結局、ハンバーガーが許してくれる。
後編です!
読んでない人は前回から読んでね!
今はおそらく、丁度11時ごろだろう。
街は少しずつ活気が出始めている。
「ちょっサラちゃん狭いよ!」
薄暗い路地裏から、半身越しにアラト君を見つめる。
狭い。
「仕方ないでしょ?」
「……」
これ絶対3人もいらない。
「というか、なんでこんな遠いの?」
ミカが私に向かって文句を垂れる。
アラト君がいるのは25m先。
「この距離が鉄則なの」
「あのアラト君でしょ?バレないって!」
「えー……」
まあ確かに、もっと近くてもいいのかも。
路地から飛び出し、静かに近づいていく。
「「「ササササ……」」」
たくさんの人、そして足音。
こんな中なら、勘づきもしないだろう。
「あっおーいアラトさーん!」
遠くで誰かが手を振っている。
アラト君も立ち止まった。
「「「シュバッ!」」」
近くの路地に身を潜める。
「ん?あっロガンさん!」
「いやいや、こんなとこでまた会えるとは!お久しぶりです!」
ロガン……何か聞き覚えがあるような……
「こちらこそ、お久しぶりです!何してたんですか?」
「ちょっと依頼の報告に。アラトさんも、何かご予定が?」
「(ねえ、ロガンってアラト君の知り合い?)」
会話の最中、ミカが囁き声で尋ねてきた。
「(んーわかんないけど、何か聞いたことあるような……)」「そうなんですよ、新しいバイトというか」
そう、絶対にどこかで聞いたんだ。
いつだったか……頭を探るけど一向に出ない。
「(あれじゃない?最近Aランクになった冒険者の)」「そうなんですか!じゃあ昼はご一緒できない感じですか?」
「(あっそれそれ!)」「(へー)」
そうだ。
その人だ。
凄いスッキリ。
……でも、サラはそういうのに疎いはずだ。
「(サラちゃんってそういうの詳しかったっけ?)」「ごめんなさい、ちょっと厳しいです……」
そう。
助かりはしたけれど、なんで知ってたんだろう。
しかもAランクって、業界では話題にはなるけど外の人が知ってるほどのものでもないはず。
「(いやね、この前何とかロガンって人のVIPの予約が入ってて)」
「(グロブね、岩砕きの)」
「(そうそうグロブ。で、部屋案内の担当になったからそれで)」
「「へー」」「そうですか。お忙しいところすみません!では!」
「さよならー!」
「あっ!」
話に夢中で、会話を聞けてなかった。
グロブという人の姿はすっかり消え失せている。
手を振るアラト君。
何と健気な……
「(会話聞きそびれた!)」
「(何かバイトとか言ってたけど……まあとりあえず後つけましょ!)」
「(アラト君……)」
私たちは、変わらず後をつける。
どこか決めたように迷いなく進んでいくアラト君。
そして次第に、比較的治安の悪い西区へと進んでいき……
◇◇
「ちょっこの辺って……」
風俗街へと踏み入れていった。
「紛れもない風俗街ねえ……アラト君15よね?15歳って入れるのかしら?」
「そんなわけないそんなわけないそんなわけない───」
「いやまあ、アラト君もそういう欲あってもいい年だしねえ」「そんなわけないそんなわけないそんなわけない」
周囲の建物は風俗店、仲介業者、そして数少ない飲食店。
そうだ。
「そうよ、アラト君はここにご飯を食べに来たのよ!」
「え、この辺高くておいしくないものばっかだけ───」
「は?何、まさかそういう目的で来たっていうの?いやいやないから」
「やばい!この人正気じゃない!」
「そして究極の童貞厨よ!なんて面倒くさい!」
「いったん冷静になろう!ね!?」
◇
「ふう……」
深呼吸。
燃え尽きる寸前の頭が、段々と緑を取り戻していく。
私は冷静。冷静になってきた。
アラト君は変わりなくどこかへ向かっている。
「んーでも風俗じゃないとしたら、なんでこんなとこに……」
「何かバイトとか言ってたから……ホストとか?」
「んなわけないでしょ。アラト君は、ちゃんとその辺の法律は守るいい子なの!」
「「はいはい」」
そんなことをしてると、見えてきたのは大きめの家みたいな建物。
豪邸とまではいかないけど、なかなかに大きい。
そして、そこで立ち止まったのだ。
