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初依頼は身近なところに

前回はギルド内で終わりました!

じゃあ今話、よろしくお願いします!

「これ、僕が働いてるホテルです…」

 紙を見ながら言う。


 僕の働くホテルは結構大きいほうで、働いていて何か異変を感じることはなかった。

 何か見逃していたのか。

 見て見ぬふりをしていたのか。

 もしかして僕は、何かから逃げて他のスタッフに押し付けていたのか。


 そんなことが頭をめぐる。


 そんな問いの答えを聞く様に、目の前の受付嬢さんを見つめる。


「はあ……そうですか。じゃあ、違うのにしますか?」

 素っ気ない返事。


 確かに、僕以外にもできると思う。

 別の人に託すのも、一つの手だろう。


「いや、大丈夫です。やらせてください!」


 でも、これは僕がやらなければいけない気がする。

 これからも働くためにも。


「そうですか」


 僕から紙を取り、名前の記入欄にペンを当てて素早く動かす。


 書かれた文字は、僕への態度に反してすごくキレイ。


「はい、じゃあもう記入しましたから。今日の夜までに行ってください」

「ありがとうございます!」

「ああそうだ。あとこれ」


 そう言って、カウンターの下から取り出したのは、大きな銅の貨幣1枚。


「今回の討伐報酬と超過したものの買取あわせて大銅貨1枚です。超過分は半額になりますから、今後は気を付けてくださいね」

「はい、ありがとうございます!」


 大銅貨一枚じゃ、今日のお昼ご飯ぐらいにしかならない、言ってしまえばはした金。

 でも、そんな少額でもなぜか僕は、うれしかった。


 そんな気持ちをじっくりと味わった後、大銅貨と一緒にポケットにしまった僕は、現実に戻る。


 備え付けの時計を見ると、 12:50。

 まだまだ依頼の時間には早い。

 暇だ。


 ちょうどお昼時だし、もうお昼ご飯でもいいかもしれない。

 ギルド内で食事している冒険者もぼちぼちいるようだ。


「何食べよかな~」

 年齢的に居酒屋は使えないから、ギルド内で食べるのは難しいだろう。


「じゃああそこ行こっかな」

 そう呟きながら、ギルドを出ようとした矢先。


「アラトー!」


 受け付けの奥から試験を受けていた3人が出てきた。


「おまたせ」

「おまたせしてすみません」


 3人の顔を見ると、少し汗ばんでいる。

 やっぱり試験は実技だったのか。


「んん、全然待ってないよ。で、どうだったの?」

「ああ、俺はな……Ⅾランクだ!」

「私もⅮ」

「私は神官ですから、Ⅽランクです!」


 そう言いながら3人それぞれのカードにはそれぞれ Ⅾ、Ⅾ、Ⅽ と書かれている。


 何とも言えない気持ちだ。

 ずっと夢を追っていた僕が最低ランクで、3人はもうずっと上。


「なんで神官だけⅭまでなれるんだよ!ずるいぞ!」

「まあ、神官は希少ですからね」

 指をさしながら怒るガレドと得意げに胸を張るロゼル。

 なんだか、遠い人になったような感覚だ。


「…アラト、気にしなくていい」

 優しく僕の頭を撫でるルーナ。

 柔らかい手が、僕の頭を溶かすようで気持ちいい。


「うん、ありがとう」

「んっ」


 そして、しばらくして。


「ところでアラト、どこ行こうとしてたんだ?」

 いろいろ言い終わったガレドは、やっとこっちを向いて話してくれた。


「うん、丁度お昼だし、来た時くらいにお世話になった所で食べようかなって思ってさ」

「じゃあ俺も一緒に行くぜ!」

 カッと照るような笑顔。


「うんいいよ!」


 僕は、残りの2人の方を向く。


「2人はどうするの?」

「私も行きます!」

「行く」


 ウキウキとした顔の2人。


 僕も久しぶりに会った幼馴染だ。

 村を出た後の話とか、これからのこととか色々聞きたいことがあって、内心ワクワクしているのだ。


