第二十九話「潰しが効かないと、奪いに来る」
29話です。
夜の浜で、
数が合わなかった。
「……待て」
ランが低い声を出す。
「今、何枚って言った?」
「四十七」
「いや、俺は四十六って聞いた」
一瞬、空気が凍る。
先生は板を立てない。
代わりに、干し場へ歩く。
数える。
「……四十七」
静かな安堵。
「聞き間違いか……」
「心臓に悪い」
先生は干物を一枚、持ち上げた。
「数は合ってる」
「じゃあ何だよ」
「配置が違う」
全員が、干し場を見る。
確かに。
位置が、微妙にずれている。
「……触られてる?」
マリが言う。
「盗られてないけど」
「並び、変じゃね?」
先生は淡々。
「奪えなかったから」
「“触った”」
「嫌な言い方するな!」
その時。
浜の外れから、足音。
重い。
迷いがない。
現れたのは――
昼に来なかった男たち。
数は四人。
昨日の連中だ。
「こんばんは」
声が軽い。
軽すぎる。
「夜は取引外だ」
ランが即言う。
男は笑った。
「知ってる」
「じゃあ帰れ」
「帰らない」
空気が、一段下がる。
先生が一歩前に出る。
「何が欲しい」
「全部」
即答。
「昨日と同じだな」
マリが吐き捨てる。
男は肩をすくめる。
「昨日は“話”だった」
「今日は?」
「回収」
一瞬、誰も声を出せない。
先生は静かに言う。
「奪うなら、数が減る」
「だから?」
「数が減ると、全員が見る」
男は笑った。
「見る前に終わらせる」
その瞬間。
「……数えろ」
先生の声。
誰に命じたわけでもない。
だが、全員が動く。
「四十七!」
「舟、全部ある!」
「人、全員いる!」
声が重なる。
男たちの顔が、僅かに歪む。
「……面倒だな」
「そうだ」
先生は頷く。
「面倒だから、奪えない」
男が一歩近づく。
「理屈で守れると思うなよ」
「理屈じゃない」
先生は答える。
「習慣だ」
沈黙。
その沈黙を破ったのは、
別の舟だった。
沖から、灯り。
一艘じゃない。
二艘。
三艘。
「……何だ?」
男が振り返る。
舟が近づく。
乗っているのは――
見たことのある顔。
逃げてきた村の男。
昼に干物を買った男。
噂を聞いて様子見していた人間たち。
「……何してる?」
誰かが言う。
「夜だぞ?」
彼らは口々に言った。
「数が減るって噂、聞いた」
「確認に来た」
「減ってなかった」
浜が、
一気に“見られる場所”になる。
男たちの顔色が変わる。
「……今日は引く」
「賢い」
マリが即答。
男は去り際に言った。
「でもな」
「並んだ村は」
「必ず、どこかで踏まれる」
舟が去る。
浜に、重たい沈黙。
ランが息を吐く。
「……エロどころじゃなかったな」
「命の方が先だ」
先生は、干し場を見て言う。
「奪いに来ると」
「次は、事故に見せかける」
全員が、嫌な顔をする。
「それ、一番嫌なやつだろ」
「防げんの?」
先生は一拍置いて答えた。
「防ぐ」
「どうやって?」
先生は、久しぶりに板を立てた。
太く、はっきり。
事故
=
準備不足
「……来るな」
「次、絶対来るな」
夜の海が、静かすぎる。
この村は今、
“奪われなかった”段階を越えた。
次に来るのは――
偶然を装った必然。
(つづく)
誤字脱字はお許しください。




