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お銀の過去 始まり

それからひと月が経った。


仁達ははお銀の隠れ暮らす立派な屋敷に住みこむことになり、掃除など家事をこなしてくれていた。



お銀

「あちこちが輝いている…」



なんと仁は掃除が大好きらしく、いい顔で天井や壁、小物までも磨いていた。しかも壁の穴やら何やらまで自分で見事に塞いでいる。



「こうしてると気持ちいいだろ、なんか」



お銀

「すごいですね…自分でもここまではできないですよ」



それどころか自分たちの暮らすスペースのみしか掃除していなかった。

埃かぶってたもんなあ。と頷くたぬき達。


仁が思い出したようにお銀を見やり、小物を仕舞い込むと向き合う。



「ところで、いつになったらお銀ちゃんは俺たちに顔を見せてくれるんだろうか?お銀ちゃんは坂田金虎を知ってるって言ってたけど、その辺も教えて欲しいなあ」



俺の事情も話したし。お銀ちゃんが話してくれるまで待っていたけど、一向にそんなことないし…とじー。


あれからひと月だよ?


彼女の素顔も見たことなければ素性もいまだにわからない。

惚れた女のことをもっと知りたいのは男として当然であろう。


お銀はその言葉にため息をつき、では話しましょうか。と小百合にお茶の用意を頼み、運ばれてきたそれを縁側で日向ぼっこしながら皆でいただく。


ようやく鬼女の出生の謎が解ける。と期待して、弥勒と大牙も佇まいを整え、聞く姿勢をつくった。




お銀

「私も、母を殺されました。大事な母を」




鬼狩りが現れたあの日。



村から黒煙が立ち上っていること、その喧騒に気付いた母は木のウロに私を隠し、コロと共に増えゆく人間の兵士たちと戦うも毒矢に倒れ、私を連れて逃げろとコロに命じた。




お銀

「最後に見たのは母の笑顔と、私たちを守るために立ち塞がったその体に突き立てられゆく槍、刀…」




あの日に母と共に狩った銀狐も、いい着物を買って、美味しいものを買うために保管していた猪の皮も、奴らに奪われた。




私はその時、一本の矢を身に受けて生死の境を彷徨うことになり、とある良心を持つ人間に救われた。



動けるようになってから、あの村に戻り母の亡骸を探した。赤子も老人も、女も男も関係なく首を取られ乱雑に集められていた中からコロが見つけてくれた。


頭蓋骨をなぞる。


よく見れば刃傷や打撲跡がある。これまでの戦いを物語っているようだ。




お銀

「それで私は、復讐を誓いました。あなた方と会った時に食べていたあの人間も、村を襲った一味…」




色々ありましたが、奴らを地の果てまで追いかけ、子々孫々もろとも殺してやるため、こうして生き延びています。


全てが終わったら、母のこの頭を、愛していた景色の良い場所に埋めるつもりだとお茶を置くと仁を見やる。



ズビビィッ!!!



盛大に鼻を啜る音が隣から響いた。

ドン引きするほど泣いてる…。




「ふぐぇっ、うぉぅ、うぉぉう…」



お銀

「…」



これが男泣きというやつか…と思いつつ、静かに手拭いを渡して人2人分離れた。

あれ?なんか距離空いてない?



「復讐を決めてからはコロと二人…二人?ぼっちでいたのか?」



その言葉にコロを見上げ、首筋を優しく撫でた。

短毛だからふかふかとはまた少し違った触れ心地。



お銀

「そうでもありませんでした。ある時を境に音沙汰がなくなっていたとおっしゃっていたでしょう?」



あれはとても寒い日のこと。

雪風吹き荒ぶような世界にたった一人、そして1匹になる前だった平和な日々から語り始めた。



その間コハクがクロにお話を聞くため騒がないよう抑え込まれ、ウギュゥゥゥー!とうめいており、たぬきの小百合がハラハラしながらお茶の用意をして、それを弥勒がフォロー。大牙はちゃっかりお銀のそばにくっついて腹を出して甘えている。


それにあとで痛い目に遭わせると決意しつつ、今は話に集中することにした仁。







──────











雪風吹き荒ぶ山の中。



木々の狭間からパキポキと木の枝が折れる音が響く。



そこから飛び出したるは大猪。



大猪の目にうつる小さないきものは斧を持って震えていた。











    






  










   






  










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