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気づかないだけで、転がっている

今回もよろしく!

 今日は何の夢を見たんだろう。

 帰る前はその世界にいたはずなのに、目を覚ますと何も覚えていない。

 夢っていうのは、あの世界はほんとにあるんだろうか。


 寝ぼけ眼で虚ろな意識の時は、そんなことばっかり考えてしまう。


 左に転んでは右に転ぶ。

 外からは鳥の声。

 カーテンの下を通り抜ける朝の印。


 備え付けの時計。


「えっちょっ!」

 ゴキブリでもいたかのように飛び出て、昨日の倍の速さでパジャマから制服へ。

 歯磨き、いつもより歯茎の感触。

 吐いた水は少し赤い。


 踵を踏みながら履いて扉を開けると───


「やっほ、アラト君っ」

「おはよございますセレナさん!」


 後ろに手を組んで微笑んでいるセレナさん。


「もしかして、さっき起きた?」

「……バレました?」

「フフフ、だって今日寝癖すごいよ?」


 頭、くまなく触る。


「あっ……」


 跳ねが1,2,3。こんなの従業員失格もいい所だ。


「す、すみません……」

「あはは!大丈夫だよ。今日のシフト、部屋の準備だけだし。まあとりあえず、行こっか」

「はい」


 やっぱりセレナさんは優しいんだ。

 それに甘えないよう、しっかりしなければ。

 これからもホテルマンとして働くためには、見られてなくともそういう気持ちが大事なのだ、多分。


11階から1階のエレベーター。

 2階を通過し、上へと向かう。


「あ、そういえば」

 思いついたかのように声を出した。


「もう怪我、大丈夫なの?」

「はい!おかげさまですっかり元気です!」


 そう、ベルゼさんが帰った後───


───「あの、退院ってどのくらいかかるんですか?」

 鎮痛剤を持った先生に尋ねた時。

 眼鏡の奥の鋭い目つき、整った顔立ち。

 プレッシャーというか、雰囲気というか……


 少しの唸りとため息が混じったような声。

 間をおいて、淡々と話しだす。


「何せ肋骨全部言ってますから、早くて4カ月とかですね」

「よ、よん!?」

()()()、ですからね?ほんとのこと言ったら半年はかかりますよ。まあ、教会の施しを受けれたらまた別の話ですけど」

「ですよね……ん?教会?」


───「でも1か月って、よくそんな早く退院できたね!」

 感嘆混じりの声と顔。


「実は知り合いに神官の子がいて、手伝ってもらったおかげなんです」

「へー……もしかして、早く私に会いたくて無理したのかなぁ?んん?」


 いたずらめいた表情。


「はい、早く一緒にお仕事したいなって思ってました」

「そ、そっか……」


 ドアが開く。

 丁度来たみたいだ。


 1階のボタンを押し、動き出す。

 とても静か。


 きっと、いつも優しくしてくれるから静かでも落ち着いてられるんだろう。


 開く。

 従業員の人たちが楽しく談笑している。


「あ、セレナちゃんとアラト君おっはー!」


 こっちに気づいて、大きく手を振っている。


「おはー!」「おはようございます!」


「あ!アラト君寝癖ついてるよ?」

「実はちょっと寝坊しそうになって……」

「アハハめずらしー!退院したてなんだから無理しないようにねー!」

「ありがとうございます」


 いつものことだけど、この人は距離感がとても近い。

 これを都会では、陽キャとかギャルとかって言うんだっけ。

 この言葉が失礼でありませんように……


「ていうか、セレナとアラト君っていつも仲いいわよね」

 もう一方が口から零すように言った。


「そそんなこと……まあ教育係だからかな!」

 なんだろう、セレナさんが焦っている。

 なんだか珍しいような。


「でもその期間とっくに終わってるよー?」

「な名残ってやつ!あ、アラト君先に行ってて」


 急かされてしまった。

 いや、ここからは女性だけで会話のお花を咲かせたいんだろう。

 僕がいては無粋・邪魔という物なんだ。


「はい!今日もよろしくお願いします!」

「「「はーい」」」


 そうして、僕は受付に向かうのだった。





 7階、一般客最後の部屋のベッドメイキングを終えた。

時間を見ると10:30。

 いつもより早く済んでしまった。

 もしかして僕も、成長しだしたのかもしれない。


 下からは工事の音。

 たしか、移民の受け入れを廃止したからそこを医療機関にしようとしているんだっけ。


 突然。

 真っ暗。


 目の周りに手の感触。

 そして温もり。


「だーれだ」

 この声は、というかこういうことするのは───


「もーわかりますよ!」

「えー名前言ってくれないとなあー」

「セレナさんでしょ!」


 視界が戻る。

 でも、何かちょっとだけ寂しい。

 ちょっと……多分ちょっと。


「アラト君、お仕事早くなったね!」

「ほ、ほんとですか?へへへ……」


 なんだか照れ臭いな。


「うんホントホント!確認もしたんだけど、入ってきた時よりずっと奇麗にできてたし」

「そ、そういってくれると嬉しいです。これからも頑張ります!」

