魔物討伐は、力だけじゃ無理らしい
前回は討伐行くぞー!の回でしたね
今回もよろしくお願いします!
時間は過ぎ、すっかりと夜になった。
この地を照らすのがお日様から5つの月と空に広がる星々に変わり、刺すような日差しがなくなって少しだけ過ごしやすいけど相変わらず暑いのは、きっともうすぐ夏だからだろう。
「あー……ちょっと待って……」
そんな中、僕は一人門の手前でうずくまっていた。
「どしたアラト?」
不思議そうに尋ねるガレド。
「いやその……緊張しちゃって」
「大丈夫ですよ!もしものことがあっても、私たちが守ります!」
不安と緊張でいっぱいの僕に対して、自信満々に微笑むロゼル。
「アラト、落ち着いて」
ルーナが背中を撫でてくれて、次第に心が軽くなる。
「うん、そうだよね行かないとね……よしっ」
すっと立ち上がり、門番に一礼してからお堀にかけられた木造の橋を渡って外へと出る。
夜に広がる野原から伝わるのは、昼間の爽やかさとは真逆の、漠然とした不安感と非日常の中のような異質さ。
そこから左に向くと、奥の方に見えるのがクルルの森。
無数の木々が視界の端から端までそびえ立っていて、そこから感じる圧はまるで僕たちを待ち構えているみたいだ。
「よしっいこうぜ!」
「そうだね……よし行こう!」
「「おー!」」「おー」
そうして僕らは左の方に足を進める。
30秒ほど歩き、向こうからこちらに来ている人たちを発見した。
見慣れた影、そうついさっき見たような。
「おっやっと来たか」
「おーいアラトさん!」
ベルゼさんとロガンさん。
結構早めには来たつもりだったけど、もう来られてたなんて。
「ごごめんなさいお待たせして!」
「まったくだよ、こんな暑いときに」
「いえ全く!さっきついたところなので!」
もしかしたら、冒険者は予定時刻より少し早めに来る、みたいなマナー?があるのかもしれない。
次何かある時はそういうのも考えないと。
「でっ今日の作戦なんだがね」
(あっ作戦なんてのあるんだ……!まあそっかそうだよね、普通あるよね)
「あんたら4人は見学だよ」
「え?」「「「は?」」」
呆気にとられる僕たち。
もちろん僕は足手まといになるからわかるけど、他の3人は多分全然戦力にはなるんじゃないはず。
もしかしたら、冒険者ってあの皆でも足手まといになるくらい、大変な仕事なんだろうか。
「なんでですか?!私たちは全然戦える自信はあります!」
「そーだそーだ!」
「お前より、私の方が強い」
3人が口をそろえて反論すると、ベルゼさんの顔つきが変わる。
「はあ……ったく、言いかい?あんたたちが強いのは私だって知ってるさ。ただね、魔物との戦い方ってもんを知らない」
「「「ぐっぐぬぬ……」」」
「そんなんじゃ、もしかしたらが起きうるんだ。これは緊急時の対応でもあるが、後進育成も兼ねてるんだよ!わかったなら黙って見ときな!」
すごい覇気で言い終わると、3人は黙りこくった。
なぜなら、至極ごもっともだから。
意地を張って反論するほど、皆の性格は悪くない。
「つってもまあ、やばそうなら手伝い入ってもらうがね」
「大丈夫です!皆さんは俺が守ります!」
キラリと前歯を光らせる。
こんなこというのもあれだけど、少しだけ暑苦しい。
「あ、ありがとうございます」
ぎこちのない返事。
失礼だってわかっているけど、これ以外に思いつかないんだ。
「で、今回出た魔物の説明は……んっ」
ロガンさんに向かって顎を2回上げる。
多分説明するのがめんどくさいんだろう。
「それで今回現れた魔物は一体が陸生、もう一体が飛行する魔物、つまり鳥類または昆虫の類とのことです。担当は俺が陸生の方を、ベルゼリアがもう一体の方を担当します」
「あとは、そことそことアラト」
ベルゼさんが僕とロゼルとルーナを指さす。
「あんたらはこっちを見て、残りのあんたはロガンの方で見て学びな」
つまりは───ガレドだけロガンさんの方ということだ。
「えっ俺だけそっちかよ!」
