猫も歩けばどこにでも辿り着く
久しぶりかも!
「どこ!?どこに行ったの!?」
少女は、絢爛の廊下を走り回る。
それを追うタキシードの男たち。
焦燥、困惑。
それを感じるのは、男たちからだけではない。
「どうしたマリア?探し物か?」
「お父様!ミィがいないの!私のミィが!」
潤んだ瞳で幾分も大きい紳士を見つめる。
たじろぐ紳士。
「わかった。セバスチャン」
どこからともなく現れる老骨。
微かに白ばんだ髭からは、周囲とは一線を画す余裕が見て取れる。
「お呼びでしょうか」
「ミィの捜索をギルドに任せる。報酬は大銀貨6枚だ」
「旦那様、それでは見つかったとてミィ様の安全が保障されないかと。なにぶん野蛮な者たちですから」
「それなら、掲示板には張らず直接の依頼に限定する。信用に足る者のみ出す様伝えておけ」
「かしこまりました。今すぐ行ってまいります」
どこを見るでもない会話は、素早く終わりを告げる。
「お父様……ミィ帰ってくる?」
「ああ、必ずな」
男から発せられた言霊には、先ほどにはなかった温もりが確かに存在した。
◇◇◇
「着いた……」
もうすぐ7月か。
カンカン照りの太陽がこの地を照らし、街中の人々から何かを奪っていく。
無論、僕もきっと奪われているのだろう。
なんだかいつもより遠かった気がする。
そう、きっとこれも夏の仕業。僕たちから時間を奪っているのだ。
……いや、時間を奪っているなら早くなるのか。
まあどっちでもいいか。
だめだ、頭が回らない。
少しの熱気を放つ扉を開く。
少し錆びたドアノブ、軋むような音。
久しぶりのギルドだ。
なんだかすべてが懐かしい気分。
……まあ、言っても1か月と2週間ぐらいだけど。
「あれ?」
何かすごく涼しいような……
(悪寒?)
周りを見る。
「ったく暑くて敵わんぜ」
「今日の依頼、やめとくか」
「そうだな、ともかくもうちょい涼んでくか」
いかついモヒカン冒険者たちも。
「ねえ、最近できたアイス屋知ってる?」
「あー知ってる!今度行きましょ!」
「でもここから遠いのよね……めんどくさー」
「ったくなんでこんな暑いのかしら」
いつもチラチラ見てくる女性冒険者たちも。
気持ちよさそうな顔で、ずっと話している。
依頼の話かどっかの陰口しか耳に入らないこのギルド、いつになく世間話が聞こえてくる。
間違いない。
「冷房とか、あったんだ……」
たしか、渓谷の国・シュルフタルから来た技術なんだっけ。うちのホテルでも使ってるから、なんだか───
(時代だなあ……)
いや、そんなのどうでもいい。
今日は依頼を受けに来たんだ。
僕は掲示板へと足を進める。
今日は───すごく残ってるみたいだ。
ゴブリンにオーク……スライムも。
「あ、薬草……」
端から端まで隙間なく貼られている。
きっと、みんな暑くて嫌なんだろう。
「よしっじゃあ───」
薬草採取の紙に手を伸ばす。
(もしかしたら、今って穴場かも……)
しかし、遮るように横から手が伸びてきた。
それは僕の腕を掴み、下へと引き下ろす。
「アラト」
淡々とした口調で連ねられた僕の名前。
離さんといわんばかりに強く握りしめられた手。
「ルーナ……結構久しぶり、だっけ?」
「ん。会えて嬉しい」
「あはは僕も」
顔が陰で隠れてしまうほどの大きな帽子。
意匠の凝った杖。
少し上から僕を見つめるきれいなつり目。
合うのいつぶりだっけ。
2週間はいかないはずだけど……
「外暑いよね~~」
「ん。なら門の外はもっと暑い」
「えーそうかなぁ?」
これは暗に門の外に出るなって言ってるのかな。
なんでだろう。
「そう。日陰もないし、水分補給も難しい」
「た、たしかに」
変わらずまっすぐこっちを見つめている。
そうか。だからみんな依頼に行かないのか。
結構色々考えてるんだな……
「……出ちゃダメってこと?」
「そう。いいとしても、私がいないとダメ」
「そっか……」
はっきり言われた。
でも、確かにそういわれたら危ないか。
かといって、街中の依頼だなんてそんなのそうそうないと思うけど。
「でも、ずっと休んでばっかだったからさ。何かしたんだよね」
「なら、受付に聞いてみる?」
「……そうだね」
嫌な顔されそう……
受付の方に一瞥。
(?)
