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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


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61/61

第六十一話「流れは、止めるとぶつかる」

61話です。

浜は、

もう静かではなかった。


人が増えたからじゃない。


流れが生まれたからだ。


干物が半分下ろされ、

舟が二艘沖へ押し出され、

潮側は完全に受け入れの場所へ変わった。


水を運ぶ者。

怪我を見ている者。

数を叫ぶ者。


全部、

同時に動いている。


「人数!」


「十七!」


「子ども四!」


「怪我二!」


声が飛ぶ。


先生は、

板の前に立った。


だが、

書かない。


今は、

書くより速い。


王都の舟が浜へ寄る。


兵が二人、降りる。


「その者たちは――」


言い切る前に、

水桶が運ばれる。


怪我人が寝かされる。


子どもが干物を握る。


兵の言葉が、

一瞬止まる。


宗教の女が、

鈴を鳴らそうとして、

手を止めた。


帳面屋は、

書く。


だが、

手が遅い。


浜の流れが、

速すぎる。


「……先生」


ランが小さく言う。


「止めに来てる」


「分かってる」


先生は、

短く答える。


「人数」


「十九!」


「増えた!」


沖から、

さらに一艘来る。


逃げてきた舟だ。


「……おいおい」


マリが吐き出す。


「まだ来るぞ」


舟が、

浜に突っ込む。


男が叫ぶ。


「向こう、燃えてる!」


空気が、

凍る。


「祈りの村が、

 燃やされた!」


「管理派と

 殴り合いだ!」


「……あー」


ランが頭を抱える。


「崩壊したな」


先生が、

初めて板を書く。


崩壊

流れが

一方向になる


「止まらない」


マリが言う。


「止まらない」


先生が頷く。


王都の男が、

声を張る。


「この浜は

管理下に入る!」


その瞬間。


潮側の女が、

叫ぶ。


「水!」


「怪我人!」


「数、二十二!」


声が重なる。


浜は、

もう止まらない。


兵が、

足を止める。


この流れを止めると、

目の前で人が倒れる。


宗教の女が、

震える声で言う。


「……祈りを」


先生が即答する。


「後で」


短い。


だが、

強い。


帳面屋が、

板を見る。


書かれているのは、

一行。


流入


帳面屋が、

低く呟く。


「……港だ」


誰かが聞き返す。


「何?」


帳面屋が言う。


「これ、

 港の動きだ」


先生は、

振り返らない。


「まだ違う」


一拍。


「入口だ」


沖で、

雷のような音がする。


舟が、

ぶつかった。


「……おい」


ランが叫ぶ。


「難破だ!」


沖の舟が、

横転する。


波が、

高くなる。


人が、

海に落ちる。


「ロープ!」


「舟出せ!」


浜が、

爆発する。


先生が、

叫んだ。


「数えるな!」


一瞬、

全員が止まる。


「今は――」


一拍。


「拾え!」


舟が、

二艘飛び出す。


潮が、

荒れる。


海が、

叫ぶ。


王都の兵も、

動いた。


宗教の女も、

走った。


帳面屋も、

舟を押す。


正義も、

税も、

帳面も、


全部、

後ろに下がった。


海に浮かぶ人間を、

ただ拾う。


それだけ。


浜に戻る。


濡れた人。

震える子ども。

怪我人。


数が、

叫ばれる。


「二十五!」


「二十六!」


「二十七!」


先生が、

板に書く。


流入

拠点化


帳面屋が、

その文字を見て、

息を吐いた。


「……終わったな」


ランが聞く。


「何が」


帳面屋が言う。


「中立」


先生は、

チョークを置いた。


「最初からない」


波が、

浜を叩く。


この村はもう、


逃げ場ではない。


集まる場所になった。

誤字脱字はお許しください。

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