第二十二話「狙われると、仲間が増える」
22話です。
朝の浜に、知らない顔があった。
一人じゃない。
二人でもない。
三人……四人……。
「……増えてね?」
ランが言う。
「増えてるな」
「しかも全員、距離遠い」
「夜の距離感じゃない」
先生は板を立てない。
代わりに、浜を一周見た。
「何しに来た」
誰に向けた言葉でもない。
だが、全員が反応した。
最初に口を開いたのは、
昨日まで“噂を聞いて来てた側”の男。
「……逃げてきた」
一瞬、間が空く。
「は?」
「逃げ?」
「干物じゃなくて?」
「干物も欲しいけど」
「それより……安全」
マリが鼻で笑う。
「最近、それ流行ってる?」
男は苦い顔をする。
「昨日、あんたらのあとに“あいつら”が来た」
全員が、同じ顔を思い出す。
全部よこせと言った連中だ。
「条件を飲まなかった村が、夜に荒らされた」
男が続ける。
空気が、静まる。
「人は?」
先生が聞く。
「……減った」
誰も笑わない。
ランが低く言う。
「それで、ここに?」
男は頷く。
「ここは……奪えないって噂だから」
「それ、褒めてる?」
「命がけの褒め方だな」
先生は一歩前に出る。
「ここは、守る場所じゃない」
「え?」
「減らさない場所だ」
男たちは顔を見合わせる。
「……違い、ある?」
「大ありだ」
先生は淡々。
「守ると、戦う。減らさないと、数える」
「数えたら、何が変わる?」
先生は浜を指した。
「逃げてきた人数を言え」
「……七」
「元の村は?」
「……十五」
「減った」
男は黙る。
先生は続ける。
「ここに来るなら、条件がある」
「干物?」
「夜?」
「見張り?」
先生は首を振る。
「嘘を持ち込まない」
一瞬、沈黙。
「……それだけ?」
「それが一番重い」
マリが小声で言う。
「夜の話より重いな」
男たちは頷いた。
「分かった」
そう言った直後――
「……ねえ」
後ろから声。
女だ。
しかも、見たことがある。
「昨日、線の外から見てた人だ」
ランが言う。
女は肩をすくめる。
「追い出されちゃって」
「そりゃそうだろ」
「ここ、泊まれる?」
「夜は――」
「立入禁止」
「知ってる」
女は笑う。
「だから昼に来た」
「学習してる!」
「進化してる!」
先生は女を見る。
「何人?」
「一人」
「減らない?」
「減らない」
即答。
先生は頷いた。
「いい」
「軽い!」
「今の条件判定、軽い!」
その日の浜は、妙に賑やかだった。
知らない人。
知らない声。
知らない噂。
でも――
数えられている。
干物は減らない。
人も減らない。
夜は相変わらず静かだが、
昼はうるさい。
ランがぼそっと言う。
「……なあ」
「なに」
「仲間ってさ」
「うん」
「増えると、エロ減らね?」
「知らん」
マリが即答する。
「質が変わる」
「やめろ!」
先生は板を立て、
久しぶりに柔らかい字で書いた。
仲間
=
守らない
減らさない
「それ、どういう意味だよ」
ランが聞く。
先生は言った。
「守るために集まると、崩れる」
「減らさないために集まると、続く」
「深いようで深くない!」
「でも分かる!」
外からの目は、まだある。
奪う側も、消えていない。
それでも――
この村は、もう一段変わった。
狙われた結果、
“数えられる人間”が増えた。
それは、
武器より厄介で、
夜より健全な増え方だった。
(つづく)
誤字脱字はお許しください。




