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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


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30/56

第三十話「事故に見せかけると、死人が出る」

30話です。

朝の浜で、

先生が最初にしたことは――数えなかった。


それだけで、全員が異変を察した。


「……先生?」

ランが声を潜める。


先生は、海を見ている。

いつもより、長く。


「今日は」

先生が言った。

「数えない」


一瞬、ざわつく。


「は?」

「昨日あれだけ数えろって!」

「事故来るって言ったじゃん!」


先生は振り返る。


「だからだ」


浜が静まる。


「事故は」

先生は続ける。

「数えられると、起きない」


「……逆じゃね?」


「逆だ」


先生は淡々。

「事故に見せかけるには、

 “数えてない瞬間”が必要だ」


全員が、嫌な想像をする。


その時。


「おーい」


軽い声。

軽すぎる。


浜に、見慣れた舟。

昨日、夜に来た連中の一艘。


「今日は昼かよ!」

「堂々としてんな!」


男が降りてくる。

一人。

笑顔。


「ちょっと困っててさ」


「その前置きで困らせる気だろ」


男は肩をすくめる。

「舟、見てくれない?」


「……舟?」


「昨日、夜に板が割れて」


一瞬、空気が張る。


「夜?」

「夜は出てねぇだろ」


「漂流しただけだよ」

男は笑う。

「事故」


その言葉に、

先生の視線が鋭くなる。


「事故は」

先生が言った。

「昼に確認する」


男は一瞬だけ、言葉に詰まる。


「……まあ、そうだな」


舟を浜に引き上げる。

確かに、板が割れている。


「うわ……」

「これ、出たら死ぬやつだろ」


「昨日の夜だったら……」


先生は舟に触れない。


「誰が乗っていた」


男は即答した。

「一人」


「名前は」


「……」


一瞬の沈黙。


「名前は?」


先生は、もう一度聞いた。


男は笑った。

「流れ者だ」


その瞬間。


「……出た」


マリが低く言う。

「死体が出ない事故の言い訳」


ランが唾を飲む。

「なあ先生……」


「分かってる」


先生は、浜を見渡した。


「今日は」

「数えない」


「でも」

「覚える」


全員が、男を見る。


「誰が」

「いつ」

「何を言ったか」


男は一歩下がる。


「……ただの事故だぞ?」


先生は頷く。


「事故だ」


「でも」


一拍。


「事故に見せかけたものは、

 数えられた瞬間に壊れる」


沈黙。


その時、

逃げてきた村の男が走ってくる。


「先生!」


「……何だ」


「海の向こうで――」

「舟、転覆してる!」


全員が凍る。


「……人は?」

マリが叫ぶ。


「一人……」

「見つかってない」


男が、ゆっくり笑った。


「ほらな」

「事故だ」


その瞬間。


先生が、初めて強い声を出した。


「――数えろ」


一斉に動く。


舟。

人。

来訪者。

干物。


声が重なる。


「舟、一艘足りない!」

「人、一人足りない!」


先生は、男を見る。


「あなたが言った“流れ者”だ」


男の笑顔が、消える。


「名前を言え」


沈黙。


「言え」


浜の全員が、

男を見ている。


「……知らない」


「嘘だ」


先生は静かに言った。


「事故は、数を嫌う」


「嘘は、数に弱い」


男は、後ずさる。


「今日は引く」


「もう引いている」


先生は板を立てた。

今までで、一番太く。


事故

数えなかった結果


「……俺たちのせいか?」


ランが震える声で聞く。


先生は首を振る。


「数えない時間を、

 狙われただけだ」


海は、静かだ。

静かすぎる。


その日、

行方不明者は見つからなかった。


だが――

村は、初めて“死”を数えた。


それは、

干物でも、舟でもない。


「人」だ。


先生は、海を見て言った。


「ここからは」

「戻れない」


誰も笑わなかった。


この村は今、

“守れた村”から

“奪われなかった村”へ

完全に変わった。


誤字脱字はお許しください。

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