急いで近くの隙間に隠れる。
「(うえっここの壁汚っ……)」
できるだけ触れないように、私たちにもたれ掛かるミカ。
「(狭いわよ)」「(ちょっそっち行って!)」
互いを壁に押し付け合う。
みんなが一度は触れてしまった。
その時───
「(あっちょっと見て!アラト君が!)」
ミカの指先には、アラト君が扉を鳴らす姿。
数刻後、いかつい男が現れた。
何か話してるみたいだけど……
「(聞こえる?)」
「(いや、ちょっとだけ……)」
耳を澄ませる。
「───で来たアラトで───」
「ああ───だから───だぞ」
途切れ途切れでしか聞こえない。
近づきたい。
近づきたいけど……絶対にバレる。
「───ですか!───ました!」
何やら頭を下げている。
すぐに扉は閉まって、男は中に消えていった。
「(終わったのかな)」
「(そうみたいね……なんだったのかしら)」
「(じゃあ私たちも帰りましょうか)」
この辺に居たくない。
シンプルに治安が悪いし、お腹が空いてきた。
「(帰り何か食べる?)」
「(あ、私ハンバーガー食べたい!)」
「(私も!)」
今日くらいダイエットだとか、肌に悪いとか一旦忘れて好きなだけ食べよう。
そう心に決めた瞬間───
「あれ、皆さん何してるんですか?」
目の前、アラト君。
「「「あっ」」」
「いやあ何も……」
ミカと目があった。
(サラ!)
目が合わない。
まずい、2人とも私に押し付けてきたんだ。
「あアラト君これは……」
「?」
何も思いつかない。
何か言わないと……
何か……
そうだ。
「あっあのねアラト君、西区って治安悪いのよ?知ってた?」
「え?そうなんですか?」
「そうなの!だから、こんなとこ1人で来ちゃいけません!」
注意して、うやむやにしてしまえ。
優しいこの子のことだ、言い返すとかズレてるとかそんなのは言いにくいだろう。
言ってることは本当だし。
「「(姑息~)」」
横から何か聞こえるけど無視無視。
「すみません……」
「よし、偉い偉い」
そういいながら、頭を撫でる。
最高。
「こういうとこは───」
「へぇい嬢ちゃん」
どこからともなく男が現れた。
そいつの腹に向かって、この日のストレスを込めた───
「ふんっ!」
頂肘。
「ごぶふっ!」
一転二転。
遠くの方へ吹っ飛んでいき、うずくまる。
耐え切れなかったのか、そのまま落ちたみたいだ。
「こういう奴が現れるから、見た目が怖そうな人か、強い人を連れておくこと!わかった?」
「は、はい……」
心配そうに向こうを見ている。
「あの」
「?」
「あの人、大丈夫なんですか?」
さっきの奴を指さして、不安げな顔をしている。
「ん、んーまあ大丈夫よ!そ、そんな事より、ここで何してたの?」
強引な話題ずらし。
まあ多分死んではないから、セーフ。
「実は最近、新しいバイト…みたいなの始めてて」
「へーどんなの?」
「冒険者クランの、事務のお手伝いです!」
ひとまず、この辺りのお店目当てじゃないんだ。
そして、振られたわけでもなさそうだ。
(よかったー!)
勝手に口角が上がる。
それはもう痛いくらいに。
「そうなんだ!なんで始めたの?」
「えと、僕って、すんごく弱くて……戦闘になったら何にもできないんです。だから、もしパーティーを組んだ時に、他のところで役に立てればなって思って……情けないですよね」
そう言いながら、笑顔を見せているアラト君。
その奥ですごく悩んでることくらい、すぐにわかる。
嗚呼、なんて、なんて健気なんだこの子は……
「全然、そんなことないよ!」
「え?」
「アラト君は、頑張って自分のできることを探して……逃げないで向き合ってるんだから!かっこいいよ!」
「そ、そうですかね……ありがとうございます」
恥ずかしそうに下を向く。
胸が締め付けられるような……そして同時に抱きしめて壊してしまいたい邪念が心を支配する。
だめだ、今は平静を装わないと。
「というか、それならなんで帰ってきたの?」
ミカが割り込んできた。
たしかに。
「実は、今日はもう大丈夫って言われてしまって」
「ふーん……じゃあこれから暇ってこと?」
「はい暇ですよ」
(あっ!)
