第十二話「効率を上げると、昼が暇になる」
十二話です。
昼の浜で、全員が困っていた。
「……やること、なくね?」
誰かが言い、
誰も否定しなかった。
干物は干してある。
網は直した。
針と糸も試した。
舟も出したし、戻ってきた。
しかも――
早い。
「こんな時間に戻ってくるの、久しぶりじゃね?」
「腹も減ってない」
「なんか……健康」
先生は板を立てた。
昼に。
それだけで嫌な予感が走る。
「何した」
「効率が上がった」
先生は淡々と書く。
準備:短縮
作業:分担
待ち時間:減少
「急に普通に良いこと言うな!」
「罠か?」
「この後、絶対ロクでもない!」
先生は無視する。
無視が一番怖い。
「で」
マリが言う。
「暇なんだけど」
「暇だな」
「昼だぞ?」
「夜じゃないぞ?」
昼なのに、空気がゆるい。
ゆるすぎる。
ランがニヤつく。
「なあ先生。昼って、何してたっけ俺たち」
「寝てた」
「寝てたな」
「昼寝最高」
「昼寝すると」
先生が言う。
「夜が余る」
「出た!」
「昨日のやつ!」
「繋げてくるな!」
先生は板に追記。
昼の暇
↓
昼寝
↓
夜の元気
「やめろ!」
「図にするな!」
「理屈が合ってるのが最悪!」
そこへ、倉の方から声。
「ねえ!」
「昼なのに倉、暗くない?」
「閉めてたっけ?」
誰かが咳払いをする。
妙に長い。
「……換気」
「そう、換気」
「昼の!」
先生は即書く。
昼の倉
=
危険
「断定するな!」
「まだ何も起きてねぇ!」
先生は淡々。
「起きる前に止める」
「止めるな!」
「まだ!」
マリが額を押さえる。
「で?この暇、どうするの」
先生は板に書いた。
改良
「改良?」
「網?」
「舟?」
「干し場」
全員、干し場を見る。
そして、気づく。
「……日、当たりすぎじゃね?」
「午後、乾きすぎる」
「夜、固い」
「固いって言うな!」
「別の意味に聞こえる!」
先生は気にしない。
「昼に動かせばいい」
「干し場を?」
「人が?」
「そう」
数人が顔を見合わせる。
「……昼、暇だしな」
「動かすか」
「ついでに影も増えるし」
動かす。
干す。
戻す。
作業は早い。
無駄がない。
その結果――
さらに暇になる。
「……終わった」
「まだ昼だぞ」
「どうすんだこれ」
先生は板に、最後の一行。
暇は
管理しないと
暴れる
「人みたいに言うな!」
「もう暴れてる!」
ランが笑う。
「でもさ」
「ん?」
「夜よりマシじゃね?」
一瞬、全員が黙る。
……確かに。
昼は明るい。
人目もある。
変なことをしにくい。
「昼に暇があるなら」
マリが言う。
「夜は早く寝ればいい」
「革命じゃん」
「この村でそれ言う?」
先生は何も言わない。
ただ、板を消す。
効率は上がった。
昼は空いた。
夜は……まだ分からない。
でも、少なくとも今日は――
昼の暇が、夜を救った。
誤字脱字はお許しください。




