第四十話「孤立すると、自由が増える」
40話です。
朝の浜で、
誰も急いでいなかった。
「……静かすぎて逆に怖いな」
ランが欠伸を噛み殺す。
「来ないね」
マリが沖を見る。
「本当に、誰も」
舟もない。
視線もない。
噂も届かない。
先生は、板を立てなかった。
それが、合図だった。
「今日は」
先生が言う。
「好きにやれ」
一瞬、沈黙。
「……え?」
「今、何て?」
「先生、壊れた?」
先生は淡々。
「減らさなければ、いい」
空気が、変わる。
「干し場」
「動かしていい?」
「向き変えたい」
「舟の位置」
「潮に合わせてずらす」
「塩」
「昨日より少し減らしたい」
次々に声が出る。
マリが笑った。
「……今まで、
全部“許可待ち”だったな」
「待ってない」
先生は言う。
「見られていただけだ」
全員が、納得する。
昼。
干し場が、変わった。
並びが違う。
間隔が違う。
日陰の使い方が違う。
「……早くね?」
ランが言う。
「乾き、均一だ」
「事故、起きにくいな」
「夜の湿気も、
溜まりにくい」
誰も、
止めない。
誰も、
報告しない。
「……これ」
マリが言う。
「制度入ってたら、
全部“改善申請”だよな」
「却下されるやつだ」
ランが笑う。
先生は、少し離れて見ている。
「自由は」
先生が言った。
「説明を省ける」
「それ、最高だな」
夕方。
干物を一枚、
切り分けて食べる。
「……うまくね?」
「味、立ってる」
「保存も、問題ない」
誰も、値段を考えない。
「売らない前提だと」
マリが言う。
「味、気にできるな」
その時。
「……なあ」
ランが、声を落とす。
「これさ」
「うん」
「誰も見てないってことは――」
全員が、
同じことを考える。
「やりすぎても、
止められない」
沈黙。
先生が、
ゆっくり言った。
「だから、数える」
板を立てる。
自由
+
孤立
=
暴走しやすい
「自覚はあるな……」
「自由は」
先生は続ける。
「自制がないと、
すぐ形を変える」
夜。
浜は、暗い。
灯りは最小限。
誰も来ない。
来ないから――
誰にも見られない作業が始まる。
網の改良。
舟底の加工。
干し場の構造変更。
「……これ」
「王都見たら、
アウトだな」
「宗教も怒る」
「でも」
ランが言う。
「効率、上がるぞ」
先生は、
何も止めない。
ただ、
板に書く。
試したこと
結果
減った数
増えた数
翌朝。
浜は、
少しだけ変わっていた。
誰にも気づかれない程度に。
だが、確実に。
マリが、
ぽつりと言う。
「……俺たち」
「うん」
「もう、
戻れなくなってない?」
先生は、
海を見て答えた。
「戻らない選択をした」
波が、
静かに打ち寄せる。
孤立した村は今、
誰にも邪魔されず、
誰にも守られず、
進み始めた。
それが、
自由の正体だ。
だが――
自由は、
必ず
値段を後払いで請求してくる。
(つづく)
誤字脱字はお許しください。