 そのせいか僕の足取りは軽く、スタスタとギルドの外へと出た。

 そして、向かう先はもう決まっている。



◇◇



 扉を開けるとカランカランと、爽やかで心地いい鈴の音が鳴り響く。

 ここは喫茶店キク、僕が働いていた喫茶店だ。


「いらっしゃいま───あらアラト君やん。いらっしゃい」

 ここの店長、キクさん(本当は菊らしいけど、周りに合わせて変えているらしい)。

 長くて奇麗な黒髪でスラッとして若々しい顔、身体。

 これでも40代ということが、どことなく感じる余裕から何となく察せられるような雰囲気。

 服装はこの街の誰とも違っていて、このお店の内装とすごくマッチしている。


「ええ、後の子ら、アラト君のお友達?」

「はい、今日久しぶりに会ったんです」


 後ろを見ると、3人は菊さんに向いている。


「あっアラトがお世話になりました!」

 大きな背を畳むようにお辞儀をするロゼル。


「こんなところで話さんと、とりあえず仲入って?あ、アラト君はわかっとると思うけど、靴はそこで脱いでな」

「はーい」「「「お邪魔します」」」



 そうして座敷に座った僕ら。

 前は常連のおじさん2人、後ろには家族らしい3人、そしてカウンターには厳格そうな男性。


 隣に座るのはガレド、向かいがルーナで左奥がロゼルだ。

 僕以外の3人は不思議そうにあたりをキョロキョロしている。

 なんだか少しむずがゆい。


「不思議な店ですね……」

「……」

「なんかいいなここ!」


 そしてガレドがメニュー表をパッと取って、まじまじと眺める。

 その間に僕たちは会話に花を咲かせていた。


「店長さんが着ていたもの、あれって確か浴衣?でしたっけ」

「なんかね僕も聞いたことあったんだけど、違うらしいよ。なんだっけな……」

「小袖~!」

 遠くから菊さんの声。

 結構こだわりというか、誇りがあるらしい。


「よし!俺は決まったぞ」

「んーよし、僕も」

「私はじゃあ……」


 ロゼルとルーナがデコを寄せながらメニュー表を見る。


「はい、決まりました」

「私も」


「すみませーん!」

 厨房に向かって呼びかける。


「はーい」

 小走りで走ってくる菊さん。

 カランカランとなる下駄の音が何とも心地いい。


「俺はカツ丼」

「私は生姜焼き定食とみたらし団子でお願いします」

「ナポリタン定食」

「僕はお肉たっぷりきんぴらごぼう定食とお雑煮で」


 僕たちの注文を小さく復唱しながら、伝票に書き進める。


「きんぴらと……はーいわかりました。じゃあちょっと待っとってなー。あ、あと、浴衣は寝間着やけんなっ」

「へぇ~」

 うんちくを披露するように言った後、厨房へと向かっていった。


「ところでよ、アラト村出てからどうしてたんだ?」

 不意に飛んできたガレドの質問。

 リラックスしていたからか、少し驚いてしまった。


「ん?これまで?んっとね……たしか一番最初はお金もないし野宿してたかなー」


 そう口にした瞬間、3人の表情が一気に固まった。

 急いで訂正する僕。


「あ、もちろん邪魔にならないように街の外でね!?」


 反応がイマイチ芳しくない。


「でも大体1週間くらいで菊さんが拾ってくれてさ、働きながら上のおうちで一緒に住ませてもらってたんだ。でもさすがにずっとは申し訳ないでしょ?だから2か月くらいで出て……」

 静かに耳を傾けてくれている。

 そんな態度に、僕の頭は誘われるように記憶をまさぐっていく。


「そしたらまた別の人が拾ってくれてさ、スナックバーのマスターの人なんだけど、とってもいい人で……別に比べるわけじゃないんだけどね?その人は住ませてくれもしたし、他の人と同じくらいのお金も渡してくれて……正直ちょっとさ、ダメになりそうになって出ていかせてもらったんだ。ここみたいに顔出せたらいいんだけど、バーだから出すにも出せなくってね」

