僕に足りなかったのは、一歩踏み出す勇気だった
続き!
よろしくお願いします!
たしかに、足音が微かに……
まるで子供たちが裸足ではしゃいでるような。
「フレム氏は道の出口に足止めのトラップを、レン氏は魔物の種類と数の把握を。それが済み次第、後方へ下がるように!」
「「OKですぞ!」」
これがチームワークか。
熟練者はこうやって……いや、感心してる場合じゃない。
フレムさんは杖を、レンさんは短剣を構えて───
「《誘いの沼地》!」「《知性の直感》!」
「ゴブリン4にホブが2、半数が武器を持ってる!っと拙者は一旦下がります」
「某も仕掛けましたゆえ下がらせてもらいますよ」
足音、耳を澄まさなくても頭に入ってくる。
姿が見えてきた。緑の二足、しかしどう見ても人間ではない。
口で息を切らしながら走っている。
「何か焦ってる……?」
ガーネさんが漏らすように言った。
「グフフ、だがこちらには近づけませんぞ」
こっちに顔を向けながらもどこも見ていないようだったゴブリンたちは、驚いたように視線をずらす。
足、沈んでいく足の方へと。
「リーダー頼みます」
「もちろん。苦しまないよう一撃で送ってあげますからな」
大きく構え、吸う。
「《風の刃》ッ!」
横薙ぎ。
共に飛んだ斬撃が、道に切れ込みを入れながらゴブリンたちの首を切り飛ばした。
凄い……これでもまだ、Cランクなんだ。
もっと上の人たちは───そう想像した瞬間、鳥肌のようなものが立った気がした。
「いやー相変わらずすごいですなリーダー」
「俺らの要らなかったんじゃないですかグフフフ」
「フフフ、まあそんな事よりゴブリンの素材回収しますぞ。アラト氏、荷物から剥ぎ取り用のナイフとポーションを3つずつ出してくだされ」
「はーい!」
そう言って、僕らは横たわるゴブリンたちに近づく。
一歩二歩、目の前の敵を倒せたから気が緩んでいた。
その隙を突くかのように───
「っ!」「揺れ!?」「な何これ!?」
小石が零れ落ちる。
それほどの揺れ、僕の頭は真っ白になる。
ただただ立ち尽くす。
不意に、後ろから気配がした。
「っ!皆の者、奥に行ってくだされ!」
ガーネさんの怒号。
僕らはそれに従って、急いでそのまま奥へと進む。
轟音。
振り返ると、来た道が大きな岩で完全に防がれていた。
「あ、ああ……」
白色だった頭が、徐々に今を理解していく。
そうだ。
ここから助かる道なんて───
「……これは、まずいことになりましたなあ」
「んーどうしたものか。このままじゃ酸欠か」
冷静な2人。
いや、2人だけじゃない。
「とりあえず、奥へ進みますぞ。もしかすると出口があるやも」
「な、なんで皆さんそんなに冷静なんですか?」
「「「え?」」」
まるで、考えもしてなかったような、呆気にとられた声。
「それはまあ……」
「慣れ?ではないですかな?うん」
「まあ絶望したって仕方ないですしな。さあ、行きますぞ」
(こ、これが……冒険者……)
この人たちは、ずっと命懸けなんだ。
どんな時でも生きるために考えて、行動する。
それが冒険者……
(な、なら僕も!)
「そ、そうですね!」
一歩踏み出す。
もう一歩、もう一歩。
進めばきっと、何かあるはずだ。
そうして、変わらず足を進める3人の後ろに着いていった。
◇◇◇
ずっと同じ景色。
どのくらい進んだかもわからないくらい歩いた。
このままずっと続くのか、そう思っていたけど───
「おー」
「随分と開けた場所ですな」
まるで講演会場のような広さに、ゴツゴツとした岩が壁を彩る拙いドーム型、そしてまた奥に続く道。来た道よりは大きそう。
ダンジョンとはいえ洞窟なのに、こんな広い空間があるなんて……
「広いですね……」
「そうですな、洞窟型でこういう場所は珍しいですな」
やっぱり、冒険者からしても変なんだ。
広さだけじゃない。
匂い。
さっきまで、何かが住んでたかのような獣臭。
そしてこの床の赤い跡。
なんだか嫌な予感がする。
「気を緩めませぬようにな!」
「「もちろんですぞ」」「はい!」
短剣を強く握りしめる。
緊張感、少しの恐怖。
それが僕の汗を誘って、目の横を通り過ぎる。
「シュルルル……」
這いずるようであり、岩同士が削りあうようでもある音。
他三人も、一気に表情が変わる。
それは、ゆっくりと奥から姿を現した。
「あ、あれは!」
「シャアァ……」
人がすっぽりと収まる程の大きさ、先まで見えない程長い図体、そしてまるで岩に包まれたような鱗。
それが口を開いて───
「ヘビーゴーレム!」
「避けろ!」
岩、否、舌。
とっさに右に飛ぶ。
肋骨が地面とぶつかり、鈍い痛みが走る。
必死に頭を回す。
どうしたら生き残れるか、なにも浮かばない。
こんなやつに、勝ち目なんか……
「《岩の槍》!」
フレムさんから、岩の槍が飛ぶ。
命中、表面が微かに削れた。
しかし、僕でもわかる程焼け石に水。
「どうしますリーダー!」
「どうにかして逃げましょうぞ!!」
蛇、僕ら4人を見定めるようにじろじろ見ている。
目が止まった。
ガーネさんだ。
飛び掛かる。大きく口を開けて。
「ガーネさん!」
「《岩の廻旋》!」
岩、回りながら飛んでいく。
今にガーネさんを食べようとする大蛇の目めがけて。
「ギィィアアァァ!!」
耳鳴りのような悲鳴。
血をまき散らしながらのた打ち回っている。
逃げるなら───
「今です!逃げますぞ!」
全員が、叫び続ける大蛇に背を向けて来た道へと戻ろうとする。
僕も、と目を背けようと周ろうとした時───
僕の横目に、ギロリとこっちを睨むのが見えた。
肝を抜かれた感覚。
すぐさま振り向いたころには───
「「ッ!!」」
目の前には、大きな先の見えない暗闇と、何年もの月日を重ねてできた巨大な鍾乳石のような4本の牙。
「アラト氏!」
目の焦点が合わない。
(あ、もう、ここで───)
そう思った瞬間。
脇腹に強い感触。
視界が揺れた。
右を見る。
右手を突き出し、こっちを見ているガーネさん。
笑っている。
満足そうに。
「ガーネさ───」
言い終わるのを遮るように、ヘビーゴーレムの口が勢いよく閉じる。
残ったのは、宙に舞う右脚だけだった。
……




