第四十九話「最後通告は、静かに来る」
49話です。
最後通告は、
置いていかれた。
朝。
浜の入口。
紙が一枚。
重石が一つ。
風で飛ばないように、
それだけ。
「……来たな」
ランが言う。
「来たな」
マリも頷く。
「一番嫌な形で」
先生は、
紙を拾わない。
読む前に、
内容が分かっているからだ。
王都の印。
宗教の符。
帳面屋の署名。
三つが、
一行にまとめられている。
本日正午までに
立場を明確にせよ
「……正午」
「あと、
三時間か」
誰も、
動かない。
動けない。
「なあ先生」
ランが言う。
「明確にしろってさ」
「そうだな」
「どれ選ぶ?」
先生は、
首を振った。
「選ばない」
「……それも選択だろ」
「違う」
先生は、
浜を見る。
干物。
舟。
人。
「選ばせる形を、
壊す」
マリが、
低く息を吐く。
「……時間、
足りるか?」
「足りない」
即答。
「だから」
「間に合わない形にする」
沈黙。
「……何言ってんだ?」
先生は、
板を立てた。
最後通告
=
待てない側の
自白
「期限を切るのは」
先生が続ける。
「決めきれないからだ」
「王都も」
「宗教も」
「帳面屋も」
「ここを」
「どう扱うか、
決めきれてない」
「だから」
「決めさせに来てる」
「……逆にすりゃいいってことか」
マリが、
気づく。
先生は頷く。
「こちらが、
先に決める」
「何を?」
先生は、
紙を踏んだ。
「もう、
相手にしない」
一瞬、
全員が黙る。
「……無視?」
「無視」
「それ、
一番怒らせるやつだぞ」
「だからいい」
先生は言った。
「怒ると」
「静かじゃいられない」
「静かじゃなくなったら?」
「正義じゃなくなる」
正午。
鐘は鳴らない。
旗も動かない。
浜は、
いつも通り。
干物を裏返す。
舟を繋ぐ。
数を数える。
誰も、
紙に触れない。
遠くで、
舟が止まる。
王都の舟。
宗教の舟。
帳面屋の舟。
誰も、
降りてこない。
「……来ねぇな」
「来られないんだ」
先生が、
静かに言う。
「最後通告を、
無視された正義は、
次の言葉を持たない」
「……効いてる?」
「効いてる」
一拍。
「だが」
先生は続ける。
「次は、
無視できない形で来る」
「……何だよ、それ」
先生は、
海を見る。
「見せしめだ」
風が、
変わる。
遠くで、
別の浜の煙が上がる。
「……あれ」
「……あれ、
よその村だ」
誰も、
言葉を出せない。
先生は、
板に最後の一行を書く。
正義は
拒否されると
別で殴る
この村は今、
選ばなかったことで、
直接は裁かれていない。
だが――
代わりに、
周囲が削られ始めた。
次に来るのは、
要求でも、
通告でもない。
“例”だ。
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