「うん、無理しないようにね!」


 しかし、こうも時間が余ってしまうとは……これから何をしよう。

 昼からはベルゼさんのところに行くのは決まっているから、それまでの暇つぶしになるんだけど……


「あ、あのさアラト君」

 いつになく歯切れの悪そうに話しだすセレナさん。


「なんですか?」

「今日…さ、もうやることなくて、私もすることないから…さ」

「?」


「よかったら、お昼一緒にどうかなって……」

「お昼……ですか」


 これはあれというやつなのか。


「そう、お昼……どうかな?」


 退院祝い的なやつなのか。

 いや、これは別に病気とかじゃない。

 自分で怪我したようなもの、そこまでお世話になるわけにもいかないだろう。


 それに、お昼からはベルゼさんのところに行かなくちゃいけない。まあいけないってほどでもないけれど……

 こういう飲み食いは、早めに切り上げることほど冷める者はないって、どこかの誰かも言っていたような気もするし───


「その、僕お昼から用事あって」

「えっ」

「じゃあすみません、失礼します。お疲れ様でした!」



───「お、お疲れ……」


(え?振られ……え?)


 背中がどんどん遠くなる。

 近くでも、私より小さい背中。

 すっかり見えなくなって……


「え?」



 気がついた時には、受付の裏の部屋で座って───


「あああああぁぁぁ!!!」


 うつ伏せ。

 机が濡れている。

 鼻が詰まって、上手く息ができない。


「どどうしたのセレナちゃん!?」

 いつもあんなに明るいお調子者のミカも、今は泣きじゃくる私の背中をさすって慰めている。


「もーホントにどうしちゃったの?」

 心配そうなサラ。


「うっうぐっあああぁぁ!!」

 もう嫌だ、2人にも心配かけてしまうなんて。


「あーどうしようサラちゃん!」

「とりあえず事情聞くしかないわよ。何あったのセレナ?話してくれないとわかんないわよ?」


◇私は起きたことを全部話した◇


「なるほどねえ……」

「簡単に言ったら、セレナがアラト君に振られたってこと?」


 振られた……


「あーもうそんなこと言ったら───」


「うわああぁあぁっぐっ!!」


「ほらー!サラちゃん謝って?」

「ご、ごめんねセレナー」

 申し訳なさそうな、というか扱いにくそうな顔。


「いけるとっ思ったのっにっ……ぐっ」

「はーいセレナちゃん深呼吸してー」

 看護師みたいに私を宥める。


 落ち着かないと、とりあえず落ち着かないと……


「すー……ふぅー……っぐっ」

「よし、一旦落ち着いた?」

「うん」


 目の下が少し痛い。

 何回も擦ったせいか。


 2人は、振ら───断られた原因について話し合う。


「んーなんで“断られた”んだろ」

「まあ断り文句の感じ、ホントに用事あったとか?」

「あーね、セレナちゃんどんな感じで断られたの?」


 一斉にこっちを向く。


「なんていうか……“ええと、その…”みたいなちょっと申し訳なさそうなというか……」

「「あー」」


 2人は顔を合わせ───


「これは……」

「ホントに振られた……?」


 汗を流す。


 込みあがる。

 込みあがる。


「うっ」

「「あー!」」

「まだわかんない!まだわかんないから!ね!?」

「そうそう!」


 引っ込んだ。


「じゃあ、振られたと“仮定”して、その断る理由だよねー」

「まあ1つは普通に用事があったってやつね」


 真剣な議論。

 どこかの会議室のような。


「これが一番なんだけどねー。まあこれはいったん保留として」

「次は……別に好きな人がいるとか?」


 最悪のやつだ。


「それが一番怖いねー」

「んーまあアラト君ならワンチャンもう付き合って───」


 再びこっちを向く。


 脳裏に浮かぶ、アラト君とその人のロマンス。


───「アハハハ!」「フフフ」

 夕焼けの波打ち際……


「僕と、結婚してください!」

「はい、喜んで……!」

 夜景の見えるレストラン……


「あっ今蹴った!」

「フフフ、きっと貴方似の可愛らしい子よ」

 2階建ての一軒家……


───アラト君が、

 幸せな家庭……

 結婚……

 私以外の人と……


「あああああぁぁぁ!!!」


「あ!セレナちゃんが脳破壊された!」

「落ち着いてー!妄想よー!」


 そうだ、まだ起きてないんだ。


「ふう……」


 危なかった。私が私でなくなってしまうところだった。


 2人は落ち着いた私を見送ってため息。

 話を続け出した。


「んーでもどうやって確認するの?」

「そうねえ……無難にストーキングとか?」

「いや全然無難じゃないでしょ!」

「でもこれくらいしかないわよ。本人に聞くったってホントかどうかわかんないでしょ?」

「たしかに……よしっ!」

 勢いよく立ち上がるミカ。


「そうと決まったら、早速尾行しましょう!」

「おー!」「ええちょっ!?」


今回もありがとう!

続きはすぐ出します!

明日とか!

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