番外編 本の同志は身近なところに
前回はホテルから人を追い出す話でした!
今回は番外編です!よろしくお願いします!
「じゃあ僕、依頼の報告行ってきますね」
ホテルを出るため、荷物をまとめる。
「アラトくん!」
僕を呼び止める声。
「なんですか?」
振り向き、声の元セレナさんの顔を見る。
少し真剣そうな眼差し。
「これは冒険者の先輩としてのアドバイス!いい?」
「はいっ」
僕に向けて、指を立てながら言う。
「絶対に無理しちゃダメ!深追いもダメっ」
「はい」
「無理そうなら、一旦引いて、作戦を立てたり人増やしたりしてまた挑んでみる。そうやって安全にやっていった方が、案外すんなりいけるよ」
「そうなんですね。ありがとうございます!」
「よし!じゃあ、行ってらっしゃい!」
笑顔で手を振るセレナさん。
「はい!」
僕は扉を開き、そのままエントランスへと向かった。
◇
着いた。
歩きながら思ったけど、ギルドに行く前に支配人に挨拶しておこう。
事務室の扉を開け、中を確認する。
「支配人」
すぐ前に映るのは、何やら机に向かって書類の束に書き殴っている支配人の姿。
忙しい中申し訳ないし、少し話したらすぐに帰ろう。
「ああアルト君か。どうしたの?」
「そろそろギルドに報告しに行こうと思って」
僕が話すと、支配人は手を止め僕の方に向いた。
「ああそれならもうやっておいたよ」
「ええそうなんですか!?すみませんありがとうございます!」
支配人は本当に仕事が早いとスタッフ間では有名だけど、まさかここまでとは。
たしかに、皆が頼りたくなる理由もわかる。
支配人は、照れ笑いを浮かべながら続ける。
「うん。っていっても、手紙一枚渡しただけだからそんなにかしこまらなくてもいいよ。あ、あとこれっ」
そうして手元から出してきたのは、達成報酬と同額の銀貨2枚。
「えっ報酬ってギルドから貰うんじゃ……」
そういう説明を聞いたわけじゃないけど、普通はそういうものなんじゃないだろうか。
「まあそうだけど、受け取っておいて」
ということは、これはいわゆる……
「わ、賄賂……」
「というかまあ、袖の下というか……チップ、そうチップだよ!」
これは受け取っておいた方がいいのだろうか。
支配人は受け取ってほしいみたいだけれど、何というか倫理的に……
「あとはまあ、アラト君には辞めてほしくないしね」
「え?」
「アラト君話すの苦手って言ってたけど、入ったばかりなのにもうすっかり馴染んでるし、アラト君が入ってからみんなも楽しそうにしてるんだ。だから、そういうお金でもあるからさ」
「わ、わかりました……」
結局僕は口説き落とされ、2枚のコインを受け取った。
「話はそれだけ?」
「はい。じゃあ失礼しますね」
「おっけー。じゃあ冒険者頑張ってね」
カチャッと扉を閉め、僕はその足でまたギルドへと向かっていった。
◇◇
中に入ると、この前の受付嬢さんがいた。
なにやら書いてるようだ。
「いらっしゃいま───せー」
こちらをチラッと2度見したと思ったら、何事もなく作業に戻る。
やっぱり、話しかけにくい。
「あの……依頼……」
「はい?なんですか」
「依頼達成した……から……」
「ああ」
納得したような顔の後、紙をガサガサと漁る。
そして、ある一枚を取り出し、さっと目を通した後銀貨2枚をカウンターに置いた。
「達成報酬の銀貨二枚です。お疲れさまでしたー」
「ありがとうございます!」
その銀貨を巾着袋にすっと入れる。
(あっそうだ)
どうせなら、来る道中考えていたことを聞いてみよう。
少し聞きにくいけれど。
「あのっ」
「はい?まだ何か」
面倒くさそうな顔。
だが、これから続ける上で知っておかなければ。
「あの、実は依頼主からチップ?みたいなの貰っちゃって……こういうのって、受け取っちゃダメ…ですか?」
「はあ……」
深々とため息をつく。
「まあ、いいんじゃないですか。まあそれで何かなるようなら、ご自分でどうにかしてください」
「あ、ありがとうございます」
