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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


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50/56

第五十話「見せしめは、隣で起きる」

50話です。

煙は、

昼に上がった。


夜じゃない。

嵐でもない。

事故にも見えない。


ただ――

見える位置で。


「……隣の浜だ」


ランの声が、低い。


「あそこ」

マリが言う。

「この前、

 干物もらった村だな」


先生は、何も言わない。


舟が出る。

誰も止めない。

止められない。


近づくほど、

音がはっきりする。


怒鳴り声。

泣き声。

命令の声。


浜には、

王都の兵。

宗教の布。

帳面屋の箱。


三つとも、揃っている。


「……うわ」


「揃い踏みかよ」


隣の浜では、

人が並ばされていた。


列。

机。

紙。


見慣れた光景。


王都の男が、

淡々と読み上げる。


「管理不履行」

「事故報告遅延」

「不適切な取引」


宗教の女が、

優しく言う。


「祈りを拒んだ結果です」


帳面屋が、

帳面をめくる。


「記録、残っています」


隣の村の男が、

叫ぶ。


「俺たちは!」

「何もしてねぇ!」


「……それだ」


先生が、

小さく言う。


「何もしてない」


次の瞬間。


舟が、

引き離される。


「……おい!」


「待て!」


干し場が、

壊される。


「ちょっと待て!」

「それは――」


王都の男は、

一言だけ。


「例だ」


その言葉で、

全てが終わった。


宗教の女が、

子どもに布をかける。


「怖くないですよ」


帳面屋が、

書き込む。


見せしめ

効果:高


ランが、

歯を食いしばる。


「……なあ先生」


「なに」


「これ」

「俺たちの代わりだよな」


先生は、

否定しない。


「選ばなかった代価だ」


「俺たちが、

 何もしなかったから?」


「違う」


先生は言う。


「選ばされなかったから」


隣の浜から、

人が連れて行かれる。


「労役」

「再教育」

「保護」


言葉は、

全部きれいだ。


「……助けるか?」


マリが、

震える声で言う。


先生は、

静かに首を振る。


「今、動くと」

「次は、

 この浜が例になる」


沈黙。


隣の村の男が、

こちらを見る。


目が合う。


何も言わない。

だが――

分かっている目だ。


舟が、

引いていく。


煙は、

残る。


音が、

消える。


帰り道。


誰も、

喋らない。


浜に戻る。


干物は、

そのまま。


数も、

合っている。


それが、

一番きつい。


ランが、

声を絞り出す。


「……俺たち」


「うん」


「正しかったか?」


先生は、

しばらく黙っていた。


そして、

板を立てる。


正しさ

無傷


「……じゃあ、

 何なんだよ」


先生は、

チョークを置く。


「次を、

 減らせるかどうかだ」


夜。


隣の浜は、

暗い。


この浜は、

静かだ。


その差が、

胸に刺さる。


この村は今、

無事であること自体が、

 誰かの犠牲の上にある。


それを知った状態で、

明日を迎える。


次に来るのは、

怒りでも、

恐怖でもない。


“迷い”だ。

チョークシリーズは他の先生の物語もありますのでよろしければご覧ください。

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