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番外編 本の同志は身近なところに

前回はホテルから人を追い出す話でした!

今回は番外編です!よろしくお願いします!

「じゃあ僕、依頼の報告行ってきますね」


 ホテルを出るため、荷物をまとめる。


「アラトくん!」

 僕を呼び止める声。


「なんですか?」

 振り向き、声の元セレナさんの顔を見る。

 少し真剣そうな眼差し。


「これは冒険者の先輩としてのアドバイス!いい?」

「はいっ」


 僕に向けて、指を立てながら言う。


「絶対に無理しちゃダメ!深追いもダメっ」

「はい」

「無理そうなら、一旦引いて、作戦を立てたり人増やしたりしてまた挑んでみる。そうやって安全にやっていった方が、案外すんなりいけるよ」

「そうなんですね。ありがとうございます!」

「よし!じゃあ、行ってらっしゃい!」


 笑顔で手を振るセレナさん。


「はい!」


 僕は扉を開き、そのままエントランスへと向かった。



 着いた。

 歩きながら思ったけど、ギルドに行く前に支配人に挨拶しておこう。


 事務室の扉を開け、中を確認する。


「支配人」


 すぐ前に映るのは、何やら机に向かって書類の束に書き殴っている支配人の姿。

 忙しい中申し訳ないし、少し話したらすぐに帰ろう。


「ああアルト君か。どうしたの?」

「そろそろギルドに報告しに行こうと思って」


 僕が話すと、支配人は手を止め僕の方に向いた。


「ああそれならもうやっておいたよ」

「ええそうなんですか!?すみませんありがとうございます!」


 支配人は本当に仕事が早いとスタッフ間では有名だけど、まさかここまでとは。

 たしかに、皆が頼りたくなる理由もわかる。


 支配人は、照れ笑いを浮かべながら続ける。


「うん。っていっても、手紙一枚渡しただけだからそんなにかしこまらなくてもいいよ。あ、あとこれっ」


 そうして手元から出してきたのは、達成報酬と同額の銀貨2枚。


「えっ報酬ってギルドから貰うんじゃ……」


 そういう説明を聞いたわけじゃないけど、普通はそういうものなんじゃないだろうか。


「まあそうだけど、受け取っておいて」


 ということは、これはいわゆる……


「わ、賄賂……」

「というかまあ、袖の下というか……チップ、そうチップだよ!」


 これは受け取っておいた方がいいのだろうか。

 支配人は受け取ってほしいみたいだけれど、何というか倫理的に……


「あとはまあ、アラト君には辞めてほしくないしね」

「え?」

「アラト君話すの苦手って言ってたけど、入ったばかりなのにもうすっかり馴染んでるし、アラト君が入ってからみんなも楽しそうにしてるんだ。だから、そういうお金でもあるからさ」

「わ、わかりました……」


 結局僕は口説き落とされ、2枚のコインを受け取った。


「話はそれだけ?」

「はい。じゃあ失礼しますね」

「おっけー。じゃあ冒険者頑張ってね」


 カチャッと扉を閉め、僕はその足でまたギルドへと向かっていった。


◇◇


 中に入ると、この前の受付嬢さんがいた。

 なにやら書いてるようだ。


「いらっしゃいま───せー」

 こちらをチラッと2度見したと思ったら、何事もなく作業に戻る。


 やっぱり、話しかけにくい。


「あの……依頼……」

「はい?なんですか」

「依頼達成した……から……」

「ああ」


 納得したような顔の後、紙をガサガサと漁る。


 そして、ある一枚を取り出し、さっと目を通した後銀貨2枚をカウンターに置いた。


「達成報酬の銀貨二枚です。お疲れさまでしたー」

「ありがとうございます!」


 その銀貨を巾着袋にすっと入れる。


(あっそうだ)


 どうせなら、来る道中考えていたことを聞いてみよう。

 少し聞きにくいけれど。


「あのっ」

「はい?まだ何か」


 面倒くさそうな顔。

 だが、これから続ける上で知っておかなければ。


「あの、実は依頼主からチップ?みたいなの貰っちゃって……こういうのって、受け取っちゃダメ…ですか?」

「はあ……」

 深々とため息をつく。


「まあ、いいんじゃないですか。まあそれで何かなるようなら、ご自分でどうにかしてください」

「あ、ありがとうございます」

「はい。さっきも言いましたけど、それで何か問題となっても自己責任でお願いしますね、これ以上仕事増えるの嫌なので。まあその上でなら、貰えるなら貰っとけばいいと思いますよ、知りませんけど」

