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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


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44/56

第四十四話「噂が役に立つと、利用される」

44話です。

最初に来たのは、

挨拶だった。


「やあ」


軽い声。

軽すぎる。


朝の浜に、

見慣れない舟が一艘。


人数は少ない。

武装もない。

だが――

態度が、やけに慣れている。


「……誰だよ」


ランが警戒する。


男は笑った。


「通りすがり」

「……みたいなもんだ」


マリが即答する。

「一番信用できねぇやつ」


男は気にしない。


「噂、聞いてね」

「ここ、

 数える村なんだろ?」


浜の空気が、

少しだけ張る。


先生は、板を立てなかった。

それが、危険信号だ。


「何の用だ」


男は、

舟から箱を下ろす。


中身は――

紙と石と縄。


「……商人?」

「いや、

 帳面屋だ」


一瞬、沈黙。


「帳面?」

ランが首を傾げる。


男は、

紙をひらひらさせる。


「数えるの、

 好きだろ?」


「……」


先生が、

静かに聞く。


「何を数える」


男は、

即答した。


「他人の失敗」


浜が、

一気に冷える。


男は続ける。


「制度に入った村」

「税を払った村」

「祈りを受けた浜」


「事故」

「損失」

「揉め事」


「全部、

 数になってる」


「……最悪だな」


「褒め言葉だ」


男は笑う。


「で?」

マリが言う。

「俺たちに、

 何をさせたい」


男は、

浜を見渡す。


「噂になってるだろ?」

「何をするか分からない村」


「だから」

「安全だと思われてる」


「意味分からん」


「分からないから」

男は言う。

「手を出しにくい」


沈黙。


男は、

一歩近づく。


「そこでだ」


「ここを」

「中立地帯にしたい」


「……は?」


「揉めてる村同士」

「制度と宗教の間」

「税で詰んだ商人」


「全部、

 ここで整理する」


「整理って言葉、

 流行ってんな」


男は笑う。


「安心しろ」

「金は取らない」


「昨日も聞いた」


男は、

にやりと笑った。


「代わりに、

 情報をもらう」


浜が、

ざわつく。


「情報?」

「何の?」


男は、

指を一本立てる。


「失敗の数」


「誰が」

「いつ」

「何で損したか」


「誰が税で潰れたか」

「どこで事故が起きたか」


「それ、

 売る気だろ」


男は、

肩をすくめる。


「市場は、

 失敗で動く」


先生が、

初めて口を挟んだ。


「それは、

 噂と何が違う」


男は、

真顔になった。


「噂は、

 形がない」


「俺たちは」

「帳面にする」


沈黙。


「帳面になると」

男は言う。

「税も、宗教も、

 王都も動く」


「最悪じゃねぇか」


「でも」

男は続ける。

「お前たちの村は、

 名前を出さない」


「条件付きの安全かよ」


男は頷く。


「噂は、

 使われる」


「なら」

マリが低く言う。

「俺たちも、

 使われるってことだ」


男は、

静かに答えた。


「もう使われてる」


沈黙。


遠くで、

別の舟が通る。


誰も、

こちらを見ない。


男は、

最後に言った。


「ここは、

 値段がつかない」

「だから」

「情報の置き場になる」


舟に戻りながら、

振り返る。


「三日で返事をくれ」

「数えるのが、

 嫌いじゃなければな」


舟が去る。


浜に、

重たい沈黙。


ランが、

ぽつりと言う。


「……なあ先生」


「なに」


「俺たち、

 もう普通の村じゃねぇよな」


先生は、

海を見て答えた。


「最初からだ」


板に、

最後の一行を書く。


中立

利用価値がある状態


「これ、

 受けたらヤバいよな」


先生は、

すぐには答えなかった。


代わりに、

波の音だけが響く。


この村は今、

守られず、

 縛られず、

 だが“使える”場所になった。


次に来るのは、

拒否でも、受諾でもない。


“条件交渉”だ。


チョークには別先生が織りなすシリーズもあります。よろしければご覧ください。

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