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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


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23/56

第二十三話「仲間が増えると、役割が増える」

23話です。

朝の浜が、やたら騒がしかった。


騒がしい理由は一つ。

人が多い。


「……誰だっけ?」

「昨日来た人」

「いや、その隣」

「知らん」


名前を覚える前に、人数が増えている。


先生は板を立てない。

代わりに、少し離れたところから浜を見ている。


それだけで、嫌な予感が走る。


「なあ」

ランが言う。

「これ、先生いなくても回りそうじゃね?」


「言うな!」

「フラグ立てるな!」


だが、現実は容赦ない。


「干物、誰が数える?」

「昨日やったの俺!」

「じゃあ今日は私!」

「え、交代制?」


勝手に決まっていく。


「見張りは?」

「夜は一人って決まってる」

「じゃあ今日は俺」

「昨日やっただろ!」

「じゃあ昼の見張りやる!」


昼の見張りという、

先生が一度も言っていない役割が生まれる。


マリが腕を組む。

「……役割、増えてない?」


「増えてるな」

「しかも誰も命令してない」


先生は、何も言わない。


そこへ、新しく来た女が声を上げる。


「ねえ、干し場さ」

「人多すぎじゃない?」

「近い」


距離が、近い。

昼なのに。


「それ、昨日も言ってた」

ランが笑う。


「昼はセーフでしょ?」

女が言う。


「何が?」

「距離」


マリが即答する。

「アウト寄りセーフ」


「どっちだよ!」


先生は板を立てた。

久しぶりに。


役割

責任


一瞬、浜が静まる。


「……重っ」

「急に現実」


先生は淡々。

「役割が増えると、楽になる」

「でも、責任も増える」


「責任って」

ランが言う。

「夜のことも?」


「夜は取引外」


即答。


「そこは変わらねぇのかよ!」


そこへ、逃げてきた男の一人が言う。


「俺、網直せる」


「マジ?」

「助かる!」


「俺は舟」

「私は干し場」


勝手に、役割が埋まっていく。


その様子を見て、

マリがぽつり。


「……先生」


「なに」


「これさ」

「村っぽくなってきてない?」


先生は少し考えてから言う。


「“集団”だ」


「違いある?」


「ある」


先生は板に書く。


集団:流れる

村:残る


「哲学やめろ!」

「でも分かる!」


昼が過ぎる。


作業は早い。

誰かが抜けても、回る。

先生が口を出さなくても、回る。


ランが不安そうに言う。

「なあ……」


「なに」


「先生、暇じゃね?」


「暇だ」


「それ、よくないやつ!」


その夜。


見張りは、新顔の男。

一人。

真面目。


「……静かすぎる」

「前より緊張する」


そこへ、女の声。


「ねえ」


「……誰」


「見回り?」


「そう」


「偉いね」


距離、近い。


男が一歩下がる。

「線、あるから」


「知ってる」

女は笑う。

「越えないよ」


「……慣れてきたな」


翌朝。


干物は減っていない。

人も減っていない。

役割だけが、増えていた。


先生は板を消しながら言った。


「役割が回り始めると」

「先生はいらなくなる」


一瞬、空気が止まる。


「やめろ!」

「それ一番怖い!」

「夜より嫌!」


先生は首を振る。


「まだだ」


「まだ?」


「役割が“固定”されていない」


マリが頷く。

「押し付け合いが、まだだな」


ランが笑う。

「そこから地獄だろ」


笑いが起きる。


仲間が増えた。

役割が生まれた。

先生は、少しだけ後ろに下がった。


この村は今、

“先生がいなくても回りそうで、まだ危ない”

一番面白い段階に入っていた。


(つづく)


誤字脱字はお許しください。

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