表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/20

第十七話「試されると、嘘が増える」

17話です

朝の浜で、最初に増えていたのは――

人じゃなかった。


「……言われてない?」


マリが言う。


「何を」

ランが聞く。


「視線」


確かに、浜の端で、

よそ者が“見ている”。


舟は出していない。

交換もしない。

ただ、立って、見て、帰る。


「何しに来たんだ、あれ」

「買わない客が一番嫌なんだけど」


先生は板を立てた。

久しぶりに、朝から。


「何が起きてる」


誰に向けた言葉でもない。


「噂じゃね?」

ランが言う。

「昨日の連中の」


「どんな?」


「この村、ケチらしい」

「余ってるのに出さない」

「夜も使えない」


「最後いらねぇ!」

「誰得の情報だよ!」


先生は板に書いた。


噂:

・余ってる

・出さない

・態度が悪い


「態度が悪いは心外!」

「夜断っただけだろ!」


マリが腕を組む。

「でもさ、信じるやつは信じる」


「信じると、どうなる」


先生が聞く。


「来ない」

「警戒する」

「別の村行く」


先生は頷いた。


「それが目的だ」


「え?」


先生は淡々と続ける。

「噂は、奪えない相手に使う」


「……陰湿だな」


「効率がいい」


そこへ、トトが走ってくる。


「先生!」

「干物の話、されてる!」


「どういう?」


「“あの村の干物、数えすぎて味がない”って!」


一瞬の沈黙。

そして――


「なんだそれ!」

「味と数、関係ねぇ!」

「悔しいのそこ!?」


先生は板に、追加で書く。


嘘:

・味がない

・冷たい

・夜がつまらない


「夜は余計だ!」

「勝手に評価すんな!」


先生はチョークを止める。


「反論する?」


全員が一瞬、黙る。


「……する?」

「面倒だな」

「余計広がる」


先生は頷いた。

「正解」


「え、何もしないの?」


「する」


先生は板に、こう書いた。


事実

・減ってない

・仕事が回ってる

・人が倒れてない


「地味!」

「でも強い!」


先生は続ける。

「噂と嘘は、事実に弱い」


「でも、誰が事実見るんだよ」


先生は浜を指す。

「来た人間」


「来なくなってるけど?」


「だから、選ぶ」


昼。

わざと干し場を開ける。

わざと数える。

わざと板を立てる。


通りがかったよそ者が、立ち止まる。


「……あれ、数えてる?」

「減ってないな」


小さな声。

でも、確実。


ランが小声で言う。

「地味な戦いだな」


「効く」


先生は短く答える。


夕方、浜に一艘の舟。

女が一人。


「……噂、聞いたんだけど」


「どれ」


「ケチで、冷たくて、つまんない村」


「全部本当だ」

ランが即答。


「ちょっと!」


先生が言う。

「何が欲しい」


「干物、十」


先生は頷く。

「出せる」


「夜は?」


「含まれない」


女は笑った。

「やっぱり噂通り」


でも、その笑いは軽い。


取引は成立した。


舟が去ったあと、

マリが言う。


「……嘘、消えないよな」


「消えない」

先生は即答する。

「でも、薄まる」


「どうやって?」


「本当を続ける」


板を消しながら、先生は言った。


「試されると、嘘が増える」

「嘘が増えると、基準が残る」


「基準?」

ランが聞く。


先生は浜を見渡す。


「減らさない」

「数える」

「揉めない」


「夜は?」

誰かが聞く。


先生は一拍置いて言った。


「……余らせない」


全員が吹き出す。


噂はまだある。

嘘も消えない。


でもこの村は、

嘘より先に、自分たちの数を知っている。


それだけで――

十分だった。


誤字脱字はお許しください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