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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


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第四話 僕の干物は裏切らない

第四話です

朝の港は、やや忙しそうだった。


昨日より魚は少ない。

その代わり、干し場が騒がしい。


「ねえ、これ大丈夫?」

「昨日より匂いマシじゃない?」

「鼻、慣れただけじゃない?」


朝から信用できない会話が飛び交っている。


「先生、ちょっと見て」


呼ばれて干し場に行く。

魚がずらりと並んでいるが、

並び方が雑だ。


「……これは」

「どう?」

「正直に言って」


正直に言う流れができている。

少し前なら、ここで話は終わっていた。


「先にダメになります」

「どれ?」

「この辺から」


指をさすと、女が顔をしかめた。


「えー、昨日ちゃんと干したよ?」

「重なってます」

「そこ?」

「そこです」


一拍。


「先生、細かい」

「魚は細かい方が長持ちします」


笑いが起きた。



男たちも寄ってくる。


「じゃあ、どうすりゃいい?」

「間を空けてください」

「めんどくさいな」

「腐るより楽です」


即答すると、

誰かが吹き出した。


「確かに」

「腐ると後がめんどい」


この村では、

めんどくささが最大の判断基準だ。



並べ直す。


「これくらい?」

「もう少し」

「これ?」

「はい」


女が魚を動かしながら言った。


「先生さ」

「はい」

「魚相手だと、妙に優しいね」


「扱いを間違えると、結果がすぐ出るので」


「人も同じじゃない?」

「……魚より時間がかかります」


笑いが広がる。



昼。


干した魚をひっくり返す。


「先生、これ」

「はい」

「昨日より良くない?」


触る。

乾きが均一だ。


「良いです」

「でしょ」


どこか誇らしげだ。


「じゃあ、これ売り値上げできる?」

「できます」

「いくら?」

「昨日より、ほんの少し」


「ちぇ」


欲は正直だ。



分配の場。


今日は揉め方が短い。


「これ、干し分でしょ」

「じゃあこっちは今日の分」

「昨日より分かりやすいね」


分かりやすさが、

少しだけ勝っている。


「先生、いいこと言った?」

「干しただけです」

「それがいいこと」


この村の基準は低い。



夕方。


女たちが干し場を見ながら話している。


「今日、夜どうする?」

「魚触りすぎて疲れた」

「じゃあ軽め」

「明日もあるし」


理由が全部現実的だ。


「先生は?」

「今日は見回りです」

「真面目」


真面目という言葉が、

冗談として使われている。



夜。


干し場を回る。


風向きは悪くない。

だが、一部が近い。


「……ここ」


動かすと、

隣から声が飛ぶ。


「先生、また?」

「ここだけ」

「魚、逃げないよ?」


「でも、悪くなります」


「先生、ほんと魚に厳しいね」

「魚は裏切りませんから」


「人は?」

「裏切ります」


即答すると、

暗闇で笑いが起きた。



翌朝。


干物の出来が、明らかに違った。


「……あれ?」

「今日の、いいね」

「匂い、違う」


鼻が信用されている。


「先生、これ売れる?」

「売れます」

「高く?」

「昨日より」


小さくガッツポーズが出た。



港の端で、少年が板を見ていた。


「先生」

「はい」

「魚、ちゃんとすると楽だね」


「楽ではありません」

「え?」


「後が楽になります」


少年はしばらく考えてから、

頷いた。


先生は板に書いた。


ちゃんと干す

→ 今日が楽

→ 明日も楽

→ 噂は減る


「先生」

「はい」

「噂、減らしたいんだ」


「……魚より難しいです」


少年は笑った。


干物は裏切らない。

人は、たまに裏切る。

でも――

ちゃんとすると、結果は残る。


この村は、

少しずつそれを覚え始めている。


先生も、

少しだけ“先生らしく”なってきた。



次回予告


第五話

「ちゃんとすると、面倒が増える」


誤字脱字はお許しください。

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