振るわれる暴力と固める決意
前回は新キャラ登場!でした
今話よろしくお願いします!
「久々に会えたな、アラト」
警備の最中、背伸びをしながらガレドが呟いた。
「そうですね、元気そうで何よりです」
目線を合わせず答える。
「いつものアラト。安心した」
ルーナの、思ったことを吐露したかのような一言。
ひどく同感だ。
「そうだな、いい所も悪い所も……」
「一人で突っ走りすぎというか、なんといいますか……」
「もっと頼るべき」
さすがは幼馴染。
考えていることは一緒。
「そうだな」
「もっと頼るべきですよね……」
「主に俺を」「「主に私を」」
違ったみたいだ。
「「「は?」」」
示し合わせたように声が重なる。
「いや、普通に男の俺が一番頼りやすいだろ」
当然のことかのような言い振舞。
「男同士ではできないことだってありますよ?私は神官ですから、怪我しても治せます」
「ロゼルは全然女々しさない。でかい」
「なっ!」
ルーナの捻りなし、まっすぐ剛速球の悪口。
「そそんなことないです!」
「じゃあ、いくつ?」
「えっと……去年測った時は190でしたけど」
「……壁」
「誰がですか!」
なんともまあ失礼な。
こういう遠慮のない所、本当に直してほしい。
「な、ならルーナとガレドはどうなんですか?!」
「俺は172だな」
「私は167」
「みんなアラトより高いんですから、私だって一緒でしょう?」
そう、アラトが156だから、結局みんなアラトより大きい。
故に全部同じだ。
「そんなことない。それに、私の魔法なら剣も力も意味ない。遠くからボンで終わり」
杖を前に出しながら自信満々に言う。
「いやそんな簡単な話じゃないだろ」
「それに、私は猫。そばで癒すこともできる」
「いやいや、あなた猫らしいの耳だけですよね?それも帽子で隠れてますし」
「……」
そう言われ、ゆっくりと帽子を取った。
「はあ……まあとりあえず、俺らがしっかりしねえとな」
「そうですね」
「当然」
こんな会話でも、退屈な時は一輪の花と成る。
それに、言葉は強くとも気兼ねのない会話というのは、意外と悪くない。
いや、そういう関係が私は神官ながら好きなのだろう。
◇◇◇
時刻はもう9時。
いよいよ、話し合いの時間だ。
「お疲れ様です」
僕がそういって入ったころには、皆がそろっていた。
こんなに集まっているのはあまり見たことがない。
「ごめんなさい遅れちゃって」
「おっアラト君来たね。じゃあ早速始めようか」
支配人が仕切り始めると、次第にガヤガヤし始める。
もちろん内容はすべて、難民受け入れの廃止について。
「ここまでやってきたんだから、今更差別みたいなこと……」
「いや実際被害を被っているでしょ!差別じゃないし他にどうしようもないの!」
「でも難民なのは事実だし……」
「だからって俺らが面倒みることはないだろ!」
討論、とは少し遠い意見のぶつけ合い。
お互いの環境が、ホテルの中でも違うからだろうか。
会話に入る隙がない。
「じゃあもう多数決にするよ」
支配人の言葉を皮切りに、段々と静かになっていく。
「難民受け入れと、今いる人の追い出しに賛成の人、挙手してください」
大体半分が手を挙げる。
僕は挙げない。
「反対の人、挙手してください」
半分が手を挙げる。
僕はまた挙げない。
そう、まだ僕は決めきれていない。
何も言わず、下をうつむく。
それに気づかれないほど、皆は馬鹿じゃなかった。
「どうしたの?」
近くの席の人が話しかけてきた。
「アラトは知らなかったんだ、無理もないぞ」
「まだ、来て日も浅いしね。仕方ないよ」
それでも皆は、優しく接してくれる。
「どっちが悪い、っていうのもないから、気軽にでいいから言ってくれないかな?」
胸が痛い。
優しさが、引っ付き虫みたいに胸に刺さる。
辛いなら、許せない自分から抜け出したいなら、ここで決めなければ。
「えっと……正直僕、なにがいいのかとか今どれだけひどいのかとか、よくわかんなくて……だから、まだ何も知らないから、ちゃんとその人たちと話して、それから決めたいです!」
今の気持ちを、そのまま口に出す。
少しの恥ずかしさと大きな緊張で胸の鳴りが止まらない。
