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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


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31/56

第三十一話「死を数えると、黙れなくなる」

31話です。

朝の浜は、

静かすぎた。


波の音が、やけに大きい。


誰も冗談を言わない。

誰も下を向かない。

全員が――待っている。


「……数えるのか?」


ランが、ついに聞いた。


先生は首を振る。


「もう数えてある」


「いつ?」


「昨日の夜」


誰も聞いていない。

誰も見ていない。

それでも、先生は言い切った。


「一人、減った」


浜に、重たい空気が落ちる。


「……名前は?」


マリが聞く。


先生は、少しだけ間を置いた。


「まだ、分からない」


「数えたのに?」


「数えたのは“減った事実”だ」


「人は、あとで来る」


誰も反論できなかった。


その時。


「おはようございます」


浜に、

妙に丁寧な声が響いた。


振り返ると、

見慣れない男が二人。


服がきれいだ。

靴が乾いている。

そして――紙を持っている。


「……誰だよ」

ランが小声で言う。


男の一人が、にこやかに頭を下げた。


「噂を聞きまして」


「どれだよ」

マリが即ツッコむ。


「この浜で、

 事故があったと」


空気が、凍る。


先生が一歩前に出る。


「事故は、確認中だ」


男は頷く。

だが、その頷きは――

聞いていない頷きだった。


「こちらとしては」

男は紙を見ながら言う。

「“事件性がない”と助かります」


「……は?」


ランが声を荒げる。


「助かるって、誰が!」


男は笑顔のまま答える。


「皆さん、です」


浜がざわつく。


「事件になると」

男は続ける。

「色々、面倒ですから」


「昨日、“面倒だから奪えない”って言われたぞ」

ランが言う。

「今日は“面倒だから黙れ”か?」


男は笑った。

「理解が早い」


その瞬間。


「……先生」


トトが、小さく手を挙げた。


「その人」

「昨日、夜に見た」


浜が、一気に男を見る。


「……ほう?」


男は一瞬だけ、言葉に詰まる。


先生が、静かに言った。


「死を数えると」

「黙れなくなる」


「何を?」


「矛盾だ」


先生は、浜を指した。


「夜に来ていないと言った」

「だが、子どもは見ている」


「事故と言った」

「だが、説明を急いでいる」


男の笑顔が、少しだけ固まる。


「……子どもの記憶は曖昧です」


「干物は、曖昧でもいい」

先生は言った。

「人は、だめだ」


沈黙。


もう一人の男が、低い声で言う。


「……深入りは、勧めません」


「勧められてない」

マリが即答する。


「選んでいる」


先生は、初めてはっきり言った。


「ここは」

「黙る場所じゃない」


男たちは、顔を見合わせる。


「……今日は引きましょう」


舟に戻る背中は、

昨日の“奪う側”と同じだった。


去ったあと、

浜に、ざわめきが戻る。


「……なあ」

ランが言う。

「これ、もう干物の話じゃねぇな」


「とっくにな」

マリが答える。


先生は、海を見ている。


「死を数えると」

先生が言う。

「“関係ない人”が、関係してくる」


「王都?」

「宗教?」

「軍?」


先生は、否定しない。


「全部だ」


誰も笑わなかった。


だが、誰も逃げなかった。


浜には、

干物がある。

舟がある。

人がいる。


そして――

一人、いない。


その“空白”を、

誰かが埋めに来る。


それは、

正義かもしれない。

都合かもしれない。

救いの顔をした、管理かもしれない。


先生は、板を立てた。


数えた瞬間に

共有される


「……重すぎる」

ランが呟く。


先生はチョークを置いた。


「だから」

「ここからは、

 村だけの話じゃない」


波が、強くなる。


この漁村は今、

“見つかった”。


(つづく)


誤字脱字はお許しください。

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