「はい。さっきも言いましたけど、それで何か問題となっても自己責任でお願いしますね、これ以上仕事増えるの嫌なので。まあその上でなら、貰えるなら貰っとけばいいと思いますよ、知りませんけど」
頬杖を突きながら話す受付嬢さん。
「はい」
「あ、わかってるとっは思いますけど、無理矢理強請るのは法律違反なので」
「は、はいありがとうございます!」
「それだけですか?」
「はい、ありがとうございました!」
チラッと時計を見て、立ち上がる。
「私今から休憩なので、依頼などは1時半からでお願いします。昼休憩減るので」
「は、はい……」
颯爽と奥へと消えていった。
そこまで面倒くさいのなら、どうして受付の仕事を始めたのか。
不思議だ。
とりあえず、今は依頼もできないみたいだし、これから何をしようか。
暇だ。
3人は朝まで警備していたからすっかり寝ているし、これからどうしようか。
一旦外に出よう。
ギィッと扉を開くと、街は活気に満ちている。
多分今の時間のご飯屋は、どこもかしこも満席だろう。
だから、何か食べるとしたらもう少し後にするか、パン屋とかオリジン弁当とか。
一旦適当に歩いてみたら、何かあるかもしれない。
西の方はあまり行ったことがなかったし、どうせなら行ってみよう。
◇◇
少し歩いて、行ったことのない所まで来た。
なんというか、少し住宅街気味なのだろうか。
活気はそれほどないし、さっきと比べてほんのりと暗い。
だけどそれがまた落ち着くというか、そういう魅力があるように感じる。
整備された歩道を歩いていると、ある2階建ての書店に着いた。
“ギョーテン書店”
なんというか、反応に困る店名。
中を覗くと人はカウンターの店員さん以外見当たらない。
こじんまりとしているしこんな名前だから、恐らくチェーンじゃなくて個人店だろう。
「ん?」
僕は近くに立て看板が置かれていることに気がつき、近づいてよく見てみる。
“小説、漫画、ビジネス書、ラノベ。変わった本たち売ってます!”
「漫画……?」
よくわからないものが2つほど。
(とりあえず入ろうかな)
少し古びた感じの木の扉を押し開け、中に入る。
鼻を刺激する独特な匂いと、規則正しく並ぶ本棚が僕をこの店の雰囲気へと誘う。
この雰囲気が、初めて入るはずの僕を落ち着かせるのだろう。
「いらっしゃいませー」
女性店員さんの活気のある声。
制服であろうエプロンが何とも似合っている。
(あんまり見ない方がいいよね……)
僕は目線を本へと映す。
見たことない表紙がたくさんだ。
なんというか、派手というか……
そんな中でも、僕の目を引いたのは
“異世界プロレタリア革命記”。
手に取って表と裏をまじまじと見ていると、店員さんが近づいてきて───
「お客様、何かお探しですか?」
僕に話しかけてきた。
「えっえっと、その……」
緊張して上手く話せない。
「お手元の本に興味が?」
「は、はい」
「その本は漫画というジャンルなんです!」
「あっ看板の」
(へー……これがそうなんだ)
といっても、表紙しか見ていないからどういうものかはわからないけど。
「その中でも!これは私が一番おススメしてるやつなんですよ!」
「へ、へぇ……」
「気になりますか?!」
気になるとか気にならないとかじゃなくて、なんというか熱量にびっくりで頭に入らないというか……。
しかし、こういう時の返事は決まっているのだ。
「はい。でも、一応他のも見てみていいですか?」
お母さんに教えられたこの技法。こうすることで相手も傷つけず、この場からも逃げられるらしい。
なんて画期的。
「もちろんです!でももしこの中身について知りたいなら、わ・た・し・に!聞いてください!絶対面白そうってさせますので!」
「あ、ありがとうございます……」
何とか逃げ切れたのか。
歯切れの悪い勝敗だ。
というか、さっきからちらちら見える奥の階段。
なんとか2人通れるくらいの幅だけど、2階にも本があるのだろうか。
僕が考えてもわからないし、もし違ったら恥ずかしいから手っ取り早く聞いてみよう。