「ま、まあそう…か……」
「ありっちゃありかも?」
「でもさ……危なくない?」
「誰が行くの?」
僕の意見を中心に、また騒がしくなる。
「あの、僕が行ってもいいですか」
その言葉で、一気に視線が僕に向く。
その目はどれも心配を訴えているようだ。
「あ、アラト君はちょっとぉ……」
「ままあでも、行きたいって言ってるし……」
「誰か付き添いとかならいいんじゃない?」
そうして、大体20分話し合った。
結果、僕が行き、付き添いとしてセレナさんがついてくれることになった。
ありがたい反面、とても申し訳ない。
何かあった時のためのマスターキーは、セレナさんが持ってくれている。
今は、例の604号室に向かっている最中だ。
「はああ緊張したぁ……」
胸に手を当て、大きなため息。
「でも言えたじゃん!」
「言ってないのと同じような気も……」
「そんなことないって!それに、あそこで言って成長できただけ立派だと思うよ?」
「そう…なんですかね?」
「そうだよ!」
スタスタと鳴り響く。
この時間で廊下に人はあまりいない。
「そういえば、今日の夜何食べたの?」
「あーハンバーグです」
「え、セットで?」
「まあはい」
「ったくぅ、いいもん食べやがってぇこいつめー!」
そう言いながら、僕の顔と頭をわしゃわしゃする。
まるでペットだ。
「もーやめてくださいよお」
「アハハごめんごめん!」
無邪気に輝くように笑う。
甲高い笑い声も心地いい。
◇
そんなことをしていると、気づいたらその前に来ていた。
604号室。
ドアの隙間から少しだけする匂い。
扉の先に聞こえないように、小声で話しかける。
「(あの、ノックした方がいいですかね)」
「(いや……もう開けちゃおう)」
「(じゃあ、僕が行きますから何かあったらよろしくお願いします)」
有無を言わさず、マスターキーで扉を開ける。
「鍵、お願いします」
「えっちょっ───」
セレナさんの手に押し付けるように鍵を預けると、僕は中へ押し入った。
中は本当に異質だった。
明かりは薄暗く、部屋中を漂っているのは煙草の香り。
勿論館内は喫煙禁止だ。
噂通り、いや噂以上に汚らしく壁の穴は激しく目立ち、ここだけスラム街と言ってしまってもいいほど。
そんな中、奥に座っているのは背が高くガタイが少しいい男。
「突然入ってしまってすみません、少しホテルからお話がありまして」
「誰だお前は!」
威圧的で荒々しい声。
「その、実はお客様の部屋に、他の方から騒音や階段の占拠などのクレームが入っておりまして」
「知らねえよ!これは俺の国の文化なんだよ!」
近くの台を強く叩く。
大きな音に、僕の体は跳ね上がった。
「それに当館は禁煙なんですよぉ……これ以上続くようでしたら、当ホテルのご利用を遠慮してもらうしか───」
「は?俺の国の文化否定するのかよ!」
「いやそういうわけじゃ……」
弱気な僕を見て、目の前の男は的を得た魚のような顔でまくし立てる。
「あーあこれって明らかな差別だよなあ?」
「えっと、こちらとしてもこれ以上は……」
「こっちに合わせられない、お前らが悪いんじゃねえのかあ?なあ?」
「いやその……」
「でも俺差別されたしなあ?どーしてくれようかなあ、もうこれは国際問題だよなあ?」
「……」
何も言えない。
いや、なんて言えばいいのかわからない。
そんな戸惑っている僕に、男は立ち上がって、ずけずけと近づいて───
「おい、何とか言えよ!」
僕の顔めがけて拳を振り切った。
「あうっ!」
不意に声が漏れる。
頭は壁に強く打ちつけられ、思考がまともにできない。
その時になった鈍い音も、鳴り響く耳鳴りにほとんど打ち消された。
「う…うう……」
「起きろオラッ!」
無防備な腹に、重い何かが入ってくる。
よくは見えなかったけど、多分足だ。
そんなことはどうでもいいほど、今はとにかく痛い。気持ち悪い。
そんな中、目の前に光が飛び込む。
「アラト君!?」
優しい、セレナさんの声だ。
聞いてるだけで少しだけ落ち着く。
「勝手に入ってきてんじゃねえよ!」
「お前……」
セレナさんの声が少し低くなり、重みが一気に増した。
「ふんっ!」
踏ん張るような声とともに、ものすごい音が鳴る。
