第二十六話「休むと、考える(ろくでもない案が出る)」
26話です。
昼の浜で、
誰も動いていなかった。
正確に言うと――
動かなくていい時間だった。
「……なあ」
ランが仰向けのまま言う。
砂が背中に張り付いている。
「俺たち、今なにしてる?」
「休んでる」
マリが即答する。
「働いてない?」
「働いてない」
「……いいのか?」
「昼だ」
先生の声が、遠くから飛んでくる。
「この村で“昼だ”が免罪符になる日が来るとはな」
「歴史的瞬間だぞ」
誰も反論しない。
できない。
眠いから。
だが――
暇は、静かに人を壊す。
「……なあ」
今度は、別の男。
「考えちゃったんだけど」
全員が一斉に嫌な顔をする。
「考えた、は禁止」
「夜だけにしろ」
「昼は危ない」
男は無視して続けた。
「俺たちさ」
「干物、ちゃんと作れてるよな」
「おう」
「事故も減った」
「猫はいるけどな」
「……それ、売り方、もったいなくね?」
一瞬、静止。
ランが起き上がる。
「……どの方向の“もったいない”だ」
「安すぎじゃね?」
空気が、変わる。
マリが眉を寄せる。
「値段の話?」
「そう」
男は砂を掴みながら言う。
「よそ、もっと高く売ってる」
「……」
「……」
「……昼に言う話じゃねぇ」
先生が、ゆっくり近づいてきた。
「続けて」
「え?」
「いいのか?」
「いい」
先生は淡々。
「休むと、考える」
男は勢いづく。
「保存もできる」
「数も分かる」
「事故も減った」
「だったらさ」
「ちょっと“いい干物”として売れない?」
一瞬の沈黙。
そして――
「調子乗ってない?」
「一気に商売人じゃん」
「この村だぞ?」
女が口を挟む。
距離、近い。
「でもさ」
「よそから来た人、言ってたよ」
「何を」
「“この村の干物、安すぎて怖い”って」
「それ悪口だろ!」
「信用されてねぇ!」
先生は板を立てた。
久しぶりに。
値段
=
信用
全員が黙る。
「……重い」
「昼寝からの落差」
先生は続ける。
「安すぎると、疑われる」
「高すぎると、恨まれる」
「じゃあどうすんだよ!」
先生はチョークを止める。
「考える」
「またそれ!」
先生は板に、もう一行。
“理由のある値段”
ランが首を傾げる。
「理由?」
「保存」
「数」
「事故が少ない」
「それ、説明すんの?」
「しない」
即答。
「え?」
「見せる」
浜を見渡す。
干し場。
板。
数える人。
減らない干物。
「……あ」
誰かが気づく。
「これ自体が、理由か」
先生は頷く。
「考えすぎると、失敗する」
「でも、考えないと、搾られる」
マリが腕を組む。
「で?」
「今日はいじらない」
「……は?」
「値段は、明日」
一斉にブーイング。
「引っ張るな!」
「今決めろ!」
「夜に考えさせる気か!」
先生は珍しく、少しだけ笑った。
「夜は取引外だ」
「そこは守るんかい!」
笑いが起きる。
でも、全員の頭の中に、
同じ言葉が残っている。
値段。
昼に生まれた、
一番危険で、一番面白い考え。
その夜。
誰も干し場に近づかない。
でも――
頭だけは、休まなかった。
先生は海を見て、静かに言う。
「休みが増えると」
「次は、“欲の形”が変わる」
それが、
村にとって良いのか悪いのか。
まだ――
数えられていない。
(つづく)
誤字脱字はお許しください。