そう思い、カウンターに戻ろうとする店員さんを呼び止める。
「あの」
「はい?」
ポニーテールが横薙ぎに振られ、顔が僕の方に向く。
なんというか、すっきりしたような顔をしている。
「2階にも本ってありますか?」
「はいありますよ!2階は小説もありますけどビジネス書や啓発本がメインですね」
「そうなんですね、ありがとうございます」
あまり僕はビジネス書や啓発本には興味はない。
でも少ないけど小説もあるみたいだし、一通り見たら行ってみよう。
◇
とりあえず、一周して面白そうなもの一通り抱えてから、僕は2階へと上った。
きしきしと鳴る階段の一番上には、さっきと似たような景色。
ただひとつ、違ったものがあった。
人がいる。
ゴツゴツとした体に、モヒカンみたいな頭。
「?」
振り返る顔は、見覚えがある。
「えっ!」
あの男好きの人だ。
まさかこんなところで出会うなんて。
「おう新入りじゃねえか。こんなところで会うなんてなあ」
ずけずけと近づき、僕の肩を掴む。
「あ、あはは……」
「依頼順調か?」
「ま、まあ」
本屋だというのに声がでかいし暑苦しい。
「お前、いくら儲かったんだ?」
「え、えと……銀貨4枚…ですけど……」
(も、もしかして……カツアゲ!?)
せめて銀貨2枚だけにしてほしい。
残りの2枚は手伝ってくれた3人と一緒に分けるつもりだし、取られたら困る。
「儲かってんじゃねえかぁ!なら、持ってるそれ全部買えるな?」
「ま、まあ……」
バシバシと叩かれる衝撃で本を落としそうだ。
そんな心配をしながら、僕はマッチョの方を見る。
「?」
何か、持ってる本に見覚えがある。
気になってじっと見ると……
「あっそれ、“軋むゼンマイには、愛の錆止めを”ですか……?」
恐る恐る聞いてみる。
「なっお前知ってんのか?」
少し恥ずかしそうな顔。
僕が大好きで、全巻読んでる本だ。
でも向こうも知ってるみたいだ。
この本が好きな人に悪い人はいない。
「はい!それ面白いですよね!」
「だよな!?まさか冒険者で知ってるやつがいるなんてな!」
ほんとにその通り。
まさかこのマッチョが僕の同志なんて。
「お?お前それ」
僕が持っている本を指さす。
その先にある本は、“異世界プロレタリア革命記”。
「ああこれですか?これ、店員さんにお勧めされちゃって、気になって手に取ってみたんです。漫画っていうらしいんですけど、よくわかんなくて……」
「お前漫画知らねえのか?漫画ってのは、簡単に言ったら絵と文字で表現する本だな。だいたいは片面で右上から左下に読むもんだ。そんなかでもそれは、まあ初心者には読みにくかもだが中身はおもしれえぞ」
「へえ……ありがとうございます!」
「礼なんていらねえよ!なあ」
「はい?」
信頼しあった僕らは、互いの顔を見る。
「俺がこれの感想言うからよ、お前それの感想聞かせてくれねえか?」
「あっいいですね!やりましょ!」
これを機に僕らは、読書友達、いわゆる読友になった。
◇◇◇
時間は過ぎて夜。
ガレド、ロゼル、ルーナ、そして僕は1115室に集まっていた。
「アラト、これなんですか?」
ロゼルが僕の買って、異世界プロレタリア革命記を手に持つ。
「それ?それ漫画って言うんだってー」
「へえ……」
僕の話を聞くや否や中身をペラペラとめくる。
「おっなんだそれ!」
「おもしろそう」
2人が横からのぞき込む。
「ちょっと!私が読んでるんですから!」
ロゼルが指を挟みながら隠す。
本当に仲がよくて、見ていて楽しい。
「じゃあ、みんなで読む?」
僕が言うとともに3人がこっちを向く。
「いいじゃねえか!やろうぜ!」
「そうですね」
「アラトの本、面白そう」
そして本を開き、僕らはワクワクしながら同じ先を見つめた。
今話読んでいただきありがとうございます!
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目に見えて数字が出たら、ほんとにやる気に繋がるので、面白いって思って下さったら是非!
じゃっ!




