表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

19/19

ずっと一緒に居られるように

 左手の指先が全て真っ赤に染まっている。


「チッめんどくせえなこいつ」

 奥の方で、つまらない顔で舌打ち。


「もういい、そいつ殺せ」

 後ろを向いて、暗く見える階段に足をかける。


「はいっ」

 羽交い絞めを続ける男が返事をする。


 その瞬間───


 扉が鳴った。

 怒りのままこじ開けてしまうような。


 少しした後、ドアが曲がる。

 木を引きちぎるような音の後、強引に開けられた。


 入ってきたのは───


「ろ、ロゼル……」


 目に生気がない。

 そんな目で僕を見たと思ったら、大きく見開く。


「おーおーいらっしゃい」

 奥でゆっくりと拍手している。

 余裕そうに笑う顔。


「お前ら、丁重に出迎えてやれ」

「「「はい」」」


 ペンチで僕の指をつまんでいた男も、羽交い絞めしていた男も、周りで笑っていた男も。

 全員ロゼルへと向かっていく。


 一人目の拳がロゼルへと近づく。


 瞬間───その男が吹っ飛んだ。

 まるでノックをするかのように軽やかに殴ったように見えたのに。


 壁に激突し、同心円状にひびが入っている。


 次々と襲い掛かる男たち。

 しかし誰もが、赤子のように放られる。


 次第に勢いがなくなっていく。

 怖がっているのだ。近づかないよう、近づかないようにと立ち止まっている。


 しかし、ロゼルはゆっくりと、奥のボスと思える者の方へと近づいていく。

 道中、道草を勝手に踏んでしまうように屈強な男たちをあしらっている。


「貴方が、アラトを連れ去ったのですか」

 全員が床・壁に沈み、残されたのはその男のみだった。


「だったらどうすんだ?」

 ヘラヘラと振舞う。


「……」

「俺のアジト荒らしたこと、後悔しなが───」


 話す男の横顔に、ロゼルの足が食い込んだ。


 そのまま壁に頭ごとぶつかり、倒れ込む。


「て、てめ───」

 抑えた頬から血が滴っている。


 しかし、関係ないと言わんばかりに、足を進めるロゼル。


 どこも見ていない。

 何も気にしていないように。


「ふざけっ───」


 上に跨り、拳を交互にふるう。


 何度も、何度も。

 獣が何も考えず、目の前の肉を喰らうようにただただ殴り続ける。


 その度あがる血飛沫。

 ロゼルの神官を象徴する白い手袋は、赤く染まった中ですこし黒ずんでいる。


「て、てめえ、神官がこんなこと───」

「神は……あなたを許すかもしれない。いえ、許すでしょう。だから───」


 右手を大きく振りかぶって───


「私が裁きます」


 振り下ろそう、その瞬間。


「やめて!」


 僕の体は、咄嗟に動いていた。

 そのままロゼルに押し当たって取り押さえるように腕を回す。


 体はびくともしない。

 でも、その拳は止まった。


「アラト……なんでですか」

「……もう、いいよ。もうやめて」


 目からあふれる水、ロゼルの服を濡らす。

 そこは冷たいけれど、中から感じる体温がそれを上回っている。


「なんで……なんでなんでなんで!こいつが、こいつがアラトを!」

 徐々に声を荒げ、大きく叫ぶロゼル。


「もう、大丈夫だから」

「でも!……でもなんで、なんで!───」


「ずっと一緒に居たいからだよ!」

 詰まっている。

 震えている。

 その声だけで、今どんな顔をしているのかすぐにわかる。


 だから、僕は応えるように叫んだ。


「ずっと、ずっと一緒に居たいんだ!何にも気にせずに、3人で居たいから!だから……もうやめて……」

 喉が熱い。

 僕も鼻が詰まっているみたいだ。


 ロゼルの中から感じる体温が、上がっているのがわかる。


 見上げると、ロゼルは───


「バカ……ホントにあなたは、どこまでも……」


