第十三話「改良すると、嗅ぎつける」
13話です。
昼の浜に、知らない舟が来た。
「……あれ?」
最初に気づいたのは、マリだった。
見慣れない色の帆。
見慣れない櫂のリズム。
「よそだな」
「昼に?」
「珍しくね?」
先生は何も言わず、板を持ってこない。
その時点で、嫌な予感がする。
舟が着く。
降りてきたのは男二人と女一人。
女は笑顔。やけに距離が近い。
「こんにちは〜」
「噂、聞きましてぇ」
「噂って何の?」
ランが警戒半分、期待半分で聞く。
「最近、干物が減らないって」
「昼が暇って」
「夜が……静かだって?」
最後だけ、声が低い。
「そこまで回ってる!?」
「誰が喋った!」
「夜のことは盛るなって言っただろ!」
先生が一歩前に出る。
「何しに来た」
「交換です」
女が即答する。
「干物、欲しくて」
「また取引か……」
「忙しくなってきたな」
先生は淡々。
「数は?」
「え?」
「欲しい数」
女は一瞬だけ言葉に詰まる。
そして笑った。
「……いっぱい?」
「数じゃない」
「うわ厳しい」
男の一人が慌てて口を挟む。
「えっと!三十!」
先生は頷く。
「出せる」
「え、即答!?」
「余ってんだ……」
村人たちがざわつく。
余っていることを、他人に言われると妙に恥ずかしい。
「代わりは?」
先生が聞く。
「針と糸」
「桶」
「……あと、情報」
「情報?」
マリが眉をひそめる。
女が笑う。
「どこが儲かってるか、とか?」
「嫌な聞き方だな!」
先生は板を持ってこない代わりに、指を一本立てた。
「一つだけ」
「なに?」
「夜の話は取引外」
一瞬、間が空く。
女が吹き出した。
「そこ有名なんだ」
「やめろ!」
「誰が広めた!」
交渉は昼に終わった。
干物三十。
針と糸と桶。
情報は――薄い。
舟が去ると、ランが言った。
「なあ先生」
「なに」
「これ、増えるよな」
「増える」
「よそ、どんどん来るよな」
「来る」
「女も?」
「知らん」
即答しないのが一番怖い。
マリが腕を組む。
「で?どうすんの」
先生は浜を見渡した。
干し場。
舟。
人。
「次は」
先生が言う。
「選ぶ」
「何を?」
「誰と交換するか」
「急に偉そう!」
「村っぽくなってきた!」
先生は淡々と続ける。
「効率が上がると、余る。余ると、嗅ぎつけられる」
「生臭い言い方やめろ!」
「嗅ぎつけるのは、魚だけじゃない」
全員、さっきの女を思い出す。
「……確かに」
「距離近かったな」
「昼なのに」
先生は最後に一言。
「昼は改良」
「夜は封印」
「難しすぎる!」
「この村に向いてない!」
笑いが起きる。
だが、誰も反対はしなかった。
改良は進んだ。
噂は広がった。
外が、こちらを見始めた。
そして全員が、薄々分かっていた。
――次に来るのは、
善意でも、下心でもない。
誤字脱字はお許しください。