「あんた、剣士だろう?魔法使いの戦い方見たってしゃあないじゃないか」
「そ、そりゃそうだけど……あ!アラト!」
僕の方をぐわっと見る。
何ならちょっと怖い。
「いやアラトはダメですよ!」
「アラトは後方支援。あぶないのダメ」
「そ、それ言われたら……あーもうわかったよ!」
下向きに拳を振り下ろす。
まあ、一人が寂しいんだろう。
そんなのほほんとした空気に、僕の緊張はすっかり和らいでいた。
───そんな時。
「キィィイアアア!!!」
鼓膜を突き抜け、うずまき管を刺激するような甲高い鳴き声と大きな羽ばたき音、地面を削っているような這いずる音が混じり合う。
上を見ると、大きな何かが羽ばたいている。
ロガンさんとベルゼさんの空気感が変わる。
迎え撃つように音の方向へと構え、僕たちはスススっと後ろに下がった。
「いいかい、ちゃんと見とくんだよ」
「は、はい」
「……」
木々がなぎ倒される音が次第に近づき、そして上の影がだんだんと近づき現れたのは───
「来たか───!」
高層の建物のように巨大なミミズのような魔物と、象くらい大きいコウモリのような魔物。
「ロガンたちは向こう行きな!おい、男のあんたもだよ!」
ミミズのいる右を指さし、声を張る。
「わかってる。行くよガレド君!」
「おう!じゃあアラトまたな!」
「うん!」
2人はそっちへと向かっていった。
僕らはスッとベルゼさんの方に向く。
「まずは───」
ベルゼさんの足元と、少し先に魔法陣が2つ現れ、溶けるように消えていく。
「あれは……」
ルーナがぼそっと呟いた。
同じ魔法使いの身分。
何か知ってるものだったんだろう。
そんなことはお構いなしと言わんばかりに、上空で羽ばたくコウモリはベルゼさんの方へ急速に下降する。
「キィィヤアア!!」
近づきながら発した奇声は、さっきよりも大きく聞こえる。
僕の頭に響く不快感と骨を叩くような痛み。
しかし当のベルゼさんはピンピンしてるみたいだ。
その叫ぶ口元に見えるのは、キラリと光る2本の牙。
そして、コウモリがいざ嚙みつこうという時───
「フンッ!!」
下顎を右足で、上顎を左手で押さえた。
「ぬぬぬぬ……」
しばらく続く、苛烈せめぎあい。
それを次の展開へと移したのは、ベルゼさんの右拳。
「そいりゃっ!」
右耳を捉え、コウモリ全体が左に流れていく。
そのまま上空へ逃げるように羽ばたいて行った。
そんな中───
「《聖なる盾》」
僕たち3人を、透き通った薄緑の膜で覆われる。
なんだか涼しいし心が落ち着くようで心地いい。
「えっいいの?ありがとう」
「フフフっ」
「……ありがとっ」
「もっと言ってくれてもいいんですよ?」
そんな僕たちには目もくれず、コウモリは次の行動へと移った。
「キィィアアアアアア!!!」
さっきの何倍もうるさい声。
影響で、空気が波立って見えた。
これは、超音波攻撃という奴だろう。
「チッうるさいんだよッ!!」
かき消えてしまうような叫び声の中、メラメラと橙色に燃える槍が、コウモリへと飛んでいく。
その槍は、左足より少し左の羽を貫き、宙に消えていった。
「「「おー」」」
「キェェイイアァァ!!」
悲痛が混じった叫び声が森の木々を揺らし、木霊する。
そして、大きく羽ばたいたかと思うと、ぼんやりと浮かぶ刃が複数現れベルゼさんに向かって飛んでいった。
「っ!」
身軽にそれらを避け、さっきの槍を3つ投げつける。
そのうち一本が、右羽の端を捉え、貫いた。
地面は、細くえぐれている。
あれが当たったかと思うと……鳥肌が立つってものだ。
「「「おおーー」」」
「ギィィアアァアア!!」
またも鳴き声、いや悲鳴。
しびれを切らしたか、そのまま突進。そう、牙を光らせて。
しかし最初ほどのスピードは空いた2つの穴のせいでもうなく、投げられたボールくらいの速度。
「ふんっ」
読んでいたかのように華麗に避ける。
そして指をパチンと鳴らしたと思うと、消えていた魔法陣が現れ、そこから出てきた炎のような色の鎖がコウモリを絡め地面に縛り付けた。
「キェェアアア!」