なんとか体を少し起こし、前を見ると、さっきまでいた男が壁の端で倒れこんでいた。
近くのセレナさんは、いつもと全く違った雰囲気。
いつもの明るいセレナさんとは全く変わって、目にあった鋭さを全面に押し出したような、そんな雰囲気。
「てめっ……こんなもん、国際問題だぞ!」
「これでなるなら、随分前からお前はこの国にいないだろ!」
パタリと力尽きるように意識を失う男。
「大丈夫?!」
僕の背中に支えるように手を添え、身体中を見回す。
「ああもう危ないことして!応急処置しに行くよ!」
「は、はい……」
そうしてセレナさんは、604号室の住人を縛ったあと、僕を3階の簡易医療室に連れて行った。
◇◇
その後、簡易医療室で頭に包帯を巻いてもらい、今はベッドで休ませてもらっている。
僕が入っていっただけなのに、なんだか申し訳ない。
目の前にいるのは、セレナさんと支配人。
「アラト君、結構すごかったらしいけど大丈夫?」
心配そうな目で見つめる支配人。
こんな顔はめったに見ないから、なんだか新鮮だ。
「はい、まだ痛いですけど大丈夫ですよ」
「もう無茶して!もう絶対だめだからね!?」
「す、すみません……」
初めてセレナさんに叱られた。
優しい人が起こると怖いって、どうやら本当のことらしい。
「それで、どうだった?意見は決まった?」
落ち着いた口調の支配人。
「支配人、今聞かなくても!」
「いやでも、こういうのは早めに限ると思ってね。で、どう?」
下を向き、しばらく思い出すように考える。
あの光景、痛みを見て感じて……。
「はい、決まりました」
「そっか」
「やっぱり僕は……賛成です。僕にとって、もちろんお客様も大事ですけど、それよりもみんなの方が……」
僕の声に、2人は耳を傾けてくれる。
「そっか」
「アラト君……」
「でも!やっぱりこれって、差別……だと思います。だから、ちゃんと踏みとどまれるように僕らはそう思ってやるべき、だと思います。……あっご、ごめんなさい失礼なこと言っちゃって!」
頭を下げる僕に対し、2人は───
「いや、大丈夫だよ」
「はっきり言えたじゃん!ほんとに、成長したんだねアラト君」
「あ、ありがとうございます!」
◇◇
結局、その次の日のうちに難民受け入れの人たち全てに出ていってもらった。
意外にも、あの人以外はすんなりと出てくれて、思ったより楽に済んだ。
今は、ホテルの自分の部屋で休んでいる。
「ふう……」
一息ついてぼーっとしていると、ノックが鳴る。
ガチャッと開けた先にはセレナさん。
「やっ!」
「セレナさん、どうしたんですか?」
「ひまなのー遊んでー!」
「いいですよ、遊びましょ」
「やったー!」
駆け足で僕の部屋へと入る。
「ていうか、セレナさんあんなに強かったんですね」
あれからずっと気になっていたこと。
そんな話聞いたことなかったから、本当にびっくりした。
「えっとね……支配人以外には秘密にしてたんだけど、私元々冒険者してたんだっ」
「ええ!?」
自然と声が漏れる。
まさかこんなに憧れてたものになっていた人がいたなんて。
「一人でⅭランクまで行った後、パーティー入ったんだよね。でもなんか違うかなって思ってやめちゃったんだけど……続けてたらよかったかな、アラト君と一緒に冒険者!って」
「へえ……」
なんだか、いつもより輝いて見える。
「いやでもやめてなかったら、そもそも会えてないか。アハハ。まあそんなことよりっ!」
いきなり顔をグイっと近づけるセレナさん。
「なにする?」
「冒険者の時のお話、聞かせてくださいよ!」
胸を躍らせながら言う。
「ええーいやだよー」
「なんでですかあ!」
「んーそんなこと言っちゃうなら、日記の続き読んじゃうよお?」
そう言いながら、机の引き出しに手をかける。
「ちょっやめてくださいよー!」
そんなセレナさんの腕を止めるために、僕はベッドから立ち上がった。
今話読んでいただきありがとうございます!
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目に見えて数字が出たら、ほんとにやる気に繋がるので、面白いって思って下さったら是非!
じゃっ!




