第二十五話「回すと、サボる」
25話です。
朝の浜で、先生は何も言わなかった。
それが一番嫌な合図だった。
「……誰か、足りなくね?」
マリが周囲を見回す。
「見張り、どこ?」
「干し場、誰だっけ?」
「網の人、寝てね?」
寝ている。
がっつり。
浜の端、日向で、
新顔の男が腹を出して寝ている。
「……あいつ今日、何担当だ?」
ランが聞く。
「えーと……」
「回してたから……」
「今日は……見張り?」
全員が一斉にそちらを見る。
「起きろォ!!」
男が飛び起きる。
「す、すまん!」
「夜が静かで……」
「つい……」
「つい、じゃねぇ!」
「昼の見張りサボるな!」
先生は板を立てた。
ゆっくりと。
サボり
=
自然現象
「擁護するな!」
「今まさに怒るとこ!」
先生は淡々。
「回すと、必ず出る」
「何が」
「サボり」
ランが腕を組む。
「……じゃあ、罰?」
先生は首を振る。
「罰を作ると、隠す」
「確かに」
「夜のことみたいだな」
「やめろ!」
先生は板に続けて書く。
見えるサボり
=
対処できる
「名言っぽいけど雑!」
「でも分かる!」
マリが男を見る。
「で?どうすんだよ」
男は気まずそうに頭を掻く。
「……代わりに、干し場やる」
「今から?」
「日が高いぞ?」
「……二人でやる」
距離、近い。
昼なのに。
「ちょっと待て」
マリが即止める。
「役割、混ぜるな」
先生が頷く。
「一人でやれ」
「えー!」
「サボった分、静かな仕事だ」
「静かな仕事って言い方が嫌!」
男は渋々、干し場へ行く。
その様子を見て、
ランがぼそっと言う。
「……サボっても、終わらないんだな」
「終わらせない」
先生は短く答える。
昼が進む。
今度は別の問題。
「……あれ?」
マリが眉を寄せる。
「見張り、多くね?」
確かに。
浜の端に、三人。
「俺、今日見張りだと思って」
「いや、俺も」
「交代制じゃなかった?」
「サボりの逆来たな!」
「過剰!」
先生は板に書く。
やりすぎ
=
サボりの裏返し
「哲学やめろ!」
先生は続ける。
「回すと、偏る」
「じゃあどうすんだよ!」
先生はチョークを置く。
「数える」
「またそれか!」
先生は板に、簡単に書いた。
今日
・見張り:1
・干し場:1
・網:1
「少なっ!」
「夜より少ない!」
「十分だ」
「余った人は?」
先生は少しだけ間を置いて言った。
「休め」
沈黙。
「……休んでいいの?」
「この村で?」
「昼だ」
「革命だな」
その瞬間。
「……じゃあさ」
女が言う。
距離、やっぱり近い。
「休みって、何すんの?」
全員が一斉に黙る。
先生は即答した。
「寝ろ」
「健全すぎる!」
「昼寝禁止だったろ今まで!」
「効率が上がったからだ」
板に、最後の一行。
効率
→
休みが必要
「真面目なこと言うなよ!」
「エロの入り口潰すな!」
笑いが起きる。
その午後、
浜には珍しく――
何も起きなかった。
干物は減らない。
人も減らない。
サボりも、見えている。
先生は浜を見渡して、静かに言った。
「回すと、サボる」
「サボりが見えると、壊れない」
ランが欠伸しながら言う。
「……俺、この村好きかも」
「やめろ!」
「油断するな!」
でも、誰も否定しなかった。
この村は今、
働きすぎず、サボりすぎず、
ちょっとエロで、ちゃんと回っている。
(つづく)
誤字脱字はお許しください。




