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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


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29/56

第二十九話「潰しが効かないと、奪いに来る」

29話です。

夜の浜で、

数が合わなかった。


「……待て」


ランが低い声を出す。


「今、何枚って言った?」


「四十七」

「いや、俺は四十六って聞いた」


一瞬、空気が凍る。


先生は板を立てない。

代わりに、干し場へ歩く。


数える。


「……四十七」


静かな安堵。


「聞き間違いか……」

「心臓に悪い」


先生は干物を一枚、持ち上げた。


「数は合ってる」


「じゃあ何だよ」


「配置が違う」


全員が、干し場を見る。


確かに。

位置が、微妙にずれている。


「……触られてる?」

マリが言う。


「盗られてないけど」

「並び、変じゃね?」


先生は淡々。


「奪えなかったから」

「“触った”」


「嫌な言い方するな!」


その時。


浜の外れから、足音。


重い。

迷いがない。


現れたのは――

昼に来なかった男たち。


数は四人。

昨日の連中だ。


「こんばんは」


声が軽い。

軽すぎる。


「夜は取引外だ」

ランが即言う。


男は笑った。

「知ってる」


「じゃあ帰れ」


「帰らない」


空気が、一段下がる。


先生が一歩前に出る。


「何が欲しい」


「全部」


即答。


「昨日と同じだな」

マリが吐き捨てる。


男は肩をすくめる。

「昨日は“話”だった」


「今日は?」


「回収」


一瞬、誰も声を出せない。


先生は静かに言う。


「奪うなら、数が減る」


「だから?」


「数が減ると、全員が見る」


男は笑った。

「見る前に終わらせる」


その瞬間。


「……数えろ」


先生の声。


誰に命じたわけでもない。

だが、全員が動く。


「四十七!」

「舟、全部ある!」

「人、全員いる!」


声が重なる。


男たちの顔が、僅かに歪む。


「……面倒だな」


「そうだ」

先生は頷く。

「面倒だから、奪えない」


男が一歩近づく。


「理屈で守れると思うなよ」


「理屈じゃない」

先生は答える。

「習慣だ」


沈黙。


その沈黙を破ったのは、

別の舟だった。


沖から、灯り。


一艘じゃない。

二艘。

三艘。


「……何だ?」

男が振り返る。


舟が近づく。

乗っているのは――

見たことのある顔。


逃げてきた村の男。

昼に干物を買った男。

噂を聞いて様子見していた人間たち。


「……何してる?」

誰かが言う。


「夜だぞ?」


彼らは口々に言った。


「数が減るって噂、聞いた」

「確認に来た」

「減ってなかった」


浜が、

一気に“見られる場所”になる。


男たちの顔色が変わる。


「……今日は引く」


「賢い」

マリが即答。


男は去り際に言った。


「でもな」


「並んだ村は」

「必ず、どこかで踏まれる」


舟が去る。


浜に、重たい沈黙。


ランが息を吐く。

「……エロどころじゃなかったな」


「命の方が先だ」


先生は、干し場を見て言う。


「奪いに来ると」

「次は、事故に見せかける」


全員が、嫌な顔をする。


「それ、一番嫌なやつだろ」

「防げんの?」


先生は一拍置いて答えた。


「防ぐ」


「どうやって?」


先生は、久しぶりに板を立てた。

太く、はっきり。


事故

準備不足


「……来るな」

「次、絶対来るな」


夜の海が、静かすぎる。


この村は今、

“奪われなかった”段階を越えた。


次に来るのは――

偶然を装った必然。


(つづく)


誤字脱字はお許しください。

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