あのちょっとぼさっとした感じ……ギルドマスターだ。
紙を持って、何か困ったように頭を掻いている。
何があったんだろう。
まあ、トップなわけだし色々あるんだろうけど。
「どうしたんですか?」
そんな彼に、心配するように話しかけた。
もしかしたら依頼のものかもしれないし。
もしそうなら一石二鳥だ。
「うわっ!」
考え事をしてて周りに気づかなかったんだろう。
肩をしゃくりあげて、勢い良くこっちに振り向いた。
「あっごめんごめん!どうしたの?」
「そその、何か悩んでるみたいだったので、ちょっと気になって……すみません」
やっぱまだ人と話すの慣れないな……
色んなことしてきたはずなのにここまでできないのって、やっぱり才能ないんだろう。
「いや全然!そうだな……うん、君に任せようか」
「え?」
「これ、実はさっき来た依頼なんだけど───」
そう言いながらカウンターに置いたのは、1枚のきれいな紙。
「えっと……」
“依頼者名:ヨハン・ハンデルベルク”
依頼内容:猫の捜索
達成報酬:大銀貨6枚
ランク条件:不問
その他条件:前科のないもの。状態によって、報酬額の前後あり。
備考:白猫、青目、首輪にハンデルベルクの家紋
「ハンデルベルク……えっ!?」
当たり前に知ってるような大貴族、それも公爵の……
「見ての通り、この街の領主様から直々の依頼なんだ。この依頼用紙を渡してきた専属執事の人が“そっちで見極めて安全そうな人に渡すように”って」
「は、はあ……」
書かれた文字は、他のどの依頼の紙よりも達筆で、気品を感じる。
それにこの紙、滑らかで触り心地がとてもいい。
やっぱり貴族ってすごいんだな……
「お願い、できるかな?」
猫の捜索、大銀貨6枚もくれるんだ。
やりたいけど、もし見つからなかったら……
お世話になってるこの街の領主様に悲しい思いはさせたくないし、きっとまだこれを受けられるほど立派じゃない。
「アラト」
「ん?」
断ろうとする僕を遮って、まじまじと僕の目を見つめるルーナ。
「受けないの?」
「……だって、僕じゃ無理だよ」
「そ。なら───」
そういって、しなやかにカウンターの紙を奪うと───
「私がやる。だからアラトもついてきて」
「え?でも」
「私はネコ科。同類探しなんて余裕」
胸を張って、杖を突く。
カウンターへ向く。ギルドマスターは……
「俺からも頼むよ、アラト君」
両手を合わせ、頭の上に掲げる。
その姿にはどこか必死な様子も垣間見える。
「あの子、試験の時めちゃくちゃだったからさ、ストッパー欲しいんだよね……」
力なく肩が落ちるギルドマスター。
苦労してるんだな……
僕も、くよくよしてられない。
「わかりました。受けさせてください!」
勢いよく頭を下げる。
「そか、よかったー!これで一安心だよ」
そういって、胸をなでおろす。
顔には緊張の抜けた笑顔。
「あとの手続きはこっちでやっとくから、とりあえず猫の捜索よろしくね。あっそれと、これ───」
どこからともなく袋を取り出す。
口がしっかりと閉められて、何らかの魔法陣……が描いてあるみたいだ。
「知り合いの魔法使いからの貰いものなんだけど、保冷の魔法が掛けられた袋。そこに氷入れてあるから、暑くなったら使って」
「あ、ありがとうございます」
(つめたっ!)
持った瞬間。
手が凍ったかと思った。
「あっごめん逸れ入れるやつないよね。じゃあ、そうだな……これ───」
そういってまたどこかから取り出したのは……カバン。
小さめのポーチって言ったところか。
「マジックバッグ。余ってるからあげるよ」
「えっいいんですか!?」
マジックバッグといえば、かなりの高級品のはず。
周りの受付嬢さんたちが、うらやましそうにそれを見ている。
視線が痛い。
「実は何かのお礼って言ってでマジックバッグ渡されること多くてさ、家にかなり余ってるんだよね。だから貰っててよ」
「ありがとうございます……大事に使います!」
ホントに大事にしないと……
自然と周囲を見回してしまう。
誰も見ていない……なぜか心がほっとした。
「じゃあ、行ってきます」
「うん、任せたよ」
僕たちは、ギルドを後に───
「ごめん紙は返して!」
「あっはい」
僕たちは、紙を返してギルドを後にした。
読んでくれてありがとう!




