表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/56

第三十二話「見つかると、名前をつけられる」

32話です。

朝の浜に、

札が立った。


誰が立てたのか、分からない。

昨日まで、なかった。


白い木札。

黒い文字。


「……何これ」


ランが読もうとして、止まる。


「読めない?」

マリが聞く。


「読めるけど」

「読みたくない」


先生は、札を見て言った。


「読め」


ランが渋々、声に出す。


「――“第七漁業管理区・仮”」


一拍。


「……仮?」

「誰が決めた!」

「いつの間に!」


先生は板を立てた。

久しぶりに、地名ではない言葉を書く。


名前

管理の入口


「嫌な等式だな!」

「もっとロマンあるやつにしろ!」


マリが腕を組む。

「で?誰が来る」


答えは、すぐ来た。


浜の端から、

同じ靴音が三つ。


昨日の“紙を持つ男”たちだ。

今日は、人数が増えている。

服も、さらにきれい。


「おはようございます」

「正式な手続きに来ました」


「正式って言葉、信用できねぇ」

ランが即ツッコむ。


男は笑顔のまま続ける。


「この浜は、

 “管理されていない状態”が確認されました」


「昨日まで普通に回ってたぞ!」

「干物も減ってねぇ!」


「回っているかどうかと」

男は紙を見る。

「管理されているかどうかは、別です」


先生が一歩前に出る。


「管理とは?」


「名前をつけることです」


浜がざわつく。


「名前?」

「もうあるだろ!」

「ここは、ここだ!」


男は頷いた。

だが、その頷きもまた、

聞いていない頷きだった。


「通称は把握しています」

「ですが、公式ではありません」


「公式にすんな!」

マリが叫ぶ。


男は穏やかに言う。


「公式になると、

 “守られます”」


一瞬、静まる。


「……守る?」

ランが眉をひそめる。


「事故が起きた場合」

「責任の所在が明確になります」


「責任って」

「誰のだよ!」


男は、はっきり言った。


「皆さんの、です」


空気が、一段冷える。


先生は、札を指した。


「“仮”とは?」


「観察期間です」

「問題がなければ、本登録になります」


「問題があったら?」


「改善指導」

「それでもだめなら――」


男は、言葉を濁した。


「……別の管理方法を」


ランが小声で言う。

「奪う、って言えよ」


先生は、板に書いた。


名前がつく

基準が来る


「基準って何だよ!」

「干物の固さ!?」

「夜の静かさ!?」


男は答える。


「生産量」

「事故件数」

「人的損失」


「……死も、数に入るのか」


先生の問いに、男は頷いた。


「当然です」


一瞬、浜が静まり返る。


先生は、ゆっくり言った。


「数えるのは、こちらだ」


男は笑った。


「ええ。

 ですから、共有しましょう」


「嫌だな、その言い方」


その時、

逃げてきた村の男が前に出る。


「……名前がつくと」


「はい」


「俺たちは、ここにいられる?」


男は一瞬だけ、間を置いた。


「登録が終わるまでは」


「そのあと?」


「……基準次第です」


浜に、ざわめき。


マリが低く言う。

「人を、干物みたいに言うな」


先生は、札を引き抜いた。

地面に置く。


「名前は、仮のままにしろ」


男は驚いた顔をする。

「それは……」


「こちらの基準が、まだだからだ」


先生は板に、最後の一行を書いた。


名前は

守るためにつく

――とは限らない


「……覚悟、いりますよ」


男が言う。


先生は頷いた。


「もう、数えている」


男たちは引いた。

だが、札は置いていった。


浜に残る、

“仮”の名前。


ランが呟く。

「なあ先生」


「なに」


「名前、ついたらさ」


「うん」


「戻れないよな」


先生は海を見て答えた。


「戻らない」


波が、強くなる。


この漁村は今、

“場所”から“対象”になった。


次に来るのは、

守りか、

締め付けか、

あるいは――

信仰。


(つづく)


誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