 頬杖を突きながら話す受付嬢さん。


「はい」

「あ、わかってるとっは思いますけど、無理矢理強請るのは法律違反なので」

「は、はいありがとうございます!」

「それだけですか?」

「はい、ありがとうございました!」


 チラッと時計を見て、立ち上がる。


「私今から休憩なので、依頼などは1時半からでお願いします。昼休憩減るので」

「は、はい……」


 颯爽と奥へと消えていった。

 そこまで面倒くさいのなら、どうして受付の仕事を始めたのか。

 不思議だ。


 とりあえず、今は依頼もできないみたいだし、これから何をしようか。


 暇だ。

 3人は朝まで警備していたからすっかり寝ているし、これからどうしようか。


 一旦外に出よう。


 ギィッと扉を開くと、街は活気に満ちている。

 多分今の時間のご飯屋は、どこもかしこも満席だろう。

 だから、何か食べるとしたらもう少し後にするか、パン屋とかオリジン弁当とか。


 一旦適当に歩いてみたら、何かあるかもしれない。

 西の方はあまり行ったことがなかったし、どうせなら行ってみよう。


◇◇


 少し歩いて、行ったことのない所まで来た。

 なんというか、少し住宅街気味なのだろうか。

 活気はそれほどないし、さっきと比べてほんのりと暗い。

 だけどそれがまた落ち着くというか、そういう魅力があるように感じる。


 整備された歩道を歩いていると、ある2階建ての書店に着いた。


 “ギョーテン書店”

 なんというか、反応に困る店名。


 中を覗くと人はカウンターの店員さん以外見当たらない。

 こじんまりとしているしこんな名前だから、恐らくチェーンじゃなくて個人店だろう。


「ん?」


 僕は近くに立て看板が置かれていることに気がつき、近づいてよく見てみる。


 “小説、漫画、ビジネス書、ラノベ。変わった本たち売ってます!”


「漫画……?」


 よくわからないものが2つほど。


(とりあえず入ろうかな)


 少し古びた感じの木の扉を押し開け、中に入る。


 鼻を刺激する独特な匂いと、規則正しく並ぶ本棚が僕をこの店の雰囲気へと誘う。

 この雰囲気が、初めて入るはずの僕を落ち着かせるのだろう。


「いらっしゃいませー」

 女性店員さんの活気のある声。

 制服であろうエプロンが何とも似合っている。


(あんまり見ない方がいいよね……)

 僕は目線を本へと映す。


 見たことない表紙がたくさんだ。

 なんというか、派手というか……


 そんな中でも、僕の目を引いたのは


 “異世界プロレタリア革命記”。


 手に取って表と裏をまじまじと見ていると、店員さんが近づいてきて───


「お客様、何かお探しですか?」

 僕に話しかけてきた。


「えっえっと、その……」

 緊張して上手く話せない。


「お手元の本に興味が?」

「は、はい」

「その本は漫画というジャンルなんです!」

「あっ看板の」

(へー……これがそうなんだ)