ガシャンガシャンと抵抗するコウモリ。
しかし、びくとも動かない。
「無駄だよ。そんで、そのうるさい口そろそろ閉じなっ!」
体を足で押さえつけ、そのまま燃える槍が地面ごと、頭を突き刺した。
さっきまでの騒音が嘘かのように消え去った。
「よしっ終わったよ」
手をパッパッと払い、こっちに振り向く。
さっきまでの刺々しい歴戦の猛者のような空気感から、始まる前の感じに。
それと同時に、僕らを覆っていた膜もなくなる。
「お疲れ様です!すごかったです!」
「おうっちゃんと見てたかい?特に後ろの二人」
もぞもぞと、言いにくそうな感じ。
「ま、まあ……すごかったというか……」
「褒めても…いい……」
「なんだい正直じゃないねえ。まあいいさ」
右を向くと、ガレドとロガンさんがでっかいミミズを持ち上げている。
よく見ると、いくつかへこんでいるような……
「おーい!アラトさーん!みんなー!」
「おーい終わったぞー!」
とても重そう。そこに置いておいてもいいのに。
何なら置いてほしい近づけないでほしい。
「ええ気持ち悪いですね……」
「うえっ」
ここぞとばかりに毒を吐く2人。
「そんな気持ち悪いもん近づけてんじゃないよ。しっしっ」
この人もだった。
「ああごめんごめん」
「「よいしょっと」」
ドスンとミミズを置く。
土煙が立ち、若干たゆんだのがまた気持ち悪い。
「あーこんだけやったら、水が欲しくなるねえ。暑いし」
「あーちょっとわかる」
たしかに、僕も喉が渇いてきたような……
(あっそういえば水筒なかったっけ……)
外出用の肩下げのカバンを漁る。
すると、一本だけ出てきた。
中を見ても空。
そこで僕は───
「《ささやかな水の施し》」
水を満タンまで入れる。魔法で作った水って、そこまで美味しくないけど仕方ない。
「はい水どうぞ!魔法で出したので、そこまで美味しくはないですけど」
そう言って、水筒を前に突き出す。
「おっ助かるよ」
一番に取ったのはベルゼさん。
ぐびぐびと、口をつけて飲んだ。
(えー後の人の分とかあったのにー……)
そして、ごくごくと飲んだ後、蓋をキュッキュッと閉めた。
「っあーうまかぁないけど助かるねー!あんがとさんっ」
背中をドンと叩く。
痛い、普通に。
「へへへ……」
そして、ロガンが手に取り、滝飲みで飲もうとする。
その瞬間───
「あたしが口付けたもん、飲もうとしてんじゃないよっ!!」
ベルゼさんがロガンさんを蹴り飛ばした。
もうめちゃくちゃだ。
「ぼべふっ!!」
3mほど吹っ飛び、地面についても1回転2回転。
「ご、ごめんなさい……僕も滝飲みならいいかと思って、飲もうとしてました……」
あんまりこういうのは隠すとよくない。
後々、心の中で後悔するのだ。
「ん?いやあんたはいいさ別に」
「えー……」
(もー…めちゃくちゃだあ……)
こうして、今回緊急で出されたA級の魔物討伐クエストは、成功に終わった。
(帰ったらすぐ風呂入って寝よ……)
◇◇◇
「報告します!」
とある一室。
節約のため部屋の明かりはついておらず、少し薄暗い。
そんな中、深々と頭を下げる兵士が1人。
「あの件か?」
席に座りながらも書類に目を通し、ペンを進める者。
「はいっ以前ロガン・ベルゼリアら臨時パーティーにより討伐された魔物を解析したところ、正体が判明しました。コウモリの魔物はウインドバトラ、ミミズの魔物はアースワームでした。どちらもAAランクの魔物です」
筆が止まり、立ち上がる。
「……わかった。ありがとう。もう下がっていい」
「はっ失礼しました!」
扉を閉め、出ていく兵士。
いつもながらに、部屋の中に立ち込めるのは静寂。
(ウインドバトラ、アースワーム……だとしたら、いやないか。……もしかしたら!いや、それこそないか)
「……考えすぎか」
彼の頭をよぎった風は、果たして真相か。
部屋でひとり悩む彼を、窓からの日差しのみが照らしていた。
今話読んでくれてありがとうございます!!
次回は来月からかも
じゃっ!!




