第二十三話「仲間が増えると、役割が増える」
23話です。
朝の浜が、やたら騒がしかった。
騒がしい理由は一つ。
人が多い。
「……誰だっけ?」
「昨日来た人」
「いや、その隣」
「知らん」
名前を覚える前に、人数が増えている。
先生は板を立てない。
代わりに、少し離れたところから浜を見ている。
それだけで、嫌な予感が走る。
「なあ」
ランが言う。
「これ、先生いなくても回りそうじゃね?」
「言うな!」
「フラグ立てるな!」
だが、現実は容赦ない。
「干物、誰が数える?」
「昨日やったの俺!」
「じゃあ今日は私!」
「え、交代制?」
勝手に決まっていく。
「見張りは?」
「夜は一人って決まってる」
「じゃあ今日は俺」
「昨日やっただろ!」
「じゃあ昼の見張りやる!」
昼の見張りという、
先生が一度も言っていない役割が生まれる。
マリが腕を組む。
「……役割、増えてない?」
「増えてるな」
「しかも誰も命令してない」
先生は、何も言わない。
そこへ、新しく来た女が声を上げる。
「ねえ、干し場さ」
「人多すぎじゃない?」
「近い」
距離が、近い。
昼なのに。
「それ、昨日も言ってた」
ランが笑う。
「昼はセーフでしょ?」
女が言う。
「何が?」
「距離」
マリが即答する。
「アウト寄りセーフ」
「どっちだよ!」
先生は板を立てた。
久しぶりに。
役割
=
責任
一瞬、浜が静まる。
「……重っ」
「急に現実」
先生は淡々。
「役割が増えると、楽になる」
「でも、責任も増える」
「責任って」
ランが言う。
「夜のことも?」
「夜は取引外」
即答。
「そこは変わらねぇのかよ!」
そこへ、逃げてきた男の一人が言う。
「俺、網直せる」
「マジ?」
「助かる!」
「俺は舟」
「私は干し場」
勝手に、役割が埋まっていく。
その様子を見て、
マリがぽつり。
「……先生」
「なに」
「これさ」
「村っぽくなってきてない?」
先生は少し考えてから言う。
「“集団”だ」
「違いある?」
「ある」
先生は板に書く。
集団:流れる
村:残る
「哲学やめろ!」
「でも分かる!」
昼が過ぎる。
作業は早い。
誰かが抜けても、回る。
先生が口を出さなくても、回る。
ランが不安そうに言う。
「なあ……」
「なに」
「先生、暇じゃね?」
「暇だ」
「それ、よくないやつ!」
その夜。
見張りは、新顔の男。
一人。
真面目。
「……静かすぎる」
「前より緊張する」
そこへ、女の声。
「ねえ」
「……誰」
「見回り?」
「そう」
「偉いね」
距離、近い。
男が一歩下がる。
「線、あるから」
「知ってる」
女は笑う。
「越えないよ」
「……慣れてきたな」
翌朝。
干物は減っていない。
人も減っていない。
役割だけが、増えていた。
先生は板を消しながら言った。
「役割が回り始めると」
「先生はいらなくなる」
一瞬、空気が止まる。
「やめろ!」
「それ一番怖い!」
「夜より嫌!」
先生は首を振る。
「まだだ」
「まだ?」
「役割が“固定”されていない」
マリが頷く。
「押し付け合いが、まだだな」
ランが笑う。
「そこから地獄だろ」
笑いが起きる。
仲間が増えた。
役割が生まれた。
先生は、少しだけ後ろに下がった。
この村は今、
“先生がいなくても回りそうで、まだ危ない”
一番面白い段階に入っていた。
(つづく)
誤字脱字はお許しください。




