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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


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56/56

第五十六話「戻る場所があると、人は帰る」

56話です。

最初に戻ってきたのは、

足音だった。


朝。

浜の端。


誰も、

迎えに行かない。


迎えに行くと、

「事件」になる。


だから、

作業を続ける。


干物を裏返す。

網を干す。

数を、合わせる。


「……来た」


ランが、

目線だけで知らせる。


一人。


隣の村から連れて行かれ、

戻ってきた男だ。


あの時、

叫んでいた。

夜に声を上げていた。


今日は、

何も言わない。


ただ、

立っている。


「……先生」


誰かが、

小さく言う。


先生は、

見ない。


見ると、

役割が生まれるからだ。


男は、

一歩進む。


また、

止まる。


誰も、

声をかけない。


拒否じゃない。

余白だ。


男は、

地面を見る。


干物の影。

縄の跡。

数を書いた板。


「……まだ、

 数えてるんだな」


声が、

かすれている。


「数えてる」


ランが、

作業のまま答える。


「……祈りは?」


「してない」


「管理は?」


「してない」


男は、

少しだけ肩の力を抜いた。


「……よかった」


それだけ言って、

座り込む。


誰も、

抱きしめない。


誰も、

説教しない。


先生が、

板を立てる。


戻ってきた

壊れていない


「……壊れてたよ」


男が、

ぽつりと言う。


「向こうで」

「正しくしろって」

「何度も言われた」


「正しく、

 返事して」


「正しく、

 並んで」


「……途中から」

「何が正しいか、

 分からなくなった」


先生は、

一行だけ足す。


壊れる

選ばされ続けること


男は、

板を見る。


「……ここは」


「選ばせない」


マリが、

短く言う。


「選びたいなら、

 勝手に選べ」


男は、

しばらく黙っていた。


そして、

聞く。


「……俺、

 ここにいていいか」


誰も、

即答しない。


即答すると、

許可になる。


先生が、

淡々と言う。


「減らなければ」


男は、

ゆっくり頷く。


「……何すればいい」


「数える」


ランが言う。


「最初は、

 それだけだ」


男は、

板を受け取る。


手が、

少し震える。


「……一、二、三……」


数えられる。


途中で、

止まらない。


「……合ってる」


「合ってる」


マリが頷く。


昼。


男は、

干し場にいる。


誰とも、

深く話さない。


だが、

誰とも切れていない。


夜。


灯りが、

一つ増える。


外向きじゃない。

内向きだ。


ランが、

小さく言う。


「……先生」


「なに」


「戻ってきたな」


先生は、

海を見て答えた。


「戻れる形を、

 残しただけだ」


「助けた?」


「助けたとは、

 言わない」


先生は、

板に最後の一行を書く。


助け

救出


「じゃあ、

 何だよ」


先生は、

チョークを置いた。


「減らさなかった結果だ」


波が、

静かに打ち寄せる。


この村は今、

一人分の重さを、

静かに受け取った。


それは、

英雄譚じゃない。

奇跡でもない。


だが――

続けられる形だ。


次に来るのは、

感謝でも、

希望でもない。


**“二人目”**だ。


(つづく)


誤字脱字はお許しください。

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