 長く話過ぎてしまった。


 でも、皆は続きを求めるように聞いてくる。


「それで、今はどうしてるんですか?」

「今はホテルで従業員してるよ。そこも住ませてもらっててみんなも優しいし……ホントに僕、なんて言ったらいいのかわかんないけど、ほんとに感謝してて……」

「……アラト、無理してる?」

 心配するような細い声のルーナ。


「いや、大丈夫だよ!」

「それで、これからはどうするんだ?」

「えっと…今日は6時からさっき言ったホテルの依頼あったから、それ行くつもりだよ」


 これから、という質問の答えとしては多分あっていないと思う。

 しかし、何も考えてないなんて言ったら連れ戻されてしまうかもしれない。

 今は騙すような形になっても仕方ない、そう思うことにしよう。


「……なら、私も行く」

 静かにぽつりとつぶやいた。


「あ!ずるいぞ俺も!」

「わっ私もです!」


 競り合うように手を上げる。

 心の中で止められるんじゃないかと思っていた。

 だからか、起きている状況と心の中での予想のギャップに僕は呆気にとられる。


「え、いいの?」

「?何がダメなんだよ?」

 何を言っているのかわからないような顔のガレド。


「いやでも……」

「実際、依頼で一番大事なのは達成することです。そのためにも、たまには頼ってください」

「私たちは、全然嫌じゃない」

「んー」


 天井を見て考えていると、菊さんが料理を運んできてくれた。


「あらまあ作りながら話聞いとったけど、ちょっと心外やわあ…私はちゃんとお給金他の子と同じぐらい渡そうとしとったんやけどな?この子がもう申し訳ないですう!って引かんけん、しゃあないなあっていくらか引いてたんよお」

「え、そうなんですか?」

「そうよお?やけんねアラトくん?」

「はいっ……」


 お菊さんは僕へ視線をスッと向けると、その目と同じくらいまっすぐな言葉で僕へと投げかける。


「アラト君が他の子からの支えを大丈夫ですって断るのも、謙虚でいいと思うんよぉ。でもな、そういうのってやりすぎたら逆に失礼になるけん、アラト君にはそういう謙虚じゃなくてそういうのを受け入れるっていう方の謙虚さも必要やと思う。まあ、おばさんの戯言やけど」

 そう言って、優しそうに笑う。


「はい、ありがとうございます」

「まあわかってくれたらええんよ。私らも応援しとるけんな」


 多分、結構当たり前のことかもしれない。

 僕も頭のどこかではわかっていたし、言われなくてもある程度はわかる。

 でも、何か僕の心に深く刺さったような、今ここで考え方が少し変わったような気がした。



◇◇



「ここか?」

「うん」


 今僕たちは、僕が働くホテルの目の前にいる。


「結構大きいですねえ……」

「ホテルマンのアラト……」

 後ろから少し視線を感じるがきっと気のせい。


 扉を開け、中に入る。


 なんだろうか、少し異様だ。

 なんというか、張りつめているような、ひりついているような空気感。


「いらっしゃいま───ああアラト君」

「お疲れ様です。あの、ちょっと依頼で来たんですけど……」

「ん?ああ、あれか!アラト君が受けたんだね、とりあえず支配人中いるから」

「はい!」


 受付の横から入り、事務室へ。


 扉を開けると、神妙な顔で座り込む萎れた中年が1人


「失礼します、あの依頼で来たんですけど……」

「ああ、アラト君か」

「どうしたんですか?依頼なんて」

「あーちょっとね。実は今、ホテルが荒れてるんだ」


今話読んでくれてありがとうございます!

よかったら、ご感想・ご指摘、ブックマークや評価などがめついのはわかってますが、して下さったらマジでうれしいです!

目に見えて何かが増える、これほどの快感はないわけですな。


じゃあ次回もよろしくお願いします!(前編みたいな感じだしちょっと早めに出すかも)

じゃっ!

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