 同じ顔をしていた。

 落ちてくる水が、少し冷たい。


「ご飯、奢ってくれるんでしょ?」

「……はいっ行きましょう」



◇◇◇



 ノックの音。

 鎧が揺れる音が、扉越しに聞こえる。


「入れ」

「失礼します」


 入ってきたのは一人の兵士。


「何の用だ」

「実は、街の衛兵から連絡がありまして」


 衛兵、街中の警護か。

 私に入る程……何があったんだ。


「実は、ハンデルベルクの西区のマフィア、“ウェストウルフ”の“ファング”を中心とする、計30名が逮捕されたと」

「なに!?」


 ファング……幹部が捕まったのか。


 そうなれば……


「わかった。ハンデルベルクの警備を強めろ。報復が来るかもしれない」

「はっ!それと……」


 困ったような顔を浮かべている。

 左が気になるようだ。


「副隊長とご面会したいという方がいらっしゃいまして」

「構わん。通せ」


 そういった瞬間。


「失礼」


 扉から入ってきたのは、フードを被った男。


 ただ物じゃないのがすぐにわかる佇まい、顔の見えない深々としたフード。


 私の頭の中で、結びついていく。


「よお、顔を合わすのは初めてか?」

「お前は……」


 バレないよう、剣に手を伸ばす。


「おっと、戦うつもりはねえぜ。話し合い、話し合い」

「何の用だ。報復か」


 飄々とした姿。

 警戒している自分と思い比べると腹が立ってくる。


「いやいや、んなことしねえよ。牙が1本折れただけ、俺たちゃまだまだ健在だ。ただね、折れた奴とて人のもん盗るのはよくねえなあ」

「何が言いたい」


 そういうと、来賓用のソファに身を投げるように座り込む。


「そいつを返してほしくてな。なぁに、こっちで処分するだけだ。そっちも手間が省けて、ウィンウィンだと思うが?」


 まさか……信じろというのか。

 こいつの言葉を。


 顔に出ていたのか、立ち上がって机越しに立つ。


「もうすぐ王位継承も始まる、向こうのお国では不穏な実験もしてる。今お前がどうすべきか、わかるだろ?」


 威圧感。


(これが……“巨狼”!)


 今はこれしかないのか。


「わかった。ハンデルベルクの領主に話をつけておく」

「おう、ありがとな」


 後ろ姿で手を振り、そのまま扉を出ていった。


 困り顔の兵士。


「ファングを討伐したのは誰かわかるか?」

「はっ!詳細は不明ですが、証言によると、1人の冒険者によるものかと」

「!」


(ファングのアジトを単独で……)


 

「すまない。もう下がっていいぞ」

「はっ!失礼しました」


 扉が閉まる。

 包まれた静寂の中、深くため息をついた。


 机に置かれた書類、立てかけている護身の剣。


(不可解な地域に魔物が出たと思ったら、次はファングの撃退……何か始まるというのか)


 不安はよぎるが、仕方ない。


 私は再び、机に向き直った。


補足

ハンデルベルク:副首都。

中央の領主の公爵邸を中心に東西南北で区が分かれている。


東区

治安:ちょい良

多くの住民は、ここに家を構える。

上部にはビジネス街があり、多くの会社が建っている。


西区

治安:悪

上部の風俗街が時間帯によって賑わい、別区から来る人と言ったらこれくらい。


南区

治安:まちまち

一般が通過する門が構えられている。

全体が宿街と飲食街になっており、外から来る人のほとんどはここで過ごす。

ホテルや冒険者ギルドがあるのもここ。

東区から働きに来る人も多いので、東区と南区を繋ぐ馬車も行きかっている。


北区

治安:良

貴族や金持ちはここに家を構える。

また、北区の北壁にも門が構えられており、これは原則王侯貴族専用である。

一般人が北区へ行くことはほとんどない。






   

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