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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


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20/20

第二十話「線があると、破りたくなる(外から)」

20話です

朝の浜で、誰かが言った。


「……来てる」


来ている。

来すぎている。


舟が三艘。

知らない色。

知らない人数。

そして――女が多い。


「外、多くね?」

「昨日まで嫌われてたよな?」

「線引いたのに!?」


先生は板を立てない。

その時点で、全員が身構える。


最初に降りてきた男が言った。


「噂を聞いた」


「どれだよ」

ランが即ツッコむ。


「夜、厳しくなったって」


「それな!」

「誰が広めた!」

「誇る話じゃねぇ!」


男は続ける。

「だから、昼に来た」


「正解ではあるな……」


後ろから女が一人、前に出る。

距離が近い。

昼なのに近い。


「線、引いたんでしょ?」

女が笑う。

「越えちゃダメなやつ」


「ダメだ」

マリが即答。


「越えたらどうなるの?」

女が首を傾げる。


「事故る」

「色々」

「主に評判と胃」


先生が一歩前に出る。


「何が欲しい」


「干物」

「情報」

「……あと、確認」


「何の」


女が笑う。

「どこまで本気か」


空気が張る。


先生は、ゆっくり板を立てた。

太い線のまま。


「条件は同じ」


男が眉を上げる。

「夜は?」


「含まれない」


「見張りは?」


「一人」


「甘いな」


「甘くない」


「でも――」

女が口を挟む。

「線があると、越えたくなるでしょ?」


「なら」

先生は淡々。

「越えた理由を、数える」


一瞬、沈黙。


「……数?」

「夜を?」


「結果だけ」


先生は板に書いた。


線を越える

減る

揉める


「シンプルすぎる!」

「でも分かりやすい!」


交渉は進む。

干物二十。

桶と炭。

情報は――薄いが、嫌な匂い。


去り際、男が言った。


「今夜、見張り増やした方がいい」


「脅しか?」

ランが睨む。


「忠告だ」


舟が離れる。


浜に、嫌な静けさ。


マリが腕を組む。

「……来るね」


「来る」

先生は即答。


「破りに?」


「試しに」


その夜。


見張りは、ラン。

一人。

静か。

静かすぎる。


「……暇」


第十二話の記憶がよみがえる。


その時。


影が動く。


「……誰だ」


女の声。

昼の、あの女。


「見学」


「帰れ」


「線の外から」


距離はある。

でも、近い。


「破らないよ」

女が言う。

「破ると面倒でしょ?」


「分かってるなら帰れ」


「でも」

女が笑う。

「我慢できるか、見たくて」


ランが唾を飲む。


「……最低だな」


「褒め言葉」


その瞬間。


「何してる」


先生の声。


影が固まる。


「見学」

女が言う。


「ここは夜立入禁止」


「越えてない」


「でも、近い」


先生は板を持っていない。

だが、言葉は線より太い。


「外から破りに来るやつは」

先生が言う。

「中を壊したいだけだ」


女は肩をすくめる。

「つまんない村」


「安全な村だ」


女は去る。


夜が戻る。


翌朝。


干物は減っていない。

事故もない。

噂だけが、少し変わっていた。


「……聞いた?」

「線、破れなかったらしいぞ」

「意外と堅いって」


ランが笑う。

「エロより、理屈が勝ったな」


マリが言う。

「珍しい日だ」


先生は板を立て、最後に書いた。


線は

中を守るため

外を試すため


「深いようで深くない!」

「でも合ってる!」


外はまだ来る。

もっと巧妙に。

もっと乱暴に。


それでも――

この村は、もう知っている。


線は、引いた瞬間が一番弱い。

守り続けると、武器になる。


誤字脱字はお許しください。

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