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『チョーク一つで世界を変える〜異世界教育改革漁村編〜』  作者: くろめがね


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13/20

第十三話「改良すると、嗅ぎつける」

13話です。

昼の浜に、知らない舟が来た。


「……あれ?」


最初に気づいたのは、マリだった。

見慣れない色の帆。

見慣れない櫂のリズム。


「よそだな」

「昼に?」

「珍しくね?」


先生は何も言わず、板を持ってこない。

その時点で、嫌な予感がする。


舟が着く。

降りてきたのは男二人と女一人。

女は笑顔。やけに距離が近い。


「こんにちは〜」

「噂、聞きましてぇ」


「噂って何の?」

ランが警戒半分、期待半分で聞く。


「最近、干物が減らないって」

「昼が暇って」

「夜が……静かだって?」


最後だけ、声が低い。


「そこまで回ってる!?」

「誰が喋った!」

「夜のことは盛るなって言っただろ!」


先生が一歩前に出る。


「何しに来た」


「交換です」

女が即答する。

「干物、欲しくて」


「また取引か……」

「忙しくなってきたな」


先生は淡々。

「数は?」


「え?」


「欲しい数」


女は一瞬だけ言葉に詰まる。

そして笑った。


「……いっぱい?」


「数じゃない」


「うわ厳しい」


男の一人が慌てて口を挟む。

「えっと!三十!」


先生は頷く。

「出せる」


「え、即答!?」

「余ってんだ……」


村人たちがざわつく。

余っていることを、他人に言われると妙に恥ずかしい。


「代わりは?」

先生が聞く。


「針と糸」

「桶」

「……あと、情報」


「情報?」

マリが眉をひそめる。


女が笑う。

「どこが儲かってるか、とか?」


「嫌な聞き方だな!」


先生は板を持ってこない代わりに、指を一本立てた。


「一つだけ」


「なに?」

「夜の話は取引外」


一瞬、間が空く。


女が吹き出した。

「そこ有名なんだ」


「やめろ!」

「誰が広めた!」


交渉は昼に終わった。

干物三十。

針と糸と桶。

情報は――薄い。


舟が去ると、ランが言った。

「なあ先生」


「なに」


「これ、増えるよな」


「増える」


「よそ、どんどん来るよな」


「来る」


「女も?」


「知らん」


即答しないのが一番怖い。


マリが腕を組む。

「で?どうすんの」


先生は浜を見渡した。

干し場。

舟。

人。


「次は」

先生が言う。

「選ぶ」


「何を?」

「誰と交換するか」


「急に偉そう!」

「村っぽくなってきた!」


先生は淡々と続ける。

「効率が上がると、余る。余ると、嗅ぎつけられる」


「生臭い言い方やめろ!」


「嗅ぎつけるのは、魚だけじゃない」


全員、さっきの女を思い出す。


「……確かに」

「距離近かったな」

「昼なのに」


先生は最後に一言。


「昼は改良」

「夜は封印」


「難しすぎる!」

「この村に向いてない!」


笑いが起きる。

だが、誰も反対はしなかった。


改良は進んだ。

噂は広がった。

外が、こちらを見始めた。


そして全員が、薄々分かっていた。


――次に来るのは、

善意でも、下心でもない。

誤字脱字はお許しください。

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