きわめてナイス。
ナイスアシストだ。
「な、なら!ご飯、いけるよね!?」
「え?まあ大丈夫ですよ」
これは……OKってことか。
今日いけますよってことか。
(キター!!)
絶対に顔に出ている。
でもそんなことどうでもいい、今はこの感情を噛みしめたいんだ。
「あ、なら皆さんもどうですか?」
不穏な予感。
急いで二人を見つめる。
「んー私はー……」
「そうね……」
悪い顔。
頭によぎる不安。
こういう顔の時は───
「そうだねーお腹空いたしお邪魔しちゃおっかな!」
「私も。アラト君奢ってあげるわよ」
「え、いいんですか?!」
やりやがった。
まさかそこまでするなんて。
神はまだ、アラト君とのデートを許してくれないらしい。
しかも奢るっていう好感度上げの手法まで奪ってきた。
「セレナさん?どうしたんですか?」
まずい。
顔に出てたのか。
「あー大丈夫だよアラト君!」
「そうそう、今セレナは、悲しみに明け暮れてただけだもんねー?」
ニヤニヤと悪魔のように笑っている。
サラは肩を揺らして、手で口を隠している。
「?」
「まあいいよ。はいはい行きましょう!」
「おっ吹っ切れたみたいだねえ」
「その調子よセレナ」
「うるさいわ!」
そうして私たちは、ハンバーガー屋に向かったのだった。
◇◇◇
「……嫌い」
午後の業務も終わり、女子更衣室。
着替えと帰りの身支度をしながら、私は呟いた。
「もーごめんって!怒らないでよぉー!」
「抜け駆けされそうでちょっと嫉妬しちゃったのよ。ごめんね、セレナ?」
「はあ……」
今日ずっとこんな調子だったからか、ミカもサラもだいぶ反省してるみたいだ。
仕方ない。そろそろ許してあげるとしよう。
「じゃあ今度、パフェ奢って」
パフェ一つで。
「わかった奢ります!」
「私も奢ります!」
「よし!」
丁度良く、身支度も終わった。
と言っても、カバンに詰めただけだけど。
「というか、アラト君全然気づかないよね」
「「ねー」」
「……もう襲っちゃえば?」
ミカが凄いこと言いだした。
「そうね……アラト君Mっぽいし、意外といいんじゃない?」
「……もしそれで嫌われたらって考えたらさあ……」
考えたくもない未来。
「そんなの言いだしたら、何にも手出せないよ?」
ぐうの音も出ない正論。
嫌い。正論嫌い。
「ね。誰かに取られてからじゃ遅いわよ?」
「で、でも……」
「なんなら、私がいっちゃおっかなー!なんて!」
「は?」
「いや冗談だって……」
危うく友達をあやめてしまう所だった。
そんなことを言いながら更衣室を出る。
目の前にはアラト君。
何してるんだろう。
「アラト君?」
後ろから声をかけると、こんな時間というのに元気な顔で───
「あっセレナさん!お疲れ様です!」
「うんお疲れ。何してたの?」
「厨房をお借りして、シェフの方々に料理教えてもらってたんです!それで、支配人に食べてもらってたとこです」
「んー偉いねー!」
頭を掴んで、撫でくり回す。
顔があっち行ってはこっちに行き……
「もーやめてくださいよー!」
とは言っているが、内心嬉しいのが声に漏れてる。
「アハハごめんごめん。じゃあ私上がりだから、バイバイ!」
「はい!お疲れさまでした!」
しばらく、こんな関係が続いてしまいそう。
全く、いいのやら…悪いのやら。
異世界の風俗は、昼からもやってるのだーーー!!!
補足:4人は人手が足りなくて、支配人の土下座によってディナーだけシフトに入れられたのであった。




