どちらかを見捨てるっていう選択は、やっぱりムズかしい
前回はホテルに向かう回でした!
じゃあ今回もよろしくお願いします!
「え?」
「難民受け入れの区間あるでしょ」
「まあ……それがどうしたんですか?」
このホテルは、大きいこともあり一般の宿泊区間と、難民受け入れの区間の2つがある。
難民区間の住民は大体が戦争や紛争の難民で、ほとんどが住み込みだ。
そういう活動からか、世間の評判としてはいいのだけど近くの階に泊まることになった人からは、夜中にうるさい、や階段に居座っていて怖い、などの苦情がしばしば来ている。
僕の担当はそこからは外れた区間だから詳しくは知らない。
そして支配人は、不満を吐露するようにぽつぽつと語りだす。
「実は、よく苦情が来ていた604号室なんだけど、今日朝の掃除に行った時、穴が開いてたりゴミはまき散らされていたりそれはもう荒らされていてね。もう出ていってもらうことは決まってるんだけど、これからも同じ事が起こるとホテル自体の評判も落ちるだろうし、どうしようかっていう感じで……」
「な、なるほど……」
まさかそこまでだったとは。
その区間担当の人は本当につらそうにしていたのは見ていた。
だけど、僕含めた従業員やお客さんにも優しい店長が、追い出すと決めるほどのことだなんて、本当によっぽどなのだろう。
「それで、ちょっと空気が?」
「いや、それは多分難民受け入れをやめるかどうかでみんなで話し合ったんだけど、その時に喧嘩…じゃないけど言い合いにはなってしまったんだ。お互いどっちの意見もわかるからこそのものなんだけど……それでもう一度ちゃんと話し合おうと思ってて、アラト君、今日のディナーの後時間ある?」
「はい、大丈夫ですよ!」
「ありがとう。君は今日朝の分で終わりだし、休んでていいよ」
いつもの笑顔に戻る支配人。
やっぱりこの顔が一番安心する。
「え、でも依頼の分……」
「それは、そっちの3人がやってくれるんだろう?」
僕の後ろに立つ奥の三人に目をやる。
「おうよ!任せろ!」
「初任務」
「私たちに任せてください、支配人さん」
自信満々に胸を張る3人。
「え、でも僕の……」
「お前は朝から動いて疲れてるだろ。しっかり休めって!」
僕の背中を強く叩く。
「うっ」
結構痛い。
「アラトをそんなに強く叩かないでください!ほんとにもう……」
優しく僕の背中を撫でる。
「あ、ありがとう」
大きくて柔らかい手故の安心感。
「アラト、無理は禁物。さっき言った」
僕の顔を包むように両手で挟む。
「はい……すいません……」
手のぬくもりが身に染みる。
「じゃあ、僕もう行こうかな。ごめんだけど、お願いね」
「おうよ!任せとけって!」
「しっかり休んでくださいね」
「ん」
再び支配人の方に振り向く。
「支配人もありがとうございました」
「こちらこそ。多分9時ぐらいだろうけど、こっちから連絡するから」
「はい」
そして僕は、自分の部屋1115室へと戻った。
◇◇◇
「ふう……」
部屋に戻り、靴を脱いで荷物を投げるように置いた。
そして、身を任せるようにベッドへダイブ。
「んっんん……」
そのまま背を伸ばす。
「あっ書かないと」
引き出しからノートを取り出す。
僕は普段、日記を書いている。
夢を追っている最中なのだ。
その軌跡を残しておかないのはもったいないというものだ。
……という論で、日記をつけていることを恥ずかしいと思いながらも書き続けている自分を騙している。
実際そう思っているのは本当だし。
「お風呂の後でいっか」
お風呂の準備のため、衣服を探す。
「えっとパンツパンツぅ……」
本やタオルなど、だいぶ無造作に入れてしまっていた。
ずっとホテルに置いていたものなのにもうごちゃごちゃだ。
ようやく新しい服やズボン、パンツを見つけ、それらをベッドに置く。
そしてその中からパンツだけを取り、お風呂へと向かった。
◇
「ふう」
湯気を纏った僕は、パンツ一丁のままベッドへと飛び込んだ。
シャワーだけでも、疲れというのは取れる。
とはいえ、ホテルに来てから湯船に浸かっていない。
そろそろ、大浴場に入ってみるのもありかもしれない。
そんなことを思ってると、時間はもう7時。
晩御飯を食べなければ。
気分としては……ステーキとか、ハンバーグとかな気がする。
1年ぐらいはこの街にいたけど、あまりレストランの散策ができていなかったので、ちょどいい機会かもしれない。
善は急げと言わんばかりに服を着て立ち上がる。
しかし、僕の足はノックの音とともに止まる。
「アラト君?」
この声は……。
当たらないように少しだけ扉を開けた、その瞬間───向こうがぐわっと強く開けたせいで引くドアと一緒に体が持っていかれた。
「おっと!」
優しく両肩を掴んでくれる。
しかし慣性で僕の顔はその人の肩にもたれる。
「大丈夫?」
僕の鎖骨辺りに柔らかい感触。
何が当たっているのかわかるから、少し恥ずかしい。
「は、はい」
顔を上げると、その人と見合うようになる。
優しく光り、それでいて鋭さもある目、シュッとした輪郭でよく似合った茶色のショートカット。
「セレナさん、今日担当じゃないんですか?」
セレナさん。
僕の先輩で教育係をしてくれた頼れる先輩だ。
明るくて優しい人だけど、時々言う冗談にドキッとさせられる。
あまり参考にはしなかったけど、サボり方とかも教えてくれもした。
それもこれも、年上の余裕というものだろう。
「いや?ちょっと抜けてきただけ~」
「ええ大丈夫なんですか!?」
「大丈夫だって!すぐ戻るしっ。とりあえず、中入っていい?」
「まあ大丈夫ですけど……」
ガチャッと扉が閉まる。
僕がベッドに座ると、セレナさんがキョロキョロとし始めた。
「ちゃんとキレイにしてるんだね。えらいねぇ~」
「ま、まあ……」
なぜかかなり恥ずかしい。
「おっこれ何?」
机のノートを手に取っている。
(あ!忘れてた!)
