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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


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34/56

第三十四話「祈りを断ると、悪者になる」

34話です。

噂は、朝より早かった。


浜に来た時点で、

もう空気が違う。


「……見られてね?」

ランが小声で言う。


「見られてる」

マリが即答する。

「しかも、責める目だ」


昨日まで、

“堅い村”

“変な村”

だった視線が――

今日は、**“冷たい村”**になっている。


先生は、板を立てなかった。

その代わり、浜を一周する。


誰も声をかけない。

だが、離れもしない。


「……なあ」

ランが耐えきれず言う。

「何か言われた?」


「言われてない」

マリが答える。

「だから、言われてる」


その時。


「おはよう」


声は、柔らかい。

昨日の女だ。

祈りの一団。

人数が、増えている。


「今日は、祈らせていただきますね」


“いただきます”。


その言葉に、

浜の空気がざわつく。


「許可してねぇ」

ランが言う。


女は困ったように笑う。


「拒む理由は、ありますか?」


一瞬、沈黙。


先生が答えた。


「まだ、数えている」


女は頷く。

だが、その頷きは――

納得じゃない。


「祈りは」

女は静かに言う。

「亡くなった方のためだけではありません」


「じゃあ何だ」

マリが聞く。


「生きている皆さんのためです」


浜が、ざわつく。


「……俺たちのため?」

「勝手に決めるなよ」


女は続ける。


「祈りを拒むということは」

「救いを拒む、ということです」


空気が、冷える。


先生は板を立てた。


拒む

否定


「意味、通じるか?」

ランがぼそっと言う。


女は、少し首を傾げる。


「同じでは?」


「違う」


先生は淡々。


「祈りは、選べない形で来る」

「それは、管理と同じだ」


一瞬、

女の笑顔が、遅れた。


「……私たちは」

「善意で来ています」


「善意は」

先生は言った。

「断られると、怒る」


浜が、静まり返る。


誰かが、ひそひそと囁く。


「……祈りくらい、いいんじゃね?」

「拒む方が、感じ悪くない?」

「事故、あったんだし……」


空気が、

内側から削れていく。


ランが焦ったように言う。


「なあ先生」

「このままだと、

 俺たちが“悪者”だぞ」


「もう、なっている」


即答。


女は、一歩前に出た。


「祈らせてください」

「静かに」

「何も要求しません」


「要求してるだろ」

マリが低く言う。

「“拒むな”って」


先生は、鐘を見る。


「祈りは、音が残る」


女が鐘に手を伸ばす。


その瞬間。


「……やめろ」


トトの声だった。


小さい。

でも、はっきり。


「その音」

「昨日の夜と、同じ」


浜が、凍る。


女の手が止まる。


「……どういう意味?」


トトは震えながら言う。


「夜、浜にいた」

「あの鐘」

「鳴ってた」


全員が、女を見る。


女は、すぐに笑顔を取り戻した。


「子どもの勘違いです」


先生が、静かに言った。


「勘違いかどうかは」

「数えれば分かる」


「……何を?」


「鳴った回数」

「鳴った時間」

「鳴った場所」


女は、答えない。


浜の空気が、

完全に変わった。


「祈りを断ると」

先生が言う。

「悪者になる」


「でも」

一拍。


「祈りを許すと、

 嘘が入る」


女は、ゆっくり一礼した。


「今日は、引きます」


去り際、こう言った。


「悪者になるのは」

「辛いですよ」


浜に、重たい沈黙。


ランが呟く。


「……もう、戻れねぇな」


先生は頷いた。


「善意を断った以上」

「次は、“正義”が来る」


波が、強く打ちつける。


この村は今、

**“守らない選択をした場所”**として

名前を呼ばれ始めている。


それは、

干物より重く、

事故より長く残る。


(つづく)


誤字脱字はお許しください。

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