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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


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8/20

第八話「余ると、欲が出る(黙っていられない)」

第八話です

朝の浜で、誰かが言った。


「……多くね?」


誰の声でもない。

全員の感覚が、同時に同じところへ行っただけだ。


干し場。

干物。

昨日より、明らかに減っていない。


「おかしいな」

ランが首を傾げる。

「昨日、ちゃんと食ったよな?」


「食った」

「食った食った」

「我慢もした」


最後の一言で、少し空気が悪くなる。


先生は何も言わず、板を立てた。

もうこの時点で、全員が察する。


「あ〜……」

「来たな」

「朝から数か……」


「残り」


それだけ。


渋々、数える。


「……四十七」


先生、板に書く。


干物:47


その数字を見た瞬間、

村に、微妙な沈黙が落ちた。


「……余ってるよな?」

マリが言う。


「余ってるな」

「普通に余ってる」

「こんなの初めてだ」


先生は淡々と答える。

「減らさなかったから」


「それだけ?」

「それだけ」


拍子抜けした顔が並ぶ。

でも、干物から目は離れない。


「食えばいいんじゃね?」

誰かが言う。


「食えばいい」


先生があっさり言うから、

「え?」となる。


「でも」


先生は板に、もう一つ書いた。


余り=明日


「明日……」

ランが唸る。

「明日も腹は減るな」


「減る」


「じゃあ取っとく?」


先生、間髪入れずに続ける。


「取っとくと、守る話になる」


「うわ」

「出た」

「面倒くさいやつ」


先生は干し場の端を見る。

そこに、昨日はなかった縄。


「……これ、何」


全員、視線を逸らす。

完璧な連携。


「俺じゃねぇ」

「知らん」

「最初からあった気がする」


トトが小さく手を挙げる。

「……猫」


「猫?」


「夜、来るから……」


「縄で?」


「……気持ち的に」


先生は板に書いた。


縄:1(猫対策・精神)


「精神って書くな!」

「恥ずかしい!」

「俺たちの心が弱いみたいだろ!」


笑いが起きる。

だが、その直後。


「……数、合わなくね?」


マリが干物を指さす。


「昨日、五十じゃなかった?」


空気が一瞬だけ、固まる。


「……食った?」

「いや」

「朝は我慢した」

「偉いな」

「褒めるとこじゃねぇ!」


先生は板を見たまま言う。


「昨日の“五十”は、干す前か、後か」


「……あ」


「干す前なら、落ちる。犬。猫。子ども」

先生は縄を見る。

「干した後なら、人」


「言い方ァ!」

「一気に疑われるじゃん!」


先生は線を引く。


数える場所

①干す前

②干した後


「②だな」

「①は信用できねぇ」

「①はこの村の性格」


先生は頷く。

「②なら、余りは“守れる”」


「守るって言うなぁ……」

「急に責任増える……」


先生は、さらに板に書く。


余り=取引


「出た!」

「来たぞ!」

「ろくなことにならない単語!」


「取引って、誰と?」

トトが聞く。


先生は海を指した。

「あっちの村」


「よそか……」

「面倒だな」

「女多いって噂の?」


「そこ基準にするな」


ボラ爺が咳払い。

「昔、塩を貸して戻らんかった」


「何袋?」


「……覚えとらん」


先生、即書く。


覚えてない=負け


「やめろ!」

「刺さる!」

「年寄りに優しくしろ!」


先生は淡々。

「貸すと負ける。交換なら負けにくい」


「何と?」

「針。糸。炭。桶。薬草」


「全部ほしい!」

「欲、出てるぞ今!」


先生は最後に、板へ。


余りが出た

欲が出る

黙っていられなくなる


チョークを置く。


「だから、先に決める」


「何を?」

「奪うか、交換か」


一瞬、静かになる。

……が、すぐ崩れる。


ランが笑いながら言った。

「交換だろ。揉めるの面倒だし」


「夜も暇だしな」

「やめろ!」

「先生の顔見ろ!」


先生は何も言わず、海を見る。


余った。

減らさなかった。

整えた。


その次に来るのが、

欲で、下心で、軽口で、でも現実なのは――

もう、数えなくても分かっていた。


誤字脱字はお許しください。

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