第四十二話「税を払わない方法」
42話です。
朝の浜で、
誰も金の話をしなかった。
それが、異常だった。
「……なあ」
ランが耐えきれず言う。
「昨日の税、どうすんだよ」
「聞くな」
マリが即答する。
「今それ言うと、胃が死ぬ」
先生は、板を立てなかった。
代わりに、浜の端に置かれた
干物の山を見ている。
「売らない」
先生が言った。
一拍。
「……は?」
「いや、元から売ってねぇけど!」
先生は淡々。
「売らないことを、
明確にする」
「宣言すんの?」
「する」
ランが首を傾げる。
「それで税、消えるか?」
先生は首を振る。
「消えない」
「意味が変わる」
浜が静まる。
先生は、板を立てた。
課税
=
交換可能性への評価
「……交換?」
「売買じゃなくて?」
「同じだ」
先生は言う。
「王都は、
“価値が外に出る可能性”に
税をかける」
「じゃあ」
マリが言う。
「外に出さなきゃいい?」
「そう」
即答。
「……鎖国かよ」
「違う」
先生は、
浜の人間を見る。
「渡す」
「え?」
「売らずに、
渡す」
一瞬、
全員が黙る。
「……無料?」
「慈善?」
先生は首を振る。
「贈与だ」
「贈与って……」
「それ税かかんねぇの?」
先生は、
板に書く。
贈与
≠
継続収益
「贈与は」
先生が続ける。
「不安定だ」
「予測できない」
「基準にしにくい」
「王都、
それ嫌うやつだ」
「嫌う」
即答。
「だが」
先生は言う。
「贈与を続けると、
税をかけたくなる」
「どっちだよ!」
先生は、
一拍置いた。
「だから」
「続けない」
沈黙。
「……一回だけ?」
「気まぐれ?」
「そう」
マリが、
ゆっくり笑う。
「……性格悪ぃな」
「合法だ」
先生は、
干物を一枚取る。
「今日は、
これを渡す」
「誰に?」
先生は、
浜の外を指した。
「制度に入った村へ」
空気が、
一気に変わる。
「え?」
「敵じゃねぇか!」
「だからだ」
先生は淡々。
「売らない」
「交換しない」
「条件をつけない」
「……意味分からん」
「意味を、
向こうが考える」
昼。
舟が一艘、出る。
干物を積んで。
値段は言わない。
契約もない。
祈りもない。
ただ、
置いて帰る。
夕方。
戻ってきた舟の男が、
困った顔をして言う。
「……向こう、
めちゃくちゃ困ってた」
「なんで?」
「税、
どう処理するかで」
浜が、ざわつく。
「受け取った干物、
売ってない」
「でも、
価値はある」
「寄付扱いにすると、
宗教が絡む」
「備蓄扱いにすると、
王都が絡む」
「……どっちも面倒だな」
先生は、
静かに言った。
「税は」
「価値が安定した瞬間に
かけられる」
「贈与は」
「安定しない」
「しかも」
マリが言う。
「敵から来た」
「だから」
ランが気づく。
「使えねぇ!」
先生は頷く。
「税は、
予測できない善意を
処理できない」
「王都、
頭抱えるな」
夜。
浜に、
紙の男が来ない。
祈りの女も来ない。
代わりに――
遠くで、騒ぎ声。
制度に入った村が、
揉めている。
ランが、
ぽつりと言う。
「……これさ」
「うん」
「俺たち、
払ってないけど」
「うん」
「誰も、
取りに来ねぇな」
先生は、
海を見て答えた。
「取りに来るのは」
「安定した村だ」
波が、
静かに打ち寄せる。
この村は今、
金にも、制度にも、
祈りにもできない存在になった。
それは――
守られない代わりに、
値段をつけられない状態。
王都が、
一番嫌うやつだ。
(つづく)
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