「ちょっ!見ないでくだ───」
時すでに遅し。
「ふぅん……こんなの書いてるんだね」
「もー見ないでくださいよぉ!」
顔中が熱い。
今にも逃げ出して、山奥のどこかで叫びたい気分だ。
「いや私はいいと思うよ?ほら、文章も上手いし」
「もうやだぁ……」
セレナさんはしばらく読み続けると、パタンと閉じて、僕のすぐ横に腰掛けた。
「それで……さっどうなの?」
「え?」
「冒険者登録してきたんでしょ?どうだった?」
一人暮らしの子供を見るような、優しい目。
近いからこそ見える長いまつ毛は、吸い込まれそうな魅力がある。
「えっと……すごく個性的な人が多かったです」
「そうなんだぁー。でもまあ、無事でよかった」
「ありがとうございます」
少しの沈黙。
先に口を開いたのは僕だった。
「セレナさんは……どう思うんですか」
「んん?」
「あの……難民受け入れ辞めるってやつです」
「あーそれのこと?私はぁ……賛成かなあ」
「そうなんですか?」
少し意外だ。
優しいセレナさんが、こういうことではっきりと追い出すっていうなんて。
「んーまあ、やっぱり一般のお客さんあってのシステムだからさ。そこに迷惑が出てるなら、やめるべきだと思うなあ。アラト君はどう思うの?」
「ぼ、僕ですか?僕は……」
正直、まだ決めきれていなかった。
「僕は、お客さんも大事だと思います。でもそれ以上にセレナさんとか、支配人とか、他のみんなのことが大事なんです。だ、だけど……矛盾するみたいですけど、1番大事だからって、切り捨てちゃうのは……そ、それに、もし僕らが見放して、どうすることもできなくてどこかで死んじゃうようなことでもあったら……それって僕らがその人たちのこと殺してるのと同じって……だから、まだわからないというか……」
いや、そうじゃない。
どちらかを見放す、見切りをつけるような決断から僕は逃げているのだ。
どっちを選んでも誰かが悲しむ。
でも、選ばなかったらどっちも悲しむことになる。
そんなことはわかっているはずなのに。
「そっか。アラト君は、本当に優しいんだね」
「そ、そうなんですかね……」
僕はただ、優柔不断なだけなのに。
そうやって、僕を奇麗に見てくれるセレナさんこそ、真に優しい人なのだろう。
「うん。本当に君は……優しすぎるよっ」
そういうと、セレナさんは僕の両手を掴み、ベッドへと倒した。
僕の上にまたがるセレナさんと僕は、さながら捕食者と被捕食者。
「えっセレナさん?」
「そんなんじゃ……アラト君怪我しちゃうよ、私みたいな大人に騙されて」
「いや、セレナさんは……」
数秒、ただ見つめあう。
僕を見つめる目は、どこかためらっているような、そんな雰囲気が伝わってくる。
「なっな~んて!冗談だよ!あはは…」
僕の手を放し、素早く離れる。
「え?そ、そうなんですか?」
冗談とはなんのことだろうか。
というか今何が起こったのかよくわからない。
「とりあえず、9時までには決めとくんだよ、じゃあねー!」
「は、はい」
さっきの時間が嘘みたいに、あわただしく出ていった。
(とりあえず、ご飯食べに行かないと)
お金の入った巾着袋を持ち、僕も追うように部屋を出た。
今話、読んでくれてありがとうございました!
もしよかった、面白いと思われたなら、過去話読んでくれたり、ご感想・ご指摘、評価やブックマークなどしてくれたら本当にうれしいです!
やっぱ目に見えて反応あるとマジでうれしいんですよ。
感想はほんとに適当でいいです、僕もそういうの下手だしっ
とりあえず、今回は中編的なとこもありますから、近いうち出すと思います!
じゃっ!




