからって虐められることの方が多かった、なら、最初から人に期待をしない方が良い。

 今回のクビだって、施設出身で高卒な俺が、営業としてちゃんと成績をキープしてたのが気に食わなかった、そんな連中からの嫌がらせが原因だ。

 他人に期待した所で、何も返って来やしない、他人に依存した所で、裏切られるのが大概のオチだ。

「大学でも行くか?」

 幸いな事に、物欲とかがあんまり無くて、貯金だけは出来てる。

 バイトしながら大学に通うだけの金は捻出出来るだろう、大学に通ったら、また就職の選択肢が増えるかもしれない。

 今は九月、受験するなら一月だろうし、まだ間に合いそうだ。

「ここら辺の大学は……。」

 確か、市内に二か所大学があった、どっちかが凄く偏差値が高くて、もう片方はそこそこの偏差値だったはずだ。

 高校時代の成績的には中の中程度だった俺からしたら、そこそこの偏差値の方の大学に出願するのが無難だろうな。

「えーっと。」

 社会人が出願する方法、を探して、勉強を思い出す為に参考書を探す。

 参考書はネットですぐに見つかる、マーチだの難関校だのの参考書が多いけど、俺がしたいのは高校時代の復習だから、そんな大仰なのはいらない。

 まあ時間はある、気ままに探していこう。


     *


「いらっしゃいませー!」

「煙草の九十番ワンカートン下さい。」

「九十番ですね?少々お待ちください。」

 クビになって何日か経って、バイトも探さなきゃななんて思いながら、煙草を買いにコンビニに足を運ぶ。

 店員さんは俺と同い年位の、丸顔で可愛らしい男性の店員だ。

 俺がゲイだっていう欲目を抜いても、女子受けは良さそうだし、同級生の男子からも可愛がられそうだな、って感じ。

 大学生なのかな、なんて思いながら、煙草を受け取って、そう言えばと思って話を振る。

「すみません、バイトって募集してたりしませんか?」

「バイトですか?店長に確認してみますね!」

「ありがとうございます。」

 バイトをしなきゃ生活が出来ない、と思ってたから、ここなら家が近いし、手っ取り早い。

 と思って、ダメもとで聞いてみて、店員さんが引っ込んで、すぐに初老の男性を連れて出てくる。

「バイトの募集?それで坂崎君、この方が?」

「はい、そうです。」

「年齢的には坂崎君と変わらない、かな?君、名前は?」

「坂入悠介です。仕事をクビになったので、大学に通う傍らでバイトをしないとと思いまして。」

「またなんで若いのにクビに?」

「施設育ちな事を言い訳に、仕事のミスを押し付けられ続けました。」

 初老の男性、店長さんは、うーんって悩んでる。

 俺が本当の事を言ってるかどうか、とかを判断してるんだろうな。

「君、何歳だい?」

「二十歳になります。今年で二十一です。」

「大学に通うって言っていたけれど、ハンデがあるのはわかっているかい?」

「はい、三年遅れになると思います。でも、何もせずに生きるより、何かをして生きた方が良いと思って。」

「……。わかった、じゃあ、ちょっとこっちに来ておくれ。」

 店長さんが、店の事務所に通してくれる。

 坂崎君は、なんでか知らないけど、ホッとした様な顔をして、レジの仕事をこなしてた。


「それで……。働くとしたら、何時から働けるかな?」

「何時でも大丈夫です。仕事をやめて数日になるので、暇してると言えば暇してますので。」

「そうか。なら、制服が届き次第働き始めてもらおうかな。大体一週間後になるけど、良いかい?」

「はい。」

「ズボンは自分で用意してね、上の服のサイズはどれくらい?」

「えっと、4Lです。」

 とんとん拍子に話が進むもんだから、こっちが驚いてるけど、店長さんは本気で俺をう雇うつもりらしい。

 僥倖って言うか、クビになった身だから暫くはバイトすら見つからないかな、なんて思ってた身としては、有難い話だ。

「了解。それじゃあ、雇用契約書は何処だったかな……。」

 事務所は雑多な休憩室も兼ねてる感じで、ちょっと小汚いって言うか、薄汚れてるって言うか、そんな感じだけど、落ち着く感じがする。

 ここで働きながら、大学を卒業して、の前に大学で何を学ぶかを決めなきゃならないな。

「はい、これ。雇用契約書ね。書き方はわかるかな?それに、扶養は入ってないかな?」

「はい、わかってます。扶養も入ってないですね。独り暮らしなので。」

「なら、扶養範囲内での労働じゃなくても平気だね。って言っても、うちはシフトが固定な人が多いから、大丈夫かな。」

「ありがとうございます。」

 店長さんは、気の毒そうな顔をする、それもそうかもしれない。

 施設育ち、そして独り暮らし、誰も庇ってはくれない、誰も助けてはくれない、それをわかってるんだろう。

 だから、こうして生きる術を身に着けようとしてる俺を、雇用しようとしてくれてるんだろう。

 感謝だ、俺にしては珍しい感情だ、感謝する対象がそもそもあんまりいなかった俺としては、感謝するって言う感情自体、珍しい事象って言うか、そう言う感情だ。

「じゃあ、今日はこれでね。電話番号だけ交換しておこうか。制服が届いたら連絡するよ。」

「はい、お願いします。」

 それだけ話をして、俺は事務所を出て煙草をもってコンビニを出る。


「ふー……。」

 煙草を吸いながら、これからの事を考える。 

 大学で何を専攻しようか、って言う話もあるし、興味のある分野を探さないとな、なんて。

 煙草も控えた方が良いんだろうか、ハンデのある、四年生になる子達に対して、俺が来年合格してたら一年生、って言うのも、違和感があったりしないかな、なんて。

 まあ、誰かと仲良くするつもりもないし、構いやしないか。

 孤高の虎を演じてる訳じゃない、俺は根本的に、人付き合いが苦手で、って言うのがある。

 幼稚園生の頃、朧気に覚えてる記憶でも、独りで遊んでたし、小学生の頃なんかは、ずっと施設育ちだからっていう理由で虐められてたり、避けられたりしてた。

 人間はつまらない、なんて思いながらずっと過ごしてきた、それはこれからも変わらないんだろう、俺は、人間が基本的に嫌いだ。

 誰かを依り代としないと生きていけない人間、誰かに依存しないと自己を確立出来ない人間、誰かと比較しないと自己評価を上げられない人間、そう言うのばっかり見て来た。

 俺の両親、もうあんまり覚えてはいないけど、俺の両親は、酒を飲んでは暴れて、周りに迷惑をかけて、最終的に依存症で入院、それで俺は、誰も引き取り手がいないって事で、施設に送られた。

 祖父母が生きてたわけでもない、親戚付き合いがあったわけでもない、だから、俺が生きていく為には、そうするしかなかった。

 結局、両親はそのまま死んだ、親父が先に死んで、おふくろが死んだって聞かされたのが十年前、それでも、俺は感情がまったく動かなかった。

 碌に世話をされて来なかった相手が死んだ所で、別にどうでも良かった、知らない人が死んだんだな、程度にしか思えなかった。

 感情が薄い、って言われるとそこまでなんだろうけど、何だろう、俺って感情が希薄なのかな。

「ふー……。」

 感情は人並みに持ってるつもりだったけど、こうも心が動く事が無いと、それも当たってる様な気がする。

 感情が希薄、人の感情にはすぐ気付く癖に、自分の感情には疎い、それが俺の性質な気がしてる。

「さて、飯作るか。」

 気が付けば夜になってる、そろそろ飯を食べないと。

 今日はまだ残暑が酷くて暑いから、素麺にでもするかな。

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