第四十一話「自由には、税が来る」
41話です。
朝の浜で、
紙が一枚、置かれていた。
誰も持ってきたところを見ていない。
だが、確実に“そこにある”。
「……来たな」
ランが紙を指さす。
「来たな」
マリがうなずく。
「一番、現実的なやつ」
先生は、紙を拾い上げる。
読む。
黙る。
「何て書いてある」
ランが聞く。
先生は、板を立てた。
課税通知
(暫定)
一拍。
「……は?」
「税?」
「売ってねぇぞ!?」
先生は淡々。
「売っていると“見なされた”」
浜がざわつく。
「来客ゼロだぞ!」
「金、動いてねぇ!」
先生は、紙を指す。
「“潜在的生産能力”」
「“将来利益”」
「“管理外収益リスク”」
「言葉が全部ムカつく!」
マリが歯噛みする。
「まだ何も取ってねぇのに」
「取る前から、取るのかよ」
先生はうなずく。
「自由は」
「予測される」
「予測って何だよ!」
先生は、板に書く。
税
=
管理の最終手段
「殴ってきたな……」
ランが低く言う。
紙の下段には、
細かい文字。
「納付方法」
「納付期限」
「不履行時の措置」
「……措置って?」
先生は、少しだけ間を置いて言う。
「差し押さえ」
「舟」
「干物」
「場合によっては、人」
沈黙。
「……人?」
「税で?」
「労役」
先生が答える。
「名目上は」
浜の空気が、
一気に冷える。
マリが、
低い声で言う。
「……これ、
制度拒んだ罰じゃねぇか」
先生は否定しない。
「制度に入らない自由はある」
「ただし、
安くはない」
その時。
「なあ」
ランが、
紙を指さす。
「この金額」
全員が見る。
「……多くね?」
「多い」
先生は即答する。
「売上基準じゃない」
「可能性基準だ」
「可能性に税かけるとか、
悪魔かよ」
先生は、板にもう一行書く。
自由
→
想像される
→
課税される
「思想税か!」
昼。
誰も、作業に集中できない。
干物はある。
舟もある。
だが、
数字が頭から離れない。
「払う?」
ランが聞く。
「払えるか?」
マリが返す。
「払えなくは……ない」
「でも払ったら、
次も来る」
先生は言う。
「一度払うと」
「基準が固定される」
「払わないと?」
「違反」
「どっちも地獄かよ!」
夕方。
先生は、
浜の中央に立つ。
「数える」
全員が、
自然に集まる。
「今ある金」
「干物の量」
「舟の数」
「人の数」
声が重なる。
先生は、
静かにまとめる。
「払える」
「だが――」
一拍。
「払うと、
自由が減る」
「じゃあどうすんだよ!」
先生は、
板に最後の一行を書く。
税は
払うか
作り変えるか
「作り変える?」
「何を?」
先生は、
紙を折りたたんだ。
「課税される前提だ」
沈黙。
「逃げない」
「隠さない」
「でも、
思われている形で動かない」
ランが、
ぽつりと言う。
「……また、
ややこしいこと考えてるだろ」
先生は、
少しだけ笑った。
「数字は」
「嘘をつかない」
「でも」
「嘘を前提に作られる」
夜。
浜は、静かだ。
だが、
この静けさは――
嵐の前。
自由を選んだ村に、
今度は
金という名前の首輪が
差し出された。
次に来るのは、
交渉か、
見せしめか、
それとも――
別の自由の形か。
(つづく)
チョークには、別のストーリーごありますので、よろしければご覧ください。




