第二十一話「武器になると、狙われる」
21話です。
朝の浜は、静かすぎた。
誰も騒がない。
誰も冗談を言わない。
見られている気がするからだ。
「……昨日の噂、回ってるな」
マリが小声で言う。
「どれ?」
ランが聞く。
「“あの村、堅い”ってやつ」
「エロくない意味でな!」
「それ、誉め言葉か?」
先生は板を立てた。
今日は、線を描かない。
それだけで、嫌な予感が走る。
「何が来る」
誰に向けた言葉でもない。
答えは、すぐ来た。
舟が一艘。
小さい。
でも、人数が多い。
「……詰めて乗ってるな」
「魚より人の方が多くね?」
降りてきたのは、男四人。
笑っていない。
女もいない。
距離が、最初から近い。
「ここか」
一番前の男が言う。
声が低い。
前に来た“様子見”の連中より、ずっと低い。
「交換か?」
ランが聞く。
男は首を振る。
「確認だ」
「何の」
「……噂」
先生が一歩前に出る。
「数を言え」
男は、にやりと笑った。
「干物。全部」
一瞬、浜が凍る。
「全部!?」
「欲張りすぎだろ!」
「夜の欲が昼に来てる!」
先生は表情を変えない。
「代わりは?」
「安全」
「……は?」
男は肩をすくめる。
「守ってやるって話だ」
空気が、一段冷える。
マリが低い声で言う。
「それ、交換じゃない」
「そうだな」
男は認めた。
「奪う前の挨拶だ」
ランが一歩前に出る。
「やってみろよ」
「やらない」
男は即答する。
「今日はな」
先生が口を開く。
「ここは、減らさない」
「何を?」
「物も、人も」
男は笑った。
「だから狙われてる」
先生は静かに言う。
「武器は、振るうと壊れる」
「じゃあどうする?」
「見せる」
先生は振り返り、言った。
「数える」
一瞬、村人たちが動く。
干物。
桶。
網。
舟。
人。
声が重なる。
「四十七!」
「減ってない!」
「全部ある!」
男たちが、わずかに顔をしかめる。
「……管理してるな」
「してる」
「面倒だ」
「面倒は、奪えない」
沈黙。
その沈黙を、笑いが破った。
「なあ」
ランが言う。
「奪ってもいいけどさ」
「?」
「数えられるぞ?」
「……は?」
「誰が、何を、いつ」
「夜の話も全部な!」
「それは最悪!」
男の表情が、初めて歪む。
「……くだらない」
「くだらないほど、強い」
先生が言った。
男たちは顔を見合わせる。
そして、舟に戻る。
去り際、男が言った。
「また来る」
「昼に来い」
マリが言う。
「夜は暇じゃない」
「そこ誇るな!」
舟が去る。
浜に、息が戻る。
ランが肩を落とす。
「……エロ来なかったな」
「命の方が先だ」
マリが即答。
先生は板を立て、
最後に一行だけ書いた。
武器
=
数と習慣
「地味!」
「でも効く!」
先生はチョークを置く。
「本気で狙われると」
「笑いが減る」
「やだな、それ」
「だから」
先生は言った。
「減らさない」
笑いも。
人も。
そして――
この村の線も。
(つづく)
誤字脱字はお許しください。