 といっても、表紙しか見ていないからどういうものかはわからないけど。


「その中でも!これは私が一番おススメしてるやつなんですよ!」

「へ、へぇ……」

「気になりますか?!」


 気になるとか気にならないとかじゃなくて、なんというか熱量にびっくりで頭に入らないというか……。


 しかし、こういう時の返事は決まっているのだ。


「はい。でも、一応他のも見てみていいですか?」


 お母さんに教えられたこの技法。こうすることで相手も傷つけず、この場からも逃げられるらしい。

 なんて画期的。


「もちろんです!でももしこの中身について知りたいなら、わ・た・し・に!聞いてください!絶対面白そうってさせますので!」

「あ、ありがとうございます……」


 何とか逃げ切れたのか。

 歯切れの悪い勝敗だ。


 というか、さっきからちらちら見える奥の階段。

 なんとか2人通れるくらいの幅だけど、2階にも本があるのだろうか。


 僕が考えてもわからないし、もし違ったら恥ずかしいから手っ取り早く聞いてみよう。

 そう思い、カウンターに戻ろうとする店員さんを呼び止める。


「あの」

「はい?」

 ポニーテールが横薙ぎに振られ、顔が僕の方に向く。

 なんというか、すっきりしたような顔をしている。


「2階にも本ってありますか?」

「はいありますよ!2階は小説もありますけどビジネス書や啓発本がメインですね」

「そうなんですね、ありがとうございます」


 あまり僕はビジネス書や啓発本には興味はない。

 でも少ないけど小説もあるみたいだし、一通り見たら行ってみよう。



 とりあえず、一周して面白そうなもの一通り抱えてから、僕は2階へと上った。

 きしきしと鳴る階段の一番上には、さっきと似たような景色。


 ただひとつ、違ったものがあった。

 人がいる。


 ゴツゴツとした体に、モヒカンみたいな頭。


「?」

 振り返る顔は、見覚えがある。


「えっ!」


 あの男好きの人だ。

 まさかこんなところで出会うなんて。


「おう新入りじゃねえか。こんなところで会うなんてなあ」

 ずけずけと近づき、僕の肩を掴む。


「あ、あはは……」

「依頼順調か?」

「ま、まあ」


 本屋だというのに声がでかいし暑苦しい。


「お前、いくら儲かったんだ?」

「え、えと……銀貨4枚…ですけど……」

(も、もしかして……カツアゲ!?)


 せめて銀貨2枚だけにしてほしい。

 残りの2枚は手伝ってくれた3人と一緒に分けるつもりだし、取られたら困る。


「儲かってんじゃねえかぁ!なら、持ってるそれ全部買えるな?」

「ま、まあ……」

 バシバシと叩かれる衝撃で本を落としそうだ。


 そんな心配をしながら、僕はマッチョの方を見る。


「?」

 何か、持ってる本に見覚えがある。

 気になってじっと見ると……


「あっそれ、“軋むゼンマイには、愛の錆止めを”ですか……?」

 恐る恐る聞いてみる。


「なっお前知ってんのか?」

 少し恥ずかしそうな顔。


 僕が大好きで、全巻読んでる本だ。

 でも向こうも知ってるみたいだ。

 この本が好きな人に悪い人はいない。


「はい!それ面白いですよね!」

「だよな!?まさか冒険者で知ってるやつがいるなんてな!」


 ほんとにその通り。

 まさかこのマッチョが僕の同志なんて。


「お?お前それ」

 僕が持っている本を指さす。

 その先にある本は、“異世界プロレタリア革命記”。


「ああこれですか?これ、店員さんにお勧めされちゃって、気になって手に取ってみたんです。漫画っていうらしいんですけど、よくわかんなくて……」

「お前漫画知らねえのか?漫画ってのは、簡単に言ったら絵と文字で表現する本だな。だいたいは片面で右上から左下に読むもんだ。そんなかでもそれは、まあ初心者には読みにくかもだが中身はおもしれえぞ」

「へえ……ありがとうございます!」

「礼なんていらねえよ!なあ」

「はい?」


 信頼しあった僕らは、互いの顔を見る。


「俺がこれの感想言うからよ、お前それの感想聞かせてくれねえか?」

「あっいいですね!やりましょ!」


 これを機に僕らは、読書友達、いわゆる読友(よみとも)になった。



◇◇◇



 時間は過ぎて夜。

 ガレド、ロゼル、ルーナ、そして僕は1115室に集まっていた。


「アラト、これなんですか?」

 ロゼルが僕の買って、異世界プロレタリア革命記を手に持つ。


「それ?それ漫画って言うんだってー」

「へえ……」


 僕の話を聞くや否や中身をペラペラとめくる。


「おっなんだそれ!」

「おもしろそう」

 2人が横からのぞき込む。


「ちょっと!私が読んでるんですから!」

 ロゼルが指を挟みながら隠す。

 本当に仲がよくて、見ていて楽しい。


「じゃあ、みんなで読む?」

 僕が言うとともに3人がこっちを向く。


「いいじゃねえか!やろうぜ!」

「そうですね」

「アラトの本、面白そう」


 そして本を開き、僕らはワクワクしながら同じ先を見つめた。


今話読んでいただきありがとうございます!

よかったら、ご感想・ご指摘、ブックマークや評価してくださったらめちゃくちゃ嬉しいです!

目に見えて数字が出たら、ほんとにやる気に繋がるので、面白いって思って下さったら是非!

じゃっ!

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