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お銀の過去 本編2

翌日。




朝食をしっかりとったのち、親子で狩りに出かける。


大物取るぞー!と意気込む娘にくすくす笑う母。

そしてご機嫌に歌う娘。


コロがお銀から発される不協和音に伏せって耳を押さえている。




鬼母

「ううん…お銀は相変わらず歌が…うん」




下手と言われたことに気づいたのか、膨れるお銀によしよし。と頭を撫でて宥め、さあ探すよ!と誤魔化すように森に入ってしばらく探していると、思いもよらぬものと遭遇した。


それはそれは美しい銀狐であった。

あれを捕まえれば高く売れる!とすぐさま指示を出す。




鬼母

「コロ!追え!あの一匹で着物が何着も買えるよ!」




その言葉にウォン!と吠えてコロが全速力で走るとあっという間に追いついて狐の首をひと咬みで骨を折った。でかした!と駆け寄る母とちょっと可哀想だなと思うお銀。




お銀

「狐さん、ごめんね」




そう呟いて、まだ温もりの残る綺麗な毛をそっと撫でる。




お銀

「すぐ死んだ?」




そのはずだとコロの返答にそっかあ。とほっとして拝み、コロを褒めるとえへえへと嬉しそう。




鬼母

「これで今年はお節も作れそうだ」




良かった良かったと狐を丁寧に弔い、猪たちの毛皮を一旦取りに戻って持って準備し、鬼の里に向かおうと山を下った。



風に乗って嫌な臭いがしてきた。



見ると麓の鬼の里から火の手が上がっていた。



火事かと思ったが違った。

人間達に攻め込まれているのだ。


ぱからっぱからっと蹄の音が聞こえてきた。

こちらにも向かって来ている。


何かを察した母があたりを見回すと、大木の根元にウ口があるのを見つけ、娘をそこに押し込み、木の枝を折って隠した。




鬼母

「いいかい?出てくるんじゃないよ。すぐ終わらせるからね」




静かにして隠れてるんだよ。と不安そうに顔を出すお銀の頬を優しく撫で、ほら、引っ込むんだよ。ともう一度押し込んで隠し、ナタを握りしめてコロと共にその場を離れて囮になった。


現れた馬の背には鎧武者が乗っており、指示を出すと、後ろから歩兵が咆哮して向かってきた。


母がコロをけしかけた。

喰らいつかれ、引き裂かれた歩兵の悲鳴が上がる。




鬼狩り

「ここにも鬼がいたぞー!」




ぶぉー、ぶぉー、と歩兵の一人が法螺貝を吹いて仲間をさらに呼び寄せる。


その男をナタで一刀両断し、襲いくる兵士達を薙ぎ倒していった。


だが虫のように湧いて出る人間にちょっと押され始め、ツノで貫いたり、ナタで武器を叩き落としたりしつつ必死に交戦する母の怒りの声が響いた。




お銀

「かあちゃん…」




その声に不安になったのか、ボロボロの着物の裾を掴んで、隙間から恐ると覗くと、あちこち血まみれになった母の姿があった。


息を呑んだ。


そして無慈悲な号令がかかった。




武士

「近接戦は危険じゃ!矢を射掛けろ!!!」




その命に応えた弓兵達が前に出て弓引く。

大量の矢が雨のように降り注いだ。


鬼にとってこの程度ならなんてこと無いのだが、流石に多すぎて何本か刺さってしまう。

コロは矢が届く前にもう弓兵達の首をはねていた。

息を荒げ、矢を引き抜いて構え直した。




鬼母

(倒しても倒してもどんどん来やがる..)




このままでは娘が…と不安が蝕み始めたその時、くらっと目眩がした。


気のせいかと数歩進んだ。

しかし次第に体が痺れはじめ、足元がおぼつかなくなり、木に寄りかかった。




武士

「毒が効いてきたな!お前たち、首を刎ねて止めを刺すのだ!」




毒だと…!?と呻き声を漏らすと、コロが心配そうに駆け寄って来た。




鬼母

「コロ...」




か細くなった声で呼ばれて鼻を鳴らして舐める。




鬼母

「娘を連れて逃げておくれ、…早く...!」




その言葉に、これが最期になりそうだと感じてぴすぴすと鼻を鳴らしてウロウロするコロ。


兵士たちが鬼母を囲んで刀を構えた。




兵士

「おっ、この鬼、銀狐を持ってやがる」




高く売れそうだ。殺したら貰っちまおう。と下卑た笑いを浮かべ、刀を振り上げた。


その瞬間、母が最後の力を振り絞って立ち上がるとナタを振り下ろし、兵士を一瞬で真っ二つに切り裂いて、さらに回転するように振り抜いた。



阿鼻叫喚。



兵士たちの悲鳴と怒声が響く。




鬼母

「行けえええええええっ!!!!!!!」




母のその必死さのこもる声にコロはびくりと首をすくめて踵を返し、お銀が隠された元へ駆けつけると目眩しに被せた枝葉を掘ってどかし、着物を咥えて引きずり出した。





兵士

「鬼のガキがいたのか!」


武士

「殺せ!逃すな!」


兵士

「ちょっとまっとくれ!!あれは人の子じゃ…!!」





一人の兵士が何か言って止めようとしたが他の兵士たちは聞かず、コロたちを追ってきた。

その兵士たちの眼前に、母が立ち塞がった。


走っていたコロが振り返ると、母の身に何本もの槍が突き立てられているのが見えた。


絶叫し、手を必死に伸ばすお銀。






お銀

「かあちゃーーーーん!!!いやだぁーーー!!いやだ、かあちゃんっ!!いやだよお!!!コロ!!かあちゃんをたすけてえ!!!!!!」






泣き叫んでコロの顔を何度も叩き、手を伸ばすが、どうにもならない。


母が一瞬こちらを向き、微笑んだ。






(元気で生きておくれ)





(お前は強い子だから、大丈夫だよ、コロがいる)




(あたしのところに来てくれてありがとうねえ、お銀)




(あんたのかあちゃんになれて、とてもとても幸せだったよ)







(さよなら、あたしのかわいいお銀…)







母の伝えたい想いが伝わったのか、より涙が溢れ出した。

そして必死の抵抗も虚しく、ついに母が膝をつく。



兵士たちに抵抗されないよう腕に槍を突き立て取り押さえられ、将軍と呼ばれる一際立派な体格をした豪奢な鎧を着ている武者がその前に立ち、大きな斧を横一閃に振るった。



母の首が高く飛んだ。



頭を失った胴体から勢いよく血飛沫が上がり、そのまま崩れ落ちていく。





お銀は目をあらんばかりに見開き、顔を歪めた。


コロの眼窩から血の色をした涙が一筋流れ、ぱきぴき、ぱき、と音を立てて骨頭のひたいから2本のツノが伸び、尾に鱗を帯び始めた。


あまりの怒り、悲しみがコロの体を変貌させたのであろう。

暫しの間、息を荒げ、次第に口を大きく開けて絶叫するお銀。





お銀

「うわぁぁぁぁああああああっ!!あああっ!!

ああああああ!!!ああ…あーーーーー!!!!」





許さない!!!人間め!!!許さない!!!


わぁぁぁあ!!!!と泣き叫び、大きな斧を持った鎧武者とその周りにいる兵士たちを睨みつけた。






お銀

「大っきくなったら殺しに行ってやる!!!待ってろ!!!子々孫々まで殺し続けてやる!!!お前ら許さないからなあ!!ああああ!!!ゆるさねえからなぁぁあ!!!!!」






そんな恨み言など意にも介していないのか、武士が何か指示をすると同時に予備らしき弓兵が弓を引いた。



矢の雨が再び振る。



さすがのコロも庇いながら走るには限界があったのか、何本か喰らい、何度か転がってしまった。その時投げ出され、うめいて起きあがろうとするお銀の小さな体に一本の矢が突き立てられた。


コロが悲痛な声をあげて起き上がり、再びお銀をくわえて走り出す。

兵たちの追走から逃れるのに必死で、無我夢中に走っていたら地面が消えた。



崖。



お銀たちは空に投げ出された。


落ちながらひゅうん、と逆巻く風に包まれ、コロの大きな前足で抱き抱えられたお銀は痛みと痺れ、そして憎悪と悲哀を抱きながら意識を飛ばした。



意識が闇に溶ける直前に見た星空は虚しいほどに美しく、一つの星が悲しそうにきらりと瞬いた気がした。












───幕間───





案の定ボロ泣きの仁。

手拭いで涙を拭う。


大牙もお座りして神妙な顔をしていた。

弥勒と小百合も耳をぺそっと伏せ、潤んだ目でお銀を見つめている。


コロが伏せってふす…と小さな鼻息を漏らす。

母の死に様を思い出したのだろう。どこか悲哀漂う雰囲気だった。




お銀

「私がかの坂田金虎と縁を持ったのは、その時からです」




茶を啜り、喉を潤す。




お銀

「本当につらかった。本当に憎かった。奴らが奪ったものはとても大きすぎた。私たちの大切な母は、……あんなふうに殺されていい人ではなかった…」




愛情たっぷりで、いつも私を一番に考えてくれて…と俯くと、コロが顔をあげ、すりつく。

コハクがクロの下から抜け出したのか、鼻を鳴らしてお銀の膝に前足をのせた。


ふわふわの頬を撫でると、抱き寄せた。




「…それで…。おぎんぢゃんは、どうなっだんでぇ…?」




ひっぐ、ずびびぃ、ずびぃん!

鼻を啜る仁にきったねえ。って顔のクロ。




お銀

「今こうして生きてるのは、奴らとは違う人間に拾われたおかげです」




そして、その人は───。


仁の顔を見やる。




お銀

「あなたの顔によく似ていました」




俺の?と瞠目する彼に、ゆっくりと頷いた。




お銀

「彼の名は、九鬼左馬刻くき さまとき



赤毛の、とても優しい方でした。


そう語るお銀の口調はどこか優しさとそして愛おしさが含まれていて、複雑な面持ちに切り替わる仁だが、その先に続けられた話に再び手拭いを濡らすことになった。



クロがそっと仁から距離をとっている。











    












    





















   

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