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プロローグ

頬に伝わるひんやりとした感触。

体が頭からつま先まで冷えて、床と一緒に溶けていくみたいだった。

「私、もう死ぬのかな?」なんて、どこか他人事みたいに考えていた。


私の人生っていったい何だったんだろう。

何も成し遂げられてないな。

気づいたら石畳の上で死んじゃう人生なんて。


苔の滑ついた感触が頭に響く。

おなかと背中がくっつくくらい。一週間水もろくに口にしていない。

誰も通りかからない路地裏。

……もう、無理じゃない?死んだほうがましかも。

なんて思っていたら。


「……おい、あそこだ!あの子だ!あの子から強力な魔力を感じる!」


……うるさいな、寝るところなんだけど。

ドタバタと、大柄な男が三人、私の目の前に駆け寄ってきた。

……こんな死にそうな子供を狙うなんて、変態か?やばすぎるだろ、こいつら。

私はわずかにしかあかない目で精いっぱい目の前の男たちをにらみつけた。


「おい、お嬢さん、意識はあるか?水は飲めるか?」


声をかけられた。私は弱弱しく頭を横に振った。


「すこし触るぞ……ほら、これでどうだ?」


体を急に起こされ、頭に鈍痛が響いた。だが、口元にあてがわれた水に本能が逆らえず、こくこくと飲み込んでいった。


「いいぞ、その調子だ」


久々の潤いにのどがうれしがっているのがわかる。私はわずかな力を振り絞って男たちに問うた。


「あ、の、な、んで、」

「ああ、俺たちは魔法学院の者でね。魔力探知機がすごい反応を示したものだから、ここら辺に能力者がいないか探してたんだよ。君、名前は?」

「マ、リァ」

「マリアちゃんね。今から君を学院で保護させてもらう、いいね?」


正確にはマリァなのだが、まあいいだろう。魔法学院の話は、少し聞いたことがある。なんでも貴族様も行くようなすごい学院だそうだ。そんなところが、ここより粗悪なわけがない。神様に感謝して、私はまた弱く首を縦に動かした。


「またすこし触るよ、失礼」


そういって、今度は抱きかかえられた。……こんなに丁重に扱われたことはないから、なんだかむずかゆい。

すると、なんだか大きい羽根がついた馬車のような乗り物の前にたどり着いた。


「今からこれに乗って学院まで向かうよ。中にはパンやスープもあるからね。」

一ヶ月ぶりに食べ物らしいものを口にする。あまりの豪華さに、これは夢かと疑う。

だが、椅子に座らせられた時に確実に触れた感触が現実だと知らしめていた。

私は生まれて初めて、神様の存在を本気で疑った。







「見えてきた、あれが学院だよ。」


五時間ほど経った頃、そう声をかけられて窓の外を見た。そこには貧民街が何個あっても足りないくらいの大きな建物。


「……え、え、うそ。あれがいっこのたてものなの???」

「ああ、そうさ。俺も初めて来たときはびっくりして腰抜けちゃったよ。」


本当に腰が抜けるくらい大きい建物だ。私はこれからあんな所に住むのか。

今までの暮らしからは想像できないこれからに胸を躍らせる。


「ゆめみたい……」


そんな発言に男は少し申し訳なさそうに笑った。

私は、その時まだ、あの笑顔の意味を理解できなかった。


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