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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


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18/20

第十八話「嘘が通らないと、事故が起きる」

18話です。

朝の浜で、最初に気づいたのは――

臭いだった。


「……生臭くね?」


ランが鼻を押さえる。


「いつも生臭いだろ」

「違う、生きてない方の生臭さ」


全員が干し場を見る。


「あれ?」


干物が、一部だけ色が違う。


「……やばくね?」

「昨日は問題なかったよな?」


先生は板を立てた。

朝から。

それだけで、全員が身構える。


「数える」


「出た」

「事故の前兆!」


数える。


「……四十七」


数は合っている。

でも――


「数、合ってるのに、怪しい」

「この感じ、嫌だな」


マリが一枚持ち上げる。

指で軽く押す。


「……戻りが遅い」


「言い方!」

「急にエロと理科混ぜるな!」


先生は淡々。

「水分が残ってる」


「昨日、ちゃんと干したぞ?」

「昼も動かした!」


「夜は?」


一瞬、沈黙。


「……夜、湿ってた」

「人も湿ってたな」

「やめろ!」


先生は板に書く。


乾燥不足

夜の湿気

事故


「事故って言うな!」

「まだ食ってねぇ!」


「食う前でよかった」


先生は即答する。


「じゃあ、捨てる?」

誰かが聞く。


その言葉で、浜が静まる。


「……もったいなくね?」

「数は合ってるし」

「匂いも……ギリ?」


先生は首を振る。

「事故は、“まだ”のうちに止める」


「名言っぽく言うな!」


その時。


「おーい」


浜の端から声。

昨日も見た、様子見の男。


「その干物、売らない?」


「今それ聞く!?」

「タイミング悪すぎ!」


男は笑う。

「噂、聞いた。管理が甘くなったって」


「誰だそんな嘘!」

「今まさに対応中だ!」


先生が一歩前に出る。


「売らない」


「減ってないだろ?」


「減らさないために、売らない」


男は肩をすくめる。

「事故だな」


「事故にしない」


即答。


男はそれ以上何も言わず、去った。


浜に、重たい沈黙。


ランがぽつり。

「……先生」


「なに」


「これ、狙われてた?」


先生は板を見たまま答える。


「狙われてた」

「噂が効かないと、事故が起きる」


「誰かがやったってこと?」

マリが聞く。


「断定しない」

「でも、“起きる条件”は増えてた」


板に、追加で書く。


人が増えた

目が増えた

夜が緩んだ


「全部俺たちじゃん!」

「反省会だこれ!」


先生は頷く。

「だから、次」


「次?」

「もう事故起きたぞ?」


先生はチョークを置く。


「事故が起きたあとにやることは、一つ」


全員が息を飲む。


「原因を、数える」


「重い!」

「でも先生っぽい!」


干物は処分された。

数は減った。

意図的に。


「減らした……」

「自分で……」


先生は静かに言う。


「減らすときは、自分で減らす」


誰も笑わなかった。


でも、誰も反対もしなかった。


その夜、浜は静かだった。

静かすぎるほど。


先生は海を見る。


嘘は通らなくなった。

だから、次は――

現実が、殴りに来る。

誤字脱字はお